第18話《乗り換え不可能④》
「…あの、乗客がまた一人、消えた。」
佐藤の声は震えていた。私は彼の言葉を聞き、反射的に周りを見渡す。しかし、消えていったのが誰なのかさえ分からない。乗客の数が確実に減っていることは、私たちにとって紛れもない現実だ。最初は十数人いたはずの人々が、今では半分ほどにまで減っていた。
「どこに…行ったの?さっきまで、そこにいたのに…」
私は呆然と呟く。しかし、答えは返ってこない。乗客たちはただ静かに、何かを見つめている。彼らの顔は相変わらず無表情で、異様な空気を漂わせていた。
「おい、冗談だろ…また、消えたぞ!」
佐藤がカメラを手に、消えた場所を必死に撮影しているが、そこには何の痕跡もない。まるで、初めから存在しなかったかのように乗客たちが消えていく。
「ちょっと待って、どうなってるの…何が起きてるの!?」
私は焦りのあまり叫んでしまった。こんなこと、現実であり得るはずがない。なのに、目の前で次々と乗客が消え去っていく。
「見えないんだよ…奴ら、消える瞬間が見えない。」
佐藤が苛立ち混じりに呟く。彼のカメラが捉えた映像にも、何一つ異常な瞬間は映っていなかった。ただ、人が消える。まるでこの世からスッと抜け落ちるように。
「どこに消えたんだ…?まさか…」
私は頭の中で、考えたくもない可能性が浮かび上がった。彼らは、元の世界に戻れなくなったのだろうか。それとも、私たちが知らないどこかに連れて行かれたのか…。
その時、一人の乗客が何かを呟きながら立ち上がった。ぼろぼろの服を着た老人だ。彼は、まるで何かに取り憑かれたようにふらふらと歩き始めた。
「もう…帰れない…ここからは…行けないんだ…」
彼は意味不明な言葉を繰り返していた。そして、突然視界から消えた。まるで煙のように、跡形もなく。
「消えた…また一人…」
私は呆然とその場に立ち尽くしていた。言葉が出ない。目の前で繰り広げられる現実が信じられなかった。
「俺たちも…消えるのか?」
佐藤が恐る恐る口にする。私も同じ疑問を抱いていた。私たちも、やがてこうして消えていくのかもしれない。
「いやだ…私は絶対に帰るんだ!こんな場所で終わりたくない!」
私は叫び声を上げ、必死で電車の出口を探し始めた。だが、出口はどこにもない。ドアは固く閉ざされ、外には薄暗いホームが広がっているだけ。
「ここから…出る方法があるはずだ。どこかに…どこかに…!」
私は焦りながら周囲を見渡したが、見えるのは消えていく乗客と、無表情でこちらを見つめる人影たちだけだった。
「もう…誰もいない…」
気がつけば、私と佐藤、そして数人の乗客だけが残されていた。次に消えるのは誰なのか。恐怖が私たちを静かに蝕んでいく。
「佐藤…どうする?このままじゃ…」
私は涙声になりながら、彼に尋ねた。佐藤も答えが見つからない様子で、ただ無言でカメラを回し続けている。
「俺たちも消えるのか…?だが、そうはさせない。絶対に…!」
佐藤がカメラを振り回しながら叫んだ。その声が虚しく響く中、さらに一人の乗客が消えた。
「やめて…やめてよ…もう誰も消えないで…!」
私は絶望に打ちひしがれ、ただその場に崩れ落ちた。だが、私たちの叫び声は、この異様な空間にただ吸い込まれていくだけだった。
「…私たちも、もう時間がないのかもしれない…」
佐藤が低く呟く。私たちは今、確実に迫り来る何かに飲み込まれつつあった。
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