間章2 とある戦士の納得

 見事。


 あまりに見事な一撃だった。


 自分とてこの半生を武術に費やし、今や騎士団長などと呼ばれる身。

 ジロバには、およそ隙と呼べるようなものなど微塵もなかったと断言出来る。


 魔王軍一の猛将と呼ばれるだけのことはあると、敵ながら感心すらしていたほどだ。


 にも関わらずあれほど鮮やかに一太刀入れ、しかも一撃で仕留めてみせるとは。

 この国に……いや、この世界に同じ事が出来る人間など他にいるかどうか。


 まさしく、神技と称するのが相応しい技量と言えるだろう。


 もっとも……正直に白状すれば、自分程度ではその一撃をこの目で捉えることすら出来なかったのだが。

 ゲッカの身体がブレたと思った次の瞬間、気が付けばジロバの首が飛んでいたのだ。


 ゲッカ……やはり、その実力を隠していたか。


 前々から、不思議に思っていたのだ。

 ゲッカの身体は、既に戦士のそれとして十分すぎる程に鍛え上げられている。


 それに、普段の体捌きも明らかに素人のそれではなかった。

 これでスライムに勝てぬということなどということが、本当にありえるのか? と。


 果たして、その疑問は正しかったというわけだ。


 しかし、ゲッカはなぜそんな嘘を……?


 ………………フッ、なるほどな。


 敵を欺くにはまず味方から……というわけか。

 このジェイスも、すっかり騙されておったわ。


 なにせ、ゲッカの演技は真に迫っていたからな……日々陛下へと失敗の報告を告げる様は、どこからどう見ても本当にしょげている者の顔にしか見えなかったぞ。

 アイツめ、とんだ役者だったわ。


 ……それとも。


 それともまさか、それら全てが演技ではなく本当で。


 つまりは、とんでもなく強いスライムを相手にしていた……などということは?


 はは、なんてな。

 そんなスライムの話など聞いたこともない。


 ゲッカの演技があまりに秀逸だったので、ついつい馬鹿な妄想を膨らませてしまったわ。


 見事なり、ゲッカよ!

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