第1章 6話 王宮の奥の深窓の王子②

「来たのが王太子じゃなくて残念か?」


 レンバードは、じっとアイリーナの表情を探ってきた。


「そんなことないよ、兄さま。わたしは王子さまを尊敬しているだけなの」


 王太子はまだ学生だが、自然や動物関連の公務の担当になっている。王宮の奥にある青泉の森を護っている。だから、余計聖獣に愛される。


 アイリーナが目指している獣医の認可も彼の仕事だ。 みんなと同じで、アイリーナも本気で王太子に憧れていた。


 それに、みかんと幸せな暮らしができるのも王太子のおかげだ。


 この国の動物の扱いは前世と全然違う。まず、動物が入れない場所がない。図書館や美術館にだって入れる。


 全てのカフェやレストランにも行ける。


 動物と一緒の通学や通勤を推奨したのも王太子だ。


 前世では、みかんを置いて出かけるのが本当に悲しかった。


 いつも一緒に過ごすのは、本当に夢だったのだ。



「残念だって、顔に出てるよ、アイ」


「そんなことないってば」


「王族なんて、やめといたほうがいいよ。王太子はよくても周りは違うんだから。あんな海千山千の生き物、関わるのは危険だよ。アイなんかやられっぱなしになるよ」


「違うよ。それに王子さまがわたしなんか相手にするはずないでしょ」


「いいや、かわいいお前を見たら、王太子なんか一瞬で恋のどん底に落ちるよ。……帰ろうか、アイ」


 サッとレンバードが立ち上がった。


「近衛には近づかないほうがいいよ。あいつさ、なんか面倒くさいし、ロクなことにならないから」


「そうなの? 挨拶くらいしないと叱られそう」


「かまうもんか。気づかれないように急ごう」


 レイバードは早足で歩きだした。


 みかんを抱っこし、レンバードの後を追ったアイリーナは、足を止めた。

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