「恋する乙女と怪文書の謎」5

身支度を終え、慌てて外に出る。

 すると、家の前で姉と折座屋が楽し気に談笑していた。

「ご、ごめん、待った」

「ん? ああいや、大丈夫だ。俺の方こそ済まないな。いきなり来て」

「ふーん? 約束してたわけじゃないんだ」

「そうですね。俺がちょっと用事があって」

「へー、ところでさ、折座屋くん」

 姉はガッと折座屋の肩に腕を回す。その際、胸部の柔らかな感触に触れたが、折座屋は意識して無反応を貫いた。

「……君、妹とはどこで出会ったの?」

「ええと、なんでそんな事を?」

「ま、あれの姉としては、聞いときたいなって思って」

「はあ……出会ったのは学校ですね」

 折座屋たちは何やら話し込んでいた様子だったが、小声だった事もあり武村には聞こえなかった。

「あーあーあーあーあーあー」

 武村は無理矢理二人の間に体をねじ込むと、早口で折座屋にまくしたてる。

「はやく、はやく行かないと遅刻しちゃう」

「え? でもまだ時間は……」

「いいからいいから」

 武村は折座屋の手を引いて家、というより姉から離れる。

 後ろを振り返ると、姉が手を振っていたが、無視した。

 少し歩き、路地を曲がる。そこで立ち止まって、息を整える。

 段々と心臓の鼓動が落ち着いてきた。それでもいつもより激しい気がするのはなぜだろう。

 落ち着け、落ち着け……そう自分に言い聞かせる。

「……別に急がなくてもよかったんだが」

「いや……ええと、まあそうなんだけれど」

 武村はぐるぐると視線をさまよわせる。

 さて、なんと言い訳をしたものだろうか。というか、言い訳は必要なのだろうか。

 必要か必要でないかはわからなかった。が、それは今は置いておこう。

「ところで、どうしたの? わざわざうちまで」

「ん? ああ、昨日の件なんだが」

「阿手内先輩の事?」

 そうだ、と折座屋はうなずいた。

 頭ひとつ分以上は背丈が違うので、武村は折座屋を見上げる。

「何かわかったの?」

 とい訊いたところで「はて? どうしてわたしの自宅がわかったのだろう」と疑問に思ったが、今は脇に置いておく事にした。

 それより、阿手内の問題を優先しよう。

「ああ、まだ何もわからん」

 折座屋は胸を張って自信たっぷりにそう言うので、武村は虚を突かれたような気分になった。

「ええと……じゃあどうするの?」

「俺の知り合いにこういうのが得意な奴がいるから、そいつに相談してみようと思っている」

「へえ……そんな人がいるんだね」

 折座屋の言う「こういうのが得意な奴」とは一体どんな人なのだろう。

 折座屋の知り合いなのだから、きっといい人に違いない。

 武村はそう想像して、ちょっとだけ楽しみになった。

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