第2章 11話 聖獣とシーファウ①

 アイリーナはつい、シーファウに見入る。


 聖獣のことを語るシーファウは、いつもとどこか違っていた。


 穏やかだが強い思いを秘めた目で、そして、一瞬だがすがるような表情をした。


 聖獣をただ敬愛しているようだ。


 風に揺れるやわらかな金の髪、細身の儚げな姿。


 聖獣の森を前にしたシーファウは、噂通りの深窓の王子に見えた。


「シーファウ王子が聖獣さまに初めて会ったのはいつですか? 祝福をもらったのは?」


「子供のころだよ。森の入り口で遊んでいたら、水音がした、森の中に大きな泉があって。波紋が広がっていて。ぴちゃんぴちゃんと空気を震わせて。泉に立つ聖獣さまがいたんだ」


 シーファウの瞳が、透きとおるような水色になる。


「聖獣さまは森の外に出てきて俺の前に立って。角に触れさせてくれた」


 それが祝福の印だったんだよ。


 うれしげに、自慢気にシーファウはわらう。


「祝福をもらう人は千人に一人くらいなんですよね」


「う、ん……。もっと少ないかな? 今、この国では数人しかいないよ」


「聖獣さまと遊んだりするんですか?」


「それはないよ。会ったのはそのときだけで……。夢の中には何度も来てくれるけどね」


「夢、ですか?」


「うん。夢だけど、ただの夢じゃなくて。聖獣さまは祝福した人間に会うとき、夢を使うと思うんだ」


 ……ああ、夢の中では話したり、遊んだりするよ。


 俺は聖獣さまの毛並みを整えたりするんだ。


 シーファウはまた自慢気にわらった。

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