第4話(全4話)

「死ね」


消音銃で抵抗さえしない長居の側頭部をあのホテルのボーイは撃ち抜くに至った。


「一件、落着」


そう云って銃を懐に仕舞うとひとつ溜め息をき、心の底から深い安堵感を得ていたーー案外と楽にケリがつき少々、気が抜けてしまう。


「さっきはドアに鎖をかけていたんだろう」


長居の部屋にて応援に駆けつけた中隊長は、首をかしげていた。


「きっと・・女でも呼び込むつもりで開けておいたんでしょうーー」


電気スタンドの脇には出張ヘルスのチラシが置いてある。


「間抜けな奴だな」


中隊長はそう云いながら長居の腕を取り脈を調べ、死を確認した。


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「さァ、とやっちまうゾ」


尻を叩く様にボーイを促し、車イスを入室させていった。


「重てェな、死人は!」


二人で長居を、車イスに移し始める。


「この時間帯なら本当に大丈夫なんだろうな」


「大丈夫ですよ、中隊長・・それとも、他にもっと方法論やりかたがあるんですか?」


ボーイは割と突破型の性格だ。一方いっぽう、責任があるのは中隊長なので、論争になってしまう。


「オイ、まだか?」


従業員専用のエレベーターが、来るのを待ちながら中隊長はボーイにイラ立ちをぶつけた。


「地下に食材の配達車が来てるんでしょう。待つしかありません」


十五階のそのフロアで中隊長は部屋と乗り口を、行ったり来たりしながら様子を伺う・・

未だ部屋には死体が車イスごと待機していた。

一刻も早く事を片付けたい。

一分が一時間にも思えてくる。


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「オイ、サツ(警察)だ」


窓の外を覗くとパトカーが二・三台、到着している。


「どうなってんだ!」


乗り口に居たボーイを部屋に呼び戻し、中隊長はふためいた。


「取りえず逃げて下さい」


「車イスはどうする?」


中隊長も僅かながら冷静に尋ねた。なぜか二人は寝台ベッドに遺体を戻すハメとなってしまう。


「おそらく、自分がルーム・サービスの、オーダー・ストップを報告に来たので、妙な印象を持たれたのかもしれません」


ボーイは長居を運びながら、そう答えていた。


「オレ達が此処ここへ来て、ドアをノックしてる間にサツに電話したーーとでも云うのか?」


中隊長は額の血管を浮き上がらせながら彼を強烈に問いつめた。


「そうとしか考えられません」


ボーイは半ベソをかき始めた。


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「オマエ、他に何・云った?」


ボーイは更に中隊長に問われている。

長居が夕食用の食事券を使っていなかったので、ボーイは彼にいちいち問うた、と云うのだ。


「バカヤロ」


中隊長は部屋の壁に思いきりパンチをくれた。


「ーーそれより所持品を!」


ボーイは長居のバッグを確かめたが特に目に付く物は見当たらなかった。

ーーそろそろ警官が、やって来る頃だろうか。


「どっちにしても長居はたいら小隊長の死に関与していると思われます。死んで当然です・・」


ボーイは任務を全うした自己を優先的に評価していた。一方いっぽう、焦る中隊長は返事さえ寄越よこさない。


「逃げるなら非常階段がいいと思われますが、十六階の部屋も一室ひとつ・使える様になっています」


ボーイは彼に長居のホテルの部屋の合いカギを手渡し、そう助言を述べた。

カギは中隊長が処分し車イスは当然、ボーイが片付けた。どうやら足はつかずに済む模様だ。


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<<背景、どなた様・・

この手紙を自分以外の人間が開封するとなれば、もう、この世に自分は存在していないのかもしれませんね。

何より、生まれて初めて自分自身に当てた手紙なのですからーー

受け取った方(おそらく警察の方)に御伝えしたいのですが我がで命・果てた男は、平と云い、訳有ってピストル自殺を遂げました。

(同封の遺書がその証明)

平の遺書を読んで頂くと判るように我々は国内の天才達を封じ込める”闇組織”でした。私も最初は平等を呼びかける組織と思い入隊したのですが活動に参加してみると、それは単なる人さらい・殺し屋の集団でありました。逃げたくても逃げられない・もう秘密を知ってしまったらるか殺られるしかない環境を、上司から迫られていました。

"いつか元の生活に戻りたい”それだけが、心の底に強く密かに芽生え続けていました。


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私は後悔しています。

やはり、人間は実力をつけ堂々と町を歩ける毎日を得た方が幸福なのです。

無理に人工的に平等を促したとしても決してそれは世を良くする事にはなりません。

実力をつけていなかったからこそ、要領に、走ってしまったのだと思います。過去に行った罪が報われるとは思いませんが今、全てを綴る事によって少しでも役立てたらとも感じております。

それでは・・    敬具 長居ながい 友則とものり>>


「警部ーー」


新米刑事が彼を呼び止め近付いて来た。


「長居の父親が死んだそうですが・・」


「取り敢えず家族には、この件は伝えるな」


警部は長居のアパートの玄関先に立ち、そう指示を送っていた。


「オイ、長居の購入したパソコン、至急、よこすよう、要求してくれ」


警部は彼の手紙の追伸部を読んで新米にそう促し、到着を待つ事にした。


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「来たな・・」


着くや否や、警部は入力イン・プットされているであろう情報に目を通した。


「至急、この人間達を洗え」


資料には各幹部の住所・電話番号・隊員数などが記されてある。

新米はパトカーに戻り無線を入れた。


「オイ、昼から、この山に行くゾ」


警部は戻って来た新米に組織の仕入れたで死体の掘り起こしを行う予定を告知した。


ーー総本部の無い組織ーー


そう表されたB五版の資料を警部は手にしていた。


「知らんな」


今まで全く、こんな組織があるとは、夢にも思わなかった。法人のもされなければ代表の名前も表に出ない。


「人の善意を悪用し続けてんだな、コリャ」


そう嘆いて警部はそろそろ引き揚げるゾ、と部下に指令を与え、独りうつむいていた。


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「あのーー」


覆面パトカーに乗り込もうとした時、独りの中年女性が警部に近付き、尋ねてきた。

彼女は息子の件を詳細に話し、このアパートでの現場検証の大まかな話を聞きたがった。

”Aの母だな”警部はプリントにあるAの素性とピタリ合う事を確認し、車に乗るよう呼び掛けた。”こんな時、どう切り出せばいいんだろう”彼は胸が苦しく一旦・外へ出てタバコを、吹かし始めた。

おい、あの鳥カゴも持ってゆけーーそう、若い警官を走らせていた。あの備忘録メモのせいですかーーと更に警部は新米に問われている。


だっけ。いや、そうじゃない。あのピーちゃんも斎場に連れてってやのサ」


警部はそう云って空を見上げた。今世でじゆうを得れなかった彼達に精々せいぜい、来世では思い切り翔けるよう供養する為と付け加えた。

”もうムダに苦しむ必要は無い”そう独り胸中に呟き警部は万人の幸せを強く願っていた。


(了)

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掟の目的 柩屋清 @09044203868

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