第2章 15話 サフの想い②

「シーファウとは、子供のころは親友だったんですよ」


「親友、ですか?」


「私の家は公爵家だから、シーファウとは血縁関係にあるんです。王子や王女、年の近い子供で集まって遊びました。シーファウはその中で、一番純な子で、人気者でしたよ」


 純という言葉に、アイリーナは眉を寄せてしまう。


 サフは困り顔で続けた。


「シーファウは、私より三つ年下で。私のことは兄さまと呼んでいました。本当の弟になりたかったようです。兄たま兄たまと、かわいかったですよ」


 に、兄たま?


 あのシーファウ王子が? それにかわいいって。


 ……なんだか、うらやましい。アイリーナは心でつぶやいた。


 サフが『兄たま』と呼ばたことではない。

 それをみかんがいったら、どんなにかわいいだろうと想像したからだ。


 みかんがわたしのことを『姉たま』と呼ぶ。

うん、すごい幸せ。いい話を聞かせてもらった。


「ね、ねえ、みかん」


 アイリーナは、テーブルの下でおもちゃで遊んていたみかんにささやいた。


「わたしのこと、姉たまって呼んでみて」


 みかんはふしぎそうな顔をする。つぶらな瞳でじっとアイリーナを見た。


「うん、姉たま」

「ありがとう、みかんたま」


「姉たま」

「みかんたまっ」


 アイリーナはみかんをぎゅっと抱っこした。


「かわいいですね。みかんさま」

「シーファウ王子もかわいかったですか?」


 つい、『も』をつけて訊いてしまう。サフはふしぎそうな顔をするが、聞き流してくれた。


「シーファウさまは……」

 サフは苦笑する。


「子供のころのシーファウは、それはそれは純だったんですよ。深窓の王子の呼び名がぴったりでした。聖獣さまに愛されたのを、皆が納得するくらいに」


 それはそれは純……。

 そして人気者? シーファウは、そんなに友人が多いタイプには見えなかった。


 どんな友達がいたんだろう。


「私も、その誠実さに、すっかりやられてしまいました。私は公爵家の長男ですから、それなりに野心もあったのですが、いつの間にか消えていたんですよ」


「そんなに誠実だったんですか?」


「今でも、根は変わっていませんよ。長い年月の間にいろいろあって、すっかり表は変わってしまいましたが」


「その、いろいろって……?」


 サフは困ったようにわらう。それだけで、なにも答えなかった。



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