第21話 天に仇なす樹
深き森に隠された、おい茂る木々の峡谷。男たちはティタニアの案内で、道なきに道を見いだし進みました。
崩れかけた古い砦に
崩れかけの
女たちは、ティタニアのような薄ぎぬの肌着一枚きりの、あられもない姿でした。子を宿して腹を大きくした者たちもいて、賊の
「ニアヴ!」
オシアンは叫び、駆けだしました。
その声に、女たちの中でひときわ目だつ、
「……オシアン……私……」
彼女の消えいる言葉を、彼女とともに受けとめ、オシアンは優しく語りかけました。
「……ニアヴ、いつかの物語の続きを、聞かせておくれ。君が許してくれるなら、どんなに遠い旅路だって、必ず追いかけていくよ。離ればなれになぞ、なるものか。君のそばにいること、君とともにあることが、僕の何よりも尊いんだ」
彼女は、オシアンの胸に顔を預けました。すべての想いと言葉をまぶたで噛みつぶし、一条の涙に変えました。
「あの……あなた方は、アトロゥを亡き者としてくださるのでしょうか?」
再会を喜びあう者たちのかたわら、とらわれの女のひとりが、おずおずと口を開きました。
「アトロゥは、悪魔の樹の化身です。みずからの樹とその分け身によって、欲望のままに、奪い、壊す……あの者が世にあって、
女は自身の身ごもった腹に、爪を立てました。体と声を震わせ、ティタニアを見ながら続けました。
「いやしき
ティタニアは、女の言葉をうつむいて聞いていました。そして頭を上げると、あどけない顔をしかめて、冷徹に言いました。
「あの者にも弱みはあります」
ティタニアは、アトロゥから特別気に入られていました。来たるべき日のため、酒に酔ったアトロゥから、いろいろと聞きだしていました。
ティタニアは激情を押しころし、言葉を続けました。
「アトロゥは、その活動に陽光を必要とします。夜の間は、みずからの樹の中で死んだように眠り、周りを配下の
***
オシアンたちは、死に物狂いで賊をかいくぐり進みました。やがてたどりついたころには、夜明けが迫っていました。
数知れず木々立ちならぶ森の中、その
シカ頭の二本角は、
シカ頭の
オシアンの携える斧は、そこまでの戦いでずいぶんくたびれていました。それでもアトロゥの樹へふりかぶり、力の限り叩きつけました。
二度、三度――幾度となく刃を叩きつけると、斧の
木ぎれを手にうろたえるオシアンの背後へ、大ナタをかざした
ギョロ目に
オシアンは、短剣を見つめました。
短剣は木製で、飾り物のようでした。
オシアンはこの木片に、命運を託しました。
木の刃は、突きたち、滑り、溝をつくりました。斬りつけ、また斬りつけ、
斬りつけ、斬りつけ、斬りつけ、また斬りつけ――
太陽がつむじをのぞかせ、
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