「恋する乙女と怪文書の謎」4
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翌日。よく晴れた朝の事だった。
武村は自室の布団の中で、もぞもぞと動き出す。
「……もう朝か」
昨晩はよく眠れなかった。原因はわかっている。
阿手内の悩みの種である手紙の差出人を探す事になったからだ。
それも、折座屋と。
折座屋と二人で出掛けたりするのだろうか。
その様子を想像して、武村は起き抜けにも関わらず体温が上昇する。
「……顔洗ってこよう」
武村は若干汗ばんだ顔をパタパタと手で仰ぎながら、洗面所へと向かう。
男女交際をするわけではない。デートでもない。
困っていた先輩を助けるために行動するだけだ。だから、あまり色々と期待するのはよくない事。
頭ではそうわかっていても、心臓は早鐘のごとく鳴り響いていた。
頭を洗っている間、歯磨きをしている間。
身支度をしている間も、胸の高鳴りは鳴り止まず、ちょっと五月蠅かった。
誰かにバレるかもしれない。それはかなり恥ずかしいな。
武村は鏡の中の自分を見ながら、軽く頬を叩く。
「……気合を入れないと」
などと考えていると、洗面所の扉が開いた。
現れたのは、姉だった。肩口で切り揃えられた茶髪が曲がっている。
「あ、お姉ちゃん、ちょっと待ってね」
「んー……それはいいんだけど、急いだ方がいいんじゃない?」
「え? なんで?」
「なんでってアンタ、彼氏来てるよ」
姉の放った衝撃発言に、武村は思わず変な踊りを踊った。
その際、右足の親指から中指までを思いきり打ち付けてしまう。
「あう……」
武村はその場に蹲り、悶絶した。姉はそんな妹の様子を見て、洗面所から姿を消したのだった。
「……お姉ちゃん、わたし彼氏なんて……いない」
という呟きは、ただ空しく反響するだけだった……。
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