第40回 「ゾンビ看護師」からは逃げられない

 「ゾンビ」。これについて解説することがあるのかが分からないので、さらっと話すると、蘇った死体だ。海外のモンスター解説まですると際限なくなっちゃうからね……。


 実はその起源は宗教にあるとか、現代におけるクリーチャーとしての「ゾンビ」は1960年代の創作が発端とされている。


 で、「ゾンビ」というのはその性質上、たとえどんな格好をしていたとしても、死者が蘇った存在であれば「ゾンビ」として成立する。つまりハロウィンで、ゾンビメイクさえできれば、格好は何でもOKというわけだ。個人的にこれは凄く画期的だと思う。


 二次創作上では、様々な職業の人がゾンビになった姿を描く人がいる。とりわけその中で人気(?)なのは、ナース姿のゾンビな気がする。ゾンビナース、という言葉が個別にあるほどだから、相当な人気っぷりだ。


 そんなゾンビナースによく似た名前の都市伝説、そしてそれに登場する怪異がいる。今回はその「ゾンビ看護師かんごし」について、ちょっといろいろお話していきたい。



 ゾンビ看護師かんごし。日本で語られる都市伝説に登場する怪異だ。日本なのにゾンビとはこれいかに、と感じるが、こういう話も受け入れられるのが怪談や都市伝説の良いところだ。


 主に病院や学校に出現する怪異で、学校で現れる場合は、以前その学校のあった場所が病院だったとか、戦時中に負傷者を治療していた場所だったから、ということになっている。


 おそらくは「幽霊」の一種なのかもしれないが、見た目がゾンビのようであり、車椅子や手押し車を押している場合がほとんどだ。そして、真夜中に現れ、自分を見つけたものを執拗に追いかけまわすのが大きな特徴である。


 現在よく知られている内容は次のようなものだ。今回は病院の話、という前提で聞いてほしい。



 病院に入院していた少年が、夜眠れなくなってしまったので、真夜中の病院内を探検することにした。夜な夜な、看護師の目をかいくぐって病室から抜け出し、探検を始める。


 しばらくすると、廊下の向こうから、奇妙な音が聞こえてくる。キィー、キィーと何かを引く音だ。音の方向へ少年が向かうと、看護師が一人、車椅子を押しているのを発見する。


 ゆっくりと移動する看護師。次第に、煌々と光る自販機の前にやってる来る。するとどうだろう。車椅子を押すその看護師は、まるでゾンビのような姿をしているではないか!


 「ゾンビ看護師」は少年を見つけるや否や、車椅子の音を出しながら追いかけてくる。大慌てで少年は逃げ出し、トイレの一番奥の個室に駆け込む。


 「ゾンビ看護師」はトイレにやってきて、1番て前から1個ずつ扉を開けていく。次第に少年がこもるトイレに近づいてくる。絶体絶命のその時……。少年がこもるトイレだけ、開けられる様子がない。助かったのか? 今なら逃げ出せる。そう思って扉を開けようとすると、びくともしない。


 ふと、視線を感じて上を見上げると……。「ゾンビ看護師」が恐ろしい形相でこちらを覗いていた。それから、その少年は行方知らずとなる……。



 というお話。学校を舞台とするパターンでは、夜忘れ物を取りに行った際に遭遇する形となっている。


 この車椅子は手押し車の場合もあり、時には犠牲者をその上に載せて移動する……というパターンもあるのだそう。普通に怖いことしてくるなコイツ。


 さて、この手のお話は意外にも歴史が古い。どのくらい古いかというと、看護師が「看護婦」と呼ばれていた頃からあるそうだ。日本の詩人である平野ひらの威馬雄いまお(料理研究家・平野レミの父である!)による1975年の著書『お化けの住所録』に、「手押し車を押す看護婦の幽霊」に関する話が載っており、文献上はこれが「ゾンビ看護師」系の初出だそうだ。


 この「手押し車を押す看護婦の幽霊」は学校に現れた幽霊で、その学校は戦時中兵器工場があった場所に建てられていたそう。ただここでは、そういう幽霊が出る、という話だけにとどまり、追いかけたりトイレの上から覗いたりはしていない。


 では、今の追いかける「ゾンビ看護師」のような話はどう形成されたのかというと、別の怪談と組み合わさったのではないか、とされている。


 宝島社より出版された、別冊宝島『現代怪奇解体新書』という本の中で、歓談史研究家の小池壮彦こいけたけひこが考察した内容によると、ある2作品に、次第に近づいてくる幽霊の話が載っているという。


 小説家・阿刀田あとうだたかしの『子供をおどろかす3分間怪談』と、奥成達おくなりたつの『怪談のいたずら』だ。これら2つの書籍内では、「ここでもない」といいながらどんどん近づいてくるという怪談が掲載されていて、この話と先述の「手押し車を押す看護婦の幽霊」の話を組み合わせたのではないか、というのだ。


 ただ、上から覗くというくだりは、次第に近づいてくる別の怪談には出てこないため、これはまた別の怪談が合わさったのだろうとされている。


 その怪談というのが都市伝説収集家の松山ひろしによる著書『真夜中の都市伝説 壁女』にて紹介されている怪談で、明治時代、天狗に追われて神社の便所に逃げ込んだところ、一晩中天狗に上から覗かれていたという話だそうなのだが、肝心のその話の出典がないらしい。これが果たして本当かどうかは、まだ分からないそうだ……。


