「恋する乙女と怪文書の謎」3

「なるほど……大体話はわかったと思う」

 折座屋は吐息を吐きながら、そう呟いた。

 隣には阿手内。阿手内を挟んでもう一つ隣に武村が陣取っていた。

「……ところで、どうして私が真ん中なのかしら?」

 阿手内は小首を傾げ、武村に問うた。武村は適当な返答を探して虚空へ視線をさまよわせる。

「どうしてと言われましても」

 武村は身を縮こまらせて、ちらりと折座屋を見る。

 丁度、折座屋と目が合った。かーっと体温が上がる。

 その様子を目の当たりにして、阿手内は何かを察したようににやりとした。

「まあなんだっていいわ。それでね、折座屋くん」

「こいつを俺にとっちめて欲しいという事ですか?」

「とっちめて……というより、犯人を見付け出して欲しいというか……」

 阿手内は不安そうに、紙片に視線を落とした。

 この手紙の差出人は何を考えて、こんな事をしているのだろう。

 内容的に、明らかにプライバシーを犯している。阿手内としては、これ以上手紙を貰うのは遠慮したいと考えていた。

 端的に言って、気味が悪い。

「犯人……と言っていいのか俺にはわかりません。けれど、困っているのなら引き受けます」

 折座屋はパンッと膝を叩いて、そう請け負ってくれた。

 阿手内は内心でほっとしつつ、疑問にも思っていた。

 本当にこれでよかったのだろうか、と。

 考えてみれば、折座屋とはほとんど会話らしい会話をした事がなかった。

 同じ道場で汗を流す間柄とはいえ、学年も違うし部活動以外での接点もない。

 そんな後輩にこんな頼み事をするのは、今更ながらに気が引ける部分があった。

「あの、無理はしなくていいから」

 なんて言ってみたのは、罪悪感からだろうか。

「大丈夫ですよ。俺、腕っ節には自信あるんで」

 そう言う折座屋は頼もしい限りだが、阿手内としては本心から無茶はして欲しくはなかった。

 今からでも、取り下げるべきだろうかと不安になる。

「大丈夫です、なんだったらわたしも一緒にいるので」

 横から武村にそう言われて、阿手内は喉まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。

 やっぱりいい、とは言えなかった。先輩として、彼らの身の安全を優先するべきなのだろうけれど。

 それ以上に、薄気味の悪さから逃れたいという気持ちの方が強かったから。

「……ありがとう。お願いします」

 そう言って、後輩二人に頭を下げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る