第10話 グリーンヘアのお茶会

 その大きなテーブルは長方形で、短い一辺にオベロンが座っていました。オベロンの左手前からアーチン、ブバホッド、オシアン、右手前からワッピティ、プーカ、パックと座しました。


 テーブルを囲んで、オベロンはフェノゼリーから聞いた話を語りました――その男は外界人ストレンジャーを引きつれてはいたが、同族のようであったこと――その男には二本の折れ角があり、パックのような木の枝だったかもしれないこと。


 オシアンは、老齢のしわをさらにしかめてつぶやきました。


「アトロゥか……」


 オベロンの話を引きついで、アーチンが言いました。


「首を刈られたボガートの体に、折れ角頭つのあたまがすげられ、動いていたそうだ。要は体を奪われ、乗っとられたと」

「その話、信じるの? 体の違いなんて」


 ワッピティの当然の疑問に、アーチンが答えました。


「ボガートの首だけが転がり、かわりに首なしのヒョロヒョロ死体があったそうだ。それに、フェノゼリーならわかるんじゃないか?」


 フェノゼリーとボガートが恋人関係であることを思いだし、ワッピティはモゴモゴと「あぁ……うん」と言いました。


 オシアンは、ケーキをつつきながら言いました。


「アトロゥならば、ありうるだろう。最後の彼奴きゃつは、首だけでって動いていたからな……あのくたばり損ないめっ!!」


 テーブルにこぶしを叩きつけるオシアンに、ブバホッドが丁寧に尋ねました。


「アトロゥとは、何者なのですか?」

「どこにでもいる悪党さ。しかし、身にありあまる力を持ってしまったがね。その力で僕の故郷を破滅させたのさ。おかげで、こんなところで餓鬼ゴブリン暮らしだよ」


 ケーキをお茶で流しこむオシアンに、ふたたびブバホッドが尋ねました。


「その力とは、パックと同じ?」


 オシアンのかわりに、パックが答えました。


「そうだろうな。そいつは、俺の種親たねおやだからな」


 平然とケーキをつつくパックにかわり、ワッピティがゴホゴホとお茶でむせていました。


 オシアンが、自慢げに言いました。


「かつてのアトロゥは、パック以上さ。しかし、今は大したこともあるまい。なにしろ彼奴きゃつの力は、この僕が奪ってやったからな!」


 オベロンは、冷静に言いました。


「しかし、フェノゼリーとボガートの裏をかくほどには、危険な相手だ。脅威は排除したい」

「俺が行くよ」

「頼めるか、パック」

「うん」


 パックとオベロンのやりとりが簡素なのは、信頼がなせるものでした。


「ちょ、ちょっと、いいワケ?」


 ワッピティの戸惑いは、お茶でむせたそれがゆえんでしたが、オベロンはほほえみとともに毅然きぜんと返しました。


「僕の息子が、信用できないかい?」


 眉根をよせ、口をとがらせるワッピティの隣で、プーカが立ちあがりました。プーカは胸に手を当て凛として、食べカスまみれの口を開きました。


「そぉそ! 私たちに任せなさいって!」

「プーカは留守番だよ」

「なんでえぇーっ!?」


 オベロンはピシャリと、しかし優しくいさめました。納得がいかず、むくれるプーカに、アーチンが引きつぎました。


「ブバホッドとワッピティを同道させる。今回は確実にしとめてもらいたい。侮辱ぶじょくには報復を、だ」


 それでもブーブーやめないプーカに、ワッピティは白い目でつぶやきました。


「……そもそも、あんたは何もしてないでしょ」


 普段からしてプーカは、パックについて行ってブラブラしているだけなのでした。


 そんな言いあいに休符を打ったのは、オシアンの言葉でした。


「お前は行かない方がいい、かわりに僕が行こう。任せておけ、策があるんだ」


 訪れた静寂に口を開いたのは、プーカでした。


「冗談はいいから、おじい」


 オシアンはふたたび、さらに強くテーブルを叩きつけ声を荒らげました。


「策があると言っているだろう!! 君たち足を引っぱるなよ!!」


 オベロンが、穏やかにたしなめました。


「オシアン、無理をしなくていい。パックたちに任せてくれ」


 オシアンは、鼻息荒く返しました。


「フンッ! 彼奴きゃつの狙いは、そのパックかもしれないんだよ! 体を奪い、樹の力を取りもどすのさ!」

「しかし――」


 オシアンは、オベロンの言葉を遮り、骨と皮ばかりの老体を震わせ訴えました。


「長いこと預かっていた、君への借り! 今こそ、返させてくれっ!!」


 ワッピティは爪をいじりながら、けだるく言いました。


「……まぁ、いぃんじゃないの……策があんでしょ?」


 プーカは仁王だちで胸をドンと突き、雄々おおしく発しました。


「大丈夫! おじいは、私が守る!」

「あんたまでいいの!」


 そう言いながらワッピティは、抱えたプーカのほっぺたをはさみました。プーカは、開いた口に菓子を詰めこまれ、息の根を止められました。


 ブバホッドはじゃれるふたりを尻目に、アトロゥとの大体の遭遇位置を聞き、出発の準備を始めました。


 アーチンは、片手で軽く頭を抱え、パックに言いました。


「あまり人手を割けんで、すまんな。知っての通り、里はのんき者ばかりでな……」

「いいってことよ」


 パックは、いつものしかめっ面とともに言葉を返し、立ちあがりました。

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