第22話《あなたの一部をいただきます。②》
「なんだよこれ…マジで気持ち悪いって…」
大輝は震える手でスマホを見つめていた。画面に表示されたメッセージ、「次はあなたの番です。」という文字がどうしても消えない。
「ねぇ、大輝、それ本当に掲示板から来たの?」
里奈が心配そうに覗き込む。
「いや、そんなはずないだろ。俺、掲示板なんか触ってないし…これ、何かのウイルスか?」
大輝はスマホを再起動しようとするが、画面は固まったまま動かない。再起動をしても、表示は消えることなく残っている。
「これ、何かのドッキリじゃないよね…?」
愛美も不安げに自分のスマホをチェックする。彼女もまた、同じメッセージを受け取っていた。
「いや、さっきはただの冗談のつもりだったんだ。誰かがふざけてるだけでしょ。こんなの、気にしすぎだよ。」
翔太はまだ余裕を見せようとするが、その声にはいつもの自信はなかった。
「でも、どう考えてもおかしいじゃん…こんなタイミングで、しかも全員に?」
里奈が問いかける。彼女もまた、自分のスマホに目を落としていたが、何も表示されていないようだった。
「俺たち、誰かに監視されてるってことか?いや、そんなはずない…ただの偶然だ。」
大輝は自分に言い聞かせるように呟くが、心の奥底では、これがただの偶然でないことを理解していた。
「ねぇ、もう一回掲示板に戻ってみようよ。何か手がかりがあるかもしれないし。」
里奈が提案する。彼女は不安そうな表情をしていたが、何かを確かめたいという意志が強かった。
「おいおい、まだ続けるのかよ?」
翔太は呆れたように言うが、結局は皆と一緒に再び掲示板を開くことになった。
「ねぇ、次は私が質問してみてもいい?」
里奈が恐る恐るスマホを手に取り、掲示板に書き込み始める。
「『どうして私たちに答えてくれたの?』」
彼女の手が震えながらキーボードを叩く。その瞬間、画面が暗転し、返事が表示された。
「今度の相手はあなた方が選ばれたからです。」
「選ばれたって…どういうこと?」
里奈が画面に向かって問いかけるように呟いた。
「選ばれた…?何のために?」
翔太が声を荒げてツッコミを入れるが、誰も答えられない。掲示板は再び静寂に包まれる。
「やっぱり、これヤバいんじゃないのか?」
大輝が言う。全員がその場に緊張した空気を感じ、次第に笑い話では済まされないことに気づき始めていた。
「ねぇ、もうやめた方がいいんじゃない?こんなことに関わるのは、なんか嫌な予感がする。」
愛美が怖じ気づいた声で言う。彼女は普段の明るさを失い、手元のスマホを見つめるだけだった。
「でも、どうやってやめればいいの?すでに私たちは、何かに巻き込まれてる気がする…」
里奈が呟いたその時、彼女のスマホが再び振動し、メッセージが表示された。
「『次はあなたの足をいただきます。』」
「えっ?」
全員が一瞬にして息を飲んだ。冗談ではない。これまでのどこか曖昧な怖さとは違い、リアルな恐怖が彼らを襲った。
「足って…何だよ、足をいただくって…誰の足をいただくんだよ…!!」
大輝が口を開くも、誰もその意味を理解できない。だが、直感的に「それ」は物理的な何かではないと感じていた。
「やばい、これ本当にやばいんじゃね…!?なぁ、俺たちはここからどうしたらいいんだ…?」
翔太が焦った声で言う。彼の顔は青ざめていた。ついさっきまでの軽口はもうどこにも見当たらない。
「逃げよう…ここから離れようぜ。何かがおかしいんだ。」
大輝が提案すると、全員が同時に席を立った。喫茶店の出口に向かって走り出すその瞬間、愛美が突然悲鳴を上げた。
「あ、あれ…?なんかふらふらして……えっ…なにこれ……!!?ちょ、ちょっと待って!私…足が…」
彼女は倒れ込み、足を押さえていた。まるで足に何かが絡みついたかのように、動かせなくなっていたのだ。
「愛美!?どうしたんだよ!何があった!!」
里奈が駆け寄って彼女を支えるが、愛美は苦痛に顔を歪め、必死に足を引きずろうとしている。
「動けない…何かが…私の足に…」
愛美は息を荒げながら、恐怖に満ちた目で足元を見つめる。だが、そこには何も見当たらない。
「嘘だろ…一体何が…?」
大輝は恐る恐る愛美の足を確認するが、何も異常は見つからない。だが、確かに何かがおかしい。何かが彼らのすぐ近くにいるとしか思えなかった。
「…逃げよう、ここじゃ危ない!」
翔太が愛美を抱え上げると、全員で店を飛び出した。その後ろで、スマホから再び通知音が響く。
「次はあなたの心臓をいただきます。」
通知音の声は老婆とも少女とも分からない不気味な女性のものだった。
「おい…これって…俺たちの誰かが狙われてるってことだろ?」
大輝が必死にスマホを確認するが、メッセージはどんどんエスカレートしていく。
「どうすれば…どうすればいいんだよ…!」
里奈が叫ぶように言うが、答えは見つからない。彼らの周囲に漂う不気味な気配はますます濃くなり、逃れられない現実を突きつけられていた。
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