第39回 師走を駆けるよ「ターボばあちゃん」

 執筆時点でのお話ですが、12月になりました。和暦では師走。いよいよ年末が近付いてきたこともあり、仕事や私生活も慌ただしくなってくる頃合いですね。


 なぜ師走というのかは諸説あって、一説には年末の仏事でお経をいろんな家で唱えるのに僧侶が忙しくなることから、師は僧侶を表していて、師走、というそうだ。漢字も、師が走るから、のほかに、師が馳せるからきてるとも。


 僧侶の平均年齢は40代から50代らしく、そして職業別の平均寿命は僧侶が1位らしい。そりゃあ年齢的な意味でも、師が慌ただしく走っているように見えるな……と。


 そんな慌ただしく走るご老体。でももしかしたらその中には、恐ろしいことをする怪異が混じっているかも……よ?



 ターボばあちゃん。俗にいう高速老婆の怪の代表名のようなもので、類似した怪異が非常に多い。「ジェットばあちゃん」や「ダッシュばあちゃん」、それらの名前が単純に「ババア」になった、「ターボババア」「ジェットババア」「ダッシュババア」、お爺さんタイプの「ターボじいちゃん」「ターボジジイ」、中には「100キロで走る車と並走する自転車に乗った真面目なサラリーマン風おじさん」という名前の怪異もある。名前長ぇよ。


 名前の豊富さや派生形はともかく、「ターボばあちゃん」本人(?)の解説に戻ろう。話によって出現場所が異なるのだが、高速道路や高速道路内にあるトンネル内に現れる話が主だ。自動車でそこを走っていると突然外から窓を叩かれ、確認するとものすごい速さで車と並走する老婆がこちらを見ている……という怪異だ。


 そのまま並走し続け、追い続ける場合もあれば、追い越すパターンもあり、なかには驚かせることで事故を起こさせるという危険なパターンもある。いずれにせよ共通するのは、ものすごい速度を持って走るという点だが、パターンもある。


 「ホッピングばあちゃん」という類話では、ホッピングに乗ったばあちゃんが目の前に落下してして車を飛び越し驚かすという。他にも「バスケットばあちゃん」という怪異は、なんとバスケットボールをドリブルしながら並走してきて、ボールを投げつけてくるのだ。こちらはちなみに、バイク相手に現れるといい、車よりも転倒させやすいからだろう。


 運転手を掴んで棺桶に入れてしまうという「棺桶ばばあ」、並走するのではなく、車のボンネットに直接乗ってくる「ボンネットばばあ」などもいる。ばばあ元気だなおい。


 道路には制限速度の標識があるが、その標識と同じ速度で走るパターンもあり、その場合は「40キロばばあ」や「120キロばばあ」といった名称で話されることがある。


 あと進化するという。第一進化で「ハイパーばばあ」となり、さらに進化して究極体となると「光速ばばあ」になるそうだ。一見お遊びで創作された内容に思えるが、山口敏太郎やまぐちびんたろうの著書『ホントにあった呪いの都市伝説』によると、「光速ばばあ」に関しては2003年ごろから話されていたとあり、割とキャリアは長い。


 「ターボばあちゃん」としてはどうかというと、2000年にアトラスから発売されたプレイステーション用ゲーム『ペルソナ2 罰』に、「100キロババア」という名称で登場しており、少なくとも2000年に入る頃合いには存在していたことが伺える。90年代には存在したというが、具体的な初出はちょっとわからない。うーむ……。


 なんでこういった話が生まれたのかは定かではない。けど、猛ダッシュするご老人なんてイメージがまず思いつかない。思いつかないからギャップがあり、そこに異質さや恐怖感が現れる。だから高速老婆の怪系の話はたくさんあるんじゃないだろうか。


 あとは単純に、高速道路内で窓ガラスに幽霊が映りこんでいた、というあるあるの心霊ネタから派生した可能性もある。つまり、窓ガラスの反射にただ映っただけの幽霊(それだけでも十分怖いのだけど)が、次第に幽霊自体が走って自動車と並走している話にすり替わり、幽霊の見た目がお婆さんになっていった……という可能性。なくはない。


 これは、トンネル内で見られる、という話とつながる。暗い状態の窓ガラスには、光がそのまま暗い方へは逃げていかず、反射した光が網膜に映り込むので、鏡のように反射するわけだ。例えば同乗者の顔だったり、あるいは自分自身だったり、そういった車内にいる人の顔が反射で映り込んだものを怪異と勘違いしたのが最初……と考えることができそうだ。


 最近は龍幸伸たつゆきのぶの漫画『ダンダダン』にて、「ターボババア」の名称で登場したこともあり、知名度はさらに飛躍的に上がったと思われる。知名度が上がればその分、派生した話は増えるだろう。たぶんそのうち、ロケットブースターを身に着けた「ロケットばばあ」とか、光速より速い最終進化系「タキオンばばあ」とか出てくるだろう。もはや観測不能だ……。


 最後に余談だけれど2012年公開の映画に『高速ばぁば』という作品がある。一応「ターボばあちゃん」がモチーフなのだけど、足が速いだけではなく、爪で傷つけてて相手の若さを吸い取り、相手を老化させ、その姿をコピーするという能力を持つ。これは、不衛生な老人ホームにいたために未知のウイルスが爪に出現したから、という設定だった気がする。すげえ設定が来たもんだぜ。



 高速老婆の怪、とひとくくりにしたが、老婆や老爺でなくても「100キロで走る車と並走する自転車に乗った真面目なサラリーマン風おじさん」のような中年男性のパターンもあれば、動物、少女のパターンがある。動物や少女のパターンは、また高速系とは違った話があるので、それらはまた別の機会にしよう。


 ちなみに、青森県出身の田中たなか博男ひろおさんという方が、90歳以上95歳未満の年齢の人による100m走の記録で16秒69を出しているそう。


 ……は、速くね……?




2024/12/1 初稿公開

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