第2話 異母兄妹

 少女は名をティタニアと言いました。そして赤子は、パックと名づけられました。


 ティタニアが暮らすことについては、当然に反発がありました。しかしオベロンは意に介さず、その献身はやがてティタニアの笑顔を引きだしました。

 ティタニアの純真はやがて里の者たちの心を溶かし、パックとともに里の一員となりました。


 ある日のこと、オベロン、アーチン、ティタニア、パックの四人は、森の陽だまりへピクニックに行きました。ティタニアは病弱で、日光浴が必要だったのです。


 オベロンはシャツにズボン、アーチンはシャツにオーバーオール、ティタニアはゆったりとしたワンピース、パックは赤ちゃん用のツナギ――四人は、出あったころとはずいぶん印象を変えた小ぎれいな格好でした。ただし、オベロンとアーチンは彼らの伝統にのっとった裸足はだしで、ティタニアもならってやっぱり裸足はだしでした。


 かわいい花々、静かな木陰、優しい風――そして、慎ましやかなランチを堪能していたその時でした。木々と鳥獣のざわめきを縫って、かすかな泣き声が聞こえてきました。

 オベロンは、アーチンにふたりを任せ、声の方へ向かいました。


 *


 木の山を越え、木の谷を越え、木々の間を抜けたその先の木のもとに、若い男――金髪の外界人ストレンジャーがいました。


 男は森深くには似つかわぬ、町歩きのちでした。サスペンダーで止めたシャツとズボンはくたびれ、靴も失くして、大木の露出した根へもたれていました。


 オベロンは、その光景にティタニアを重ねました――なにせ男の腕の中にも、草色の髪の赤子がいたものですから。

 しかしティタニアとは違い、男は赤子を持てあましているようで、泣きわめくのをあやそうともしませんでした。ただ悄然しょうぜんとして、オベロンが近づけどうろたえる様子もありませんでした。


 赤子には、パックのような角はありませんでした。ただし耳は、ピンととがったパックやオベロンらとは違い、力なくしおれていました。手のひらにすくえどもダラリとこぼれ、その様はオベロンの憐れみを誘いました。


 *


 一方、オベロンの帰りを待つアーチンは、何か言いしれぬ不安に、かすかな焦燥を感じていました。予感が現実のものとなったその時、アーチンは片手で頭を抱え、こう言ったのでした。


「おいおい、またかよ!」


 オベロンは、男と赤子を連れかえりました。アーチンは、クドクドしく不満を述べつづけていましたが、ティタニアは快く赤子を受けいれ、パックのための乳をわけ与えました。


 ***


 赤子は、プーカと名づけられました。そして男は、名をオシアンと言いました。


 プーカの父はオシアンではなく、ティタニアにはまわしき記憶であった、パックの実父に同じでした。


 こうしてパックとプーカ――異母兄妹のふたりは、ティタニアを母として、オベロンを父として、ひとつの家族となりました。

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