第2章 3話 シーファウの喜び①

 なんで?


 今のはなに? なんでシーファウ王子は、わたしとみかんの真似をするの?


 シーファウは目を細め、机にもどっていく。なぜか心底うれしそうにしていた。


 なんで?

 なにがうれしいの? なにがしたいの?


 アイリーナは震えあがった。王族ってなにを考えているか分からない。怖い。


 シーファウがすわっている場所には、ベールのような陽射しが差している。


 その向こうのシーファウの姿は儚げで美しい。 また魅了されそうになり、アイリーナは頭を振った。


 窓から差し込む陽射しは、部屋にある水晶の置き物の色も変えている。

 光が通っている部分だけ、色が薄くなる。


 美しい色合いだった。


 シーファウの私室には、水晶の置き物がいくつかある。庭にも大きな水晶の原石がある。


 この離宮は、聖獣をイメージして造られたから、水晶が多いのだそうだ。水晶は聖獣の角に似ているからだ。


 離宮の壁は、聖獣の体の色と同じ白。そこに薄水色の水晶が飾られた、美しい離宮だった。


 初めて離宮を見たとき、アイリーナはこんなきれいな建物が存在するのかと、思わず見惚れた。


 深窓の王子のイメージにぴったりだった。離宮の前に立つシーファウはさらに美しかった。

 儚げで消えてしまいそうだった。


 中身は闇の王子なのに、アイリーナはそれを忘れた。


 離宮に来てから二日。


 アイリーナは離宮で、なにもすることがなかった。


 呪いのことは秘密だといって、やっぱりなにも教えてもらえない。解けない呪いなのだろうが、解く努力もしてもらえない。


 シーファウが呪われていたことは、国の最高機密らしい。

 聖獣に愛されて、純粋で美しいと評判の王子。

 王族の中で、一番国民に人気がある。その彼のわるい噂は、王室のイメージダウンにつながる。


 だから、彼は離宮から出なかった。聖獣さまの意志で籠もることにしていた。


 深窓の王子の裏には、そんな事情もあったのだ。

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