異世界に転移したらイケメン達に求愛されています!せっかくなのでモテスキルを身につけて元の世界に戻ることを目指します!
大井町 鶴
◆第一章 まさかの異世界転移編
プロローグ
「まずい......遅刻する!」
聖来は焦っていた。女子高生の朝は忙しい。いつもなら5時半には起きて、髪の毛と学校でギリセーフのナチュラルメイクをしてから家を出る。なのに、今日に限って目覚まし時計が鳴らないピンチが発生してしまった。
夜遅くまでスマホをいじらせたくないママのせいでスマホの目覚まし機能を使えないのは不便だ。もう17歳なのに、夜10時までしかスマホを使えないようにするなんて横暴じゃないだろうか。うちのママは過保護過ぎる。不満を何度も訴えているが、全て敗訴している。ママは絶対に折れてくれない。うちはママの権力が絶大なのだ。
......それにしてもまつ毛をカールできなかったのはイタイ。私のまつ毛はフサフサなのでカールさせて透明マスカラを塗るだけでかなり“映える”ようになる。まわりの子からも評判が良いので、カールだけはしておこうと思っていたのに。
(本日はまつ毛も下向きだし、気分も下向き...)
うちの学校には肩につく長さの髪の毛は結ばなくてはならない校則があって、学校にいる間は髪の毛を結ばなきゃいけない。だから、後が付きにくいコイル型ゴムを使って髪をまとめているのだが、今朝それだけはスムーズに見つけられた。割とズボラな私は、髪ゴムをどこかになくしてしまうこともしばしばなのでそれだけは見つかって良かった。
(こんな時に限ってメチャクチャ混んでいるな~)
電車内は混雑しており、目の前のオッサンはやたら雑菌臭い。“汗臭いなら早起きしてシャワー入ってこいよ”と、起きられなかった自分のことを棚に上げて思わず毒づいてしまう。
“備えあれば憂いなし”がモットーの母に影響されて、割と自分もせっかちな性格であるのに寝坊で遅刻しそうだなんて今の状況は苦痛だった。
寝坊したせいで朝ご飯は食べられないし、身だしなみも全然できないし、お昼に食べるお弁当も持ってくるのを忘れたし。
(お弁当を忘れて来たからママ怒ってるだろうなー)
お昼は近くのコンビニに行くしかないかなぁなんて考えていると、目の前に勉強している他校の生徒が目に入った。
(こんな混んでいる電車の中で勉強とはエライなぁ。まあ気持ちは分かる)
聖来の高校は中高一貫の進学校なので、勉強をしていないとすぐに置いて行かれてしまう厳しさがある。授業ごとの小テストや月1の模試に理科のレポートなど、やることがたくさんある。
まわりの友達の中にはさらに塾に通っている子も少なくない。大学付属校ではないので、みんな結構マジメに勉強している。
(うちは塾に通う余裕なんてうちにはないし、しっかり勉強しなくちゃな)
我が家はパパが中堅メーカー社員でママはパートとして働いている。私の下には小学4年生の弟がいて“受験したい”とか言い出しているから倹約は必須なのだ。
私立校に通わせてもらっている身で言うのもなんだけど、私立の学費は高い。私と同じように弟も塾通いからの私立受験は、莫大なお金がかかる。浪人しないように現役合格を目指してやるしかない。
(あーあ、将来はお金があって優しくて優雅な生活をさせてくれる人と結婚したいなー)
うちの学校の男子の中には将来、有望な人もいるかもしれないが、今のところ私のお眼鏡に叶う男子は見たことがない。皆、幼く見えて頼れるような理想的な人は皆無だ。私が把握しきれてないだけかもしれないけど。
なんだかんだ考えていると、学校の最寄り駅に着いた。モミクチャにされながら電車から出ると、目の前にはタイミング良くホーム階に着いたエレベーターの扉が開いているではないか。
(いつもなら階段だけど、ピンチな時くらいエレベーター使ってもいいよね?)
人数制限ギリギリのエレベーターにやや強引に乗り込んだ。乗り込んだ後に気付いたのだが、無理して乗り込んだせいで前に立っているおばあちゃんの身体に私の肩掛けタイプの通学カバンが軽くめり込んでしまっていた。
身動きできないほどエレベーター内はビッチリなので申し訳なく思っていると、おばあちゃんがジッと見つめてきた。何だか観察されているようにジロジロと見られる。非難されているのだと思うと居心地が悪い。自分が悪いが。
一瞬、おばあちゃんがウィンクしたように感じた。
(おばあちゃんが何故、私にウィンクを?)
突然のウィンクに気味悪くなり早くエレベーターの扉が早く開くのを願ったが、何だか目の前が突然、真っ白になってきた。心臓もドクドクと脈打っている。持っていたカバンも肩からずり落ちていくのを感じる。息苦しくなり、息を吸うことだけに意識を向けたが上手に息ができない。
だんだんと意識が遠のいていくのが分かった。
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