第5話 とある愚者の推測
ダメでした。
覚醒、入ってませんでした。
喜び勇んでスライムに挑んだけど、いつも通り大接戦の上で逃げられました。
俺、クソ雑魚のままでした。
◆ ◆ ◆
四死魔将が一人、『武』のジロバの襲撃から一夜明け。
壊された部分の修繕やら衛兵さんたちの手当てやらで城中がドタバタしている中、ひっそりスライムと戦いに行った俺は。
いつも通り、肩を落として帰ることとなっていた。
「……しかし、そうなってくると昨日のはなんだったんだ?」
王都への道すがら、独りごちる。
一撃が入ったのはまぁ相手がマジで油断しきってる慢心の塊だったからとして、やけに簡単に首を飛ばせたのは……?
いくらなんでも、あの筋骨隆々の首がそこまで脆かったとは考えがたい。
と、なると……。
「……あっ、わかった」
突如浮かんだ、しかし確信を伴う考えにポンと手を打つ。
「これ、あれだ。剣の力だ」
自分の考えに、俺は何度も頷いた。
「ほぅほぅ、なるほどねぇ」
そんなことを呟きながら、腰に下げた剣を鞘から抜く。
この世界に召喚された当初、ブレイズ様から貰ったものだ。
ゲームでのお約束的に最初に貰ったからには一番ショボい剣だと思い込んでたけど、きっと実は凄い剣だったに違いない。
というかたぶん、伝説の剣的なやつだったんだ。
そりゃそうだよな。
思えば、仮にも世界の命運を賭けて召喚した勇者に渡す剣だ。
現実的に考えれば、ショボいものであるはずがない。
今まで、スライム相手に掠る程度の攻撃しか当たったことなかったから気付かなかったけど……つまり、まともに当てさえすればスライム如き楽勝ということか。
もちろん、今までだって当てるつもりがなかったわけじゃない。
だけど当てることが最優先ではなくて、避けたり次の攻撃に繋げたりする方に意識を割くウェイトが高かった。
当然、当てるの最優先にすればそれだけリスクも高まるわけだけど……これは、抜本的に戦い方の組み立てを見直す必要がありそうだ。
……へへっ、だけど。
なんだか、希望が見えてきたな。
この世界に初めて召喚された時のワクワクを、少しだけ思い出す。
魔王軍が本格的に俺を狙うようになってきたらしい現状、城の人たちにまで被害が出ている中で無邪気にはしゃいでるわけにもいかないけど……うん。
この伝説の剣があれば、俺だって戦えるんだ。
随分出遅れちゃったけど……。
「俺の伝説が始まるのはここからだ! ってな」
もうすっかり手に馴染んだ剣で宙を斬る。
なんでもない、これまで数えきれないくらいに繰り返してきた素振りだ。
……なのにも、関わらず。
――パキン。
そんな音が、鳴った。
「……はい?」
その光景に対して、俺は呆けた声を上げることしか出来なかった。
だって。
だってさ。
折れた。
折れていた。
剣が、根本からポッキリと。
はは、剣ってこんな綺麗に折れるもんなんですね。
「……って、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
一瞬現実逃避した後、叫ぶ。
叫ぶしかなかった。
だって……だってさぁ!
折れた!?
折れた!
伝説の剣が!
俺の伝説、まだ始まってないのに!
「ノォォォォォォォォォォォォ!? カムバァァァァァァァァァック!」
今にも雨が降り出しそうな天に向けて慟哭する。
しかしもちろん時が戻ることはないし、折れた剣も折れたまま。
混乱する頭で折れた部分を重ねたりしてみるも、それでくっつくわけもなく。
徐々に、ようやく現実を受け入れ始めた俺は、地面に膝を付いた。
「な、なぜ……?」
そして、今度は疑問の声を上げる。
なぜだ。
この五年間、ずっと俺と共にいてくれたっていうのに。
なぜ今になって折れた。
なぜ、こんなタイミングで。
………………というかこれ、本当に今折れたのか?
今日、この剣は何も斬っちゃいない。
せいぜいがスライムの切れ端くらいだ。
ということは……昨日ジロバを斬った時、既に致命的なダメージを負っていたと考えるのが妥当か。
けどいくらなんでも、一撃で折れるもんか……?
「まさか……!」
再び頭に訪れる、確信に近い閃き。
「一回こっきりの使いきりアイテムだったってことか……!?」
なるほど、そう考えればあの威力にも納得がいく。
の、だけど。
だけれども。
ここで折れられたら、俺はどうしたらいいんだ……!
伝説の剣、お前無しに俺はどうやって戦えばいいっていうんだよ……!?
「おぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
「なんだ、今の声……っておいアンタ、大丈夫か?」
うずくまって呻いていると、門番のおっちゃんがこちらに駆けて来た。
先程の俺の慟哭を聞きつけたのだろうか。
「って、ゲッカ様じゃねーか」
おっちゃんの声から、警戒の色が薄れた。
「どうした、腹でも痛いのか?」
「あぁいえ……ちょっと、自分の無力さに絶望してただけなんで大丈夫です……」
「それは、大丈夫なのか……?」
おっちゃんに心配かけるわけにもいかないので、ヨロヨロとではあるが立ち上がる。
「えぇ、大丈夫です」
そして、ニコリと笑ってみせた。
「お、おぅ……完全に目が死んでる状態で笑われると怖ぇーんだが……」
なぜかおっちゃんはドン引きしている様子である。
「いやホント、大丈夫なんで」
まぁ、この先の俺の未来が大丈夫かは甚だ疑問ですけどね!
「いや、まぁ、ならいいけどよ……」
そう言って、おっちゃんは頬を掻く。
「っと、そういやよ」
そして、表情を改めた。
「ゲッカ様に、登城の要請が来てんぜ? なんか、陛下自ら謁見を切望されてるんだと」
「ブレイズ様が……?」
とっくに俺から興味を失ってるあの人が?
俺、なんかやらかしたっけ……?
「………………あっ」
手元を見る。
無論、折れた剣は未だそこにある。
伝説の剣が。
……うん、思いっきりやらかしてるね。
いや、けどこれが折れたのはついさっきの事だ。
今回の呼び出しが、この件についてってことはないだろう。
いやいや、しかし使いきりアイテムというのがわかってたなら昨日の時点で剣が折れてることは明らかなのか。
いやいやいや、でもこれ元々俺が貰ったもんだし……使いきりアイテムってわかってて渡したんだったら、怒られる筋合いもなくない?
いやいやいやいや……。
うーん、考えるほど思考が深みにハマっていく……。
なんか、ホントにお腹が痛くなってきたな……。
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