第2章 2話 シーファウの離宮で②

 アイリーナはグラスを中央に移した。わんこには、ちょっとした物でも危険だ。細かい気配りをしないといけない。


「無事でよかったよ、みかん。待っててくれてありがとう」


 アイリーナはみかんにいい子いい子した。


「なにをしているの?」


 そのとき、背後で声がした。シーファウがふしぎそうに覗き込んでいた。


「遊びに夢中になったみかんが、もしテーブルにぶつかったら、グラスが落ちて怪我をするんです。わんちゃんには気配りがいるんです」


 ふーんと、つぶやいたシーファウは、しばらくなにかを考えていた。ずいぶん長い間そうしていて、

やがて、ゆっくりと体を起こす。


 床の上に放置されていたみかんのボールを指差した。


「アイ」


「なんですか?」


「待って、アイ。そっちは危ないよ」

「危ない? なにがです?」


 シーファウはボールを拾う。


「ほら、みかんのおもちゃが落ちていた。アイが踏んだら転んじゃうからね」


「……ありがとうございます」


「無事でよかったよ、アイ。待っててくれてありがとう」


 シーファウはふいに右腕をアイリーナの方に伸ばす。頭を撫でて、いい子いい子した。


 アイリーナは呆然と立ちつくした。

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