「恋する乙女と怪文書の謎」4

●●●

 

 

 

 翌日。よく晴れた朝の事だった。

 武村は自室の布団の中で、もぞもぞと動き出す。

「……もう朝か」

 昨晩はよく眠れなかった。原因はわかっている。

 阿手内の悩みの種である手紙の差出人を探す事になったからだ。

 それも、折座屋と。

 折座屋と二人で出掛けたりするのだろうか。

 その様子を想像して、武村は起き抜けにも関わらず体温が上昇する。

「……顔洗ってこよう」

 武村は若干汗ばんだ顔をパタパタと手で仰ぎながら、洗面所へと向かう。

 男女交際をするわけではない。デートでもない。

 困っていた先輩を助けるために行動するだけだ。だから、あまり色々と期待するのはよくない事。

 頭ではそうわかっていても、心臓は早鐘のごとく鳴り響いていた。

 頭を洗っている間、歯磨きをしている間。

 身支度をしている間も、胸の高鳴りは鳴り止まず、ちょっと五月蠅かった。

 誰かにバレるかもしれない。それはかなり恥ずかしいな。

 武村は鏡の中の自分を見ながら、軽く頬を叩く。

「……気合を入れないと」

 などと考えていると、洗面所の扉が開いた。

 現れたのは、姉だった。肩口で切り揃えられた茶髪が曲がっている。

「あ、お姉ちゃん、ちょっと待ってね」

「んー……それはいいんだけど、急いだ方がいいんじゃない?」

「え? なんで?」

「なんでってアンタ、彼氏来てるよ」

 姉の放った衝撃発言に、武村は思わず変な踊りを踊った。

 その際、右足の親指から中指までを思いきり打ち付けてしまう。

「あう……」

 武村はその場に蹲り、悶絶した。姉はそんな妹の様子を見て、洗面所から姿を消したのだった。

「……お姉ちゃん、わたし彼氏なんて……いない」

 という呟きは、ただ空しく反響するだけだった……。

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