私は17歳の普通の女子高生です
誰かが自分を呼ぶような気がして意識が浮上していくのを感じる。自分は眠っていたのだろうか。エレベーターの中で意識を失って病院に搬送されたのかなと、ぼんやり考えをめぐらしていると、今度はハッキリと名前を呼ばれるのを感じた。自分の名前である聖来ではなく、“セイリーン”と言う名前で呼ばれているが…。
(隣に入院している子でもいるのかな?お隣さんさんは外人?)
などと思いながら目をゆっくりと開くと、目に映るのは薄ーいピンクのレースに囲まれたベッドが見える。いわゆる天蓋つきベッドだ。
「天蓋付ベッド?ラグジュアリーな個室に入院でもした?めちゃお金かかるんじゃないの!?」
思わず声をあげると、部屋の外から礼儀正しい若い女性の声がしてきた。
「お嬢様、お目覚めですか?入りますよ」
人が近づいてくる気配があるが、天蓋のレースがあって姿は見えない。すぐ近くまで近づいてくると、上品なしぐさで天蓋のカーテンを開いて先ほどの声の女性の顔が見えた。白い肌に栗色の髪色と瞳の色で彫りが深く、見るからに海外の方だ。
女性の服装はいわゆるメイド姿。白襟が付いた黒色のワンピースに清潔感のある白色エプロンを身につけてメイドそのものだ。きちんとヘッドバンドまで身につけている。
「セイリーン様、お目覚めになられましたね。何やら叫んでいらっしゃったようですがご気分はいかがでしょうか?」
(???)
言葉は日本語ではないようなのに、自然と話している言葉が理解できる。不思議な状況に目を見開いて固まる私だったが、メイドさんは構わず話し続ける。
「お嬢様が急にお倒れになったので、旦那様や奥様たち皆様が心配してらっしゃいます。私もとても心配でしたわ」
私がベッドで寝そべっている状態で、知らない方に親し気に話しかけられているのは異様だろう。話の内容もよく分からないことを言ってるし。完全に私はパニックに陥った。
「あの、人違いではないですか?私、岡山聖来といいますが。」
「はい?オカヤマ?倒れて起きてすぐの言葉がそれですか?冗談もホドホドにしてください」
「冗談て!私はあなたを知りませんし、急に何なんですか!」
「私を知らないなんてあんまりです!お嬢様が5歳の頃からお仕えしているオランジェをそのように言うなんて!ヒドイです!」
なぜかキレられた。知らないものは知らないし。危ない人なのかもしれない。
「もしかして、今日は記憶喪失ごっこの趣向でいらっしゃいます?お嬢様ってたまにとてつもないことお考えになりますよね」
オランジェさんという方はプリプリしている。話が通じないので、自分の置かれた状況を冷静に把握するべく身の回りの様子を探ってみることにした。床に足をついて天蓋のレースを開いてみる。
「え!ここどこっ!?」
猫足の家具に歴史を感じる西欧風の室内が目の前に広がっている。病院に入院したと思ったけれど、もしかして誘拐でもされた?......メイドの恰好させてご奉仕させるような頭のおかしなヤツに......。真っ青な顔をして呆然としてただずんでいると、先ほどのメイド服の女性が話しかけてきた。
「お嬢様、お顔が真っ青です。まだお加減が本調子ではないのですから。突然、動きだしたら身体がついていきませんわ。本日はゆっくりと休みましょう」
「ここはどこなんですか?私は......」
とメイドに振り向きながらメイドに問いかけると、部屋の壁に取り付けられた大きな鏡が視界に入った。大きな姿見の中に写る人物が、私と同じタイミングで同じように動いているじゃないか!
鏡の中の人物は、薄いパープルの髪にロゼカラーの瞳の少女。まるで少女マンガに出てきそうな美少女だ。あんぐりと開いた口は少々だらしない間抜けな表情だが。
イヤな予感がするが、口の動きもピッタリ。頬に手を添えると鏡の中の少女も頬に手を当てている。あれは…あれは私?
「お嬢様?室内シューズをお履きにならないなんて足が冷えてしまいますよ。旦那様たちにお嬢様が目覚めになられたことをお知らせして参ります。もう少しベッドで休んでいましょうね」
メイドが私の両肩をやさしく包み、ベッドに引き戻す。やたらリアルな夢に驚いたままだが、これが夢の中ならば眠れば夢から覚めるかもしれない。
(お金にゆとりがある暮らしをしたい願望はあるけれど、こんな異世界のお嬢様になった夢を見るなんてお金に相当執着しているのかしら私ったら!)
夢と決めつけた私は何がなんだか分からないことが起きたストレスで、眠くなってきてしまった。夢の中でまた寝るなんて変だけど、ひとまず眠ることにした。
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