 ところで、看護婦が看護師と呼ばれるようになったのはいつごろからかご存じだろうか。法改正で「保健婦ほけんふ助産婦じょさんぷ看護婦かんごふ法」が「保健師ほけんし助産師じょさんし看護師かんごし法」となり、性別による読みの区別が撤廃されることになったのがきっかけで、2002年より看護師という呼び方になった。


 そのわずか1年後、フジテレビ系の「ほんとにあった怖い話」にて、まるっきり「ゾンビ看護師」のような話が放送された。私は、この話こそが今の「ゾンビ看護師」の話を強く印象付けたのではないか、と思っている。


 阿部寛が主演の「真夜中の徘徊者」という回が、2003年9月に放送された。もっとも、この話は1999年放送、杉本哲太主演の「社内怪報」という話をリメイクしたものなのだが、後者が会社を舞台にしており、前者が病院が一応の舞台であることを最初に伝えておこう。なんで一応なのかはこれから説明しよう。


 「真夜中の徘徊者」では、まさに車椅子を押す看護師の幽霊が現れる。阿部寛演じる「小山」という男は、健康診断の結果が振るわなかったがために2泊3日の断食ツアーに参加することになる。その宿泊先の研修所で、小山は何者かの気配を感じる。そして、とある指輪を発見し、それを拾い上げた。


 実はこの研修所の裏手には、かつて小さな病院があった。そこに結婚を控えた若い看護婦がいたのだが、その病院内で婚約指輪を無くしてしまい、それがきっかけで婚約者と険悪になり破談。その後も必死に指輪を探したが見つからず、ついに自殺してしまったのだという。


 先ほど、一応病院が舞台としたのはこれが理由で、実際に病院内で逃げるわけではないのだが、既に廃れた病院が関わってくるので、一応、とした。


 その夜、小山はどうしても眠れなくなってしまい、懐中電灯をもって施設内を散策する。するとそこへ……、車いすを押す看護婦が現れるのだ。


 追いかけられる小山はトイレに駆け込む。しかし、ドアガチャされまくって絶体絶命のピンチ。そのとき、指輪を探している話を思い出した小山は、持っていた指輪をドアの下の隙間から渡す。


 すると車椅子が遠ざかっていく音が聞こえ、小山は一安心。一息つこうと煙草をくわえ、上を見上げると……。トイレの上から看護婦が小山を凝視しているではないか! それから小山は気絶してしまい、朝になると例の看護婦はいなくなっていた……。それからまたオチがあるのだが、これは是非本編を見てほしい。


 この一連の下りは、杉本哲太主演の「社内怪報」でも同じ。ただこちらの場合は、掃除に使うリネンカートを押す女性の霊に執拗に追いかけられる話になっている。トイレに逃げ込むところまでは同じで、最後はお守りをもってお祈りしたところドアガチャが収まったので、安心して立ち上がったところでで上から覗いていた、というオチになっている。


 多分だけれど、今から20年以上前のこれらのストーリーが視聴者に印象深く残り、それまでただ追いかけるだけの話だったところに、ドラマ内でのオチとして採用された上から覗くという手段が新たに加わったのでは……と私は思うのだ。狙ったのかたまたまなのか、いずれも看護師(看護婦)が関連しているわけだしね。


 これらの話を総合して一旦まとめると、本来は学校に現れる怪異であり、むしろ病院に現れるタイプの方が後発ではないだろうか、と思う。学校の怪談として語られてきた看護婦の幽霊話に、他の怪談話が融合して、真夜中に学校に訪れた子供を執拗に追いかけまわす話になった。それから長い時間をかけ、ドラマ内で演出された上から覗くという行動が新たな要素として加わり、現在の「ゾンビ看護師」の話へと昇華された……と私は思う。


 ちなみに2011年放送の『ほんとにあった怖い話』で芦田愛菜が主演した「深淵の迷い子」では、車椅子に乗った髪の長い少女と、その車椅子を押す女性の霊に追いかけられる話となっている。この話では、追いかける霊が看護師ではないし、トイレに逃げ込む下りはないが、まぎれもなく病院が舞台であり、しっかり子どもが追いかけられるため、当時放送を見ていた少年少女は感情移入をしてつよく印象に残った可能性はありそうだ。


 きっと怪談話としての「ゾンビ看護師」は昔からローカルでいろいろあっただろう。そのうちの一つに「車椅子を押す」「追いかけてくる」「トイレの上から覗く」という話もあったに違いない。それらの話が、今の内容に総括されたのは、「ほん怖」の影響も少なからずあるのでは……、と思うのは、さすがに考えすぎかな?


 ちなみに車椅子に乗った髪の長い少女の霊は、永野芽郁が演じている。これがまたしっかりと怖いので、ぜひ観る機会があれば見てほしい。



 この「ゾンビ看護師」の話は、学校によっては学校の七不思議の一つになっているのだろうか。さすがに病院の跡地に建てられた学校でないとならなそうな気もするけど、意外と無関係なところでも出てくるかもしれない。


 類話はいっぱいあるからね。姿を変え形を変え、でも肝心の話の内容はあまり変わらない。これが怪談や都市伝説の面白いところだ。場所の数だけバリエーションがある。


 ところで、私は車椅子に載っている知り合いが何名かいるんだけど、キィーって音は流石に鳴ってない。もしかして、「ゾンビ看護師」の押す車椅子って、整備不良だったりしない……?


 ……あの、今後のために直した方が良いですよ、「ゾンビ看護師」……。




2024/12/5 初稿公開

2024/12/8 一部改稿・修正

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