第7回 「トイレの花子さん」多すぎ問題

 妖怪にまつわる何かしらの記事を書くときに、どうしても扱いに困る存在、概念が、個人的に2つある。


 一つは前回の「幽霊」。命題にもした「幽霊は妖怪の仲間なのか」っていう部分で、なかなか出すべきか悩んでしまう。


 もう一つが、いわゆる都市伝説とよばれるもの。平成になるかならないかくらいのタイミングから名称としては呼ばれるようになったかなり新しい概念。これを一口に「妖怪」として取り上げるべきかどうかは、人によって若干悩ましい部分だと思うんです。


 私は、都市伝説を「立派な平成生まれの妖怪」と考えたいので、がつがつ説明したいところ。なんなら「令和生まれの大型新人妖怪」だって世の中にいるかもしれない。そんな大型新人君たちのためにも、立派な先輩の姿を見せたやりたいじゃないか!


 今回はそんな「平成の妖怪(私が勝手に命名!)」の代表格、「トイレの花子さん」についてお話ししましょう。



 トイレの花子さん。おかっぱ頭に赤い吊りスカートという分かりやすい見た目がトレードマークの、幽霊というべきか、そう言う概念というべきか……。


 よく耳にする話としては、ざっとこういう話だと思う



 学校の3階にある女子トイレの、3番目の扉を3回ノックして、「花子さん、遊びましょ」というと、誰もいないはずのそのトイレの中から「いいよ」と返事が返ってくる。そうして扉を開けると、赤いスカートをはいたおかっぱ頭の少女が立っていて、トイレの中へと引きずり込まれてしまう。



 似たような話や、若干違うパターンの話もあるけれど、大体がこんな感じだと思う。


 違うパターンだと、「何して遊ぶ?」ときかれて、縄跳びとかロープを使う遊びを提案すると首を絞められるとか、「太郎くん」というボーイフレンドがいるとか、家族もいるとか、ノックする回数が違ってたりとか、花子さんじゃない別の名前のパターンとか、いろいろある。バリエーションありすぎでしょ。後リア充やん。


 全国各地で出自が異なるのも大きな特徴で、たとえば「汲み取り式の時代に誤って落っこちて亡くなった子の霊」だとか、「トイレでいじめられて死んだ子の霊」だとか、「殺人鬼に追われて3回の3番目のトイレに逃げたが殺された子の霊」とか、なんかいっぱいある。いずれにせよ、何かしらの形で死んだっぽい話になっている。


 実はルーツが1950年ごろの岩手県にある、という説がある。その名を「三番目の花子さん」という噂話で、舞台は小学校の体育館。そこに設置されたトイレの、奥から3番目の個室に入ると、どこからともなく「三番目の花子さん」という声が聞こえてきて、便器の中から手が伸びてくる、という話なのだ。


 おっと、なんか最初の話とだいぶ違うぞ?


 そう、一番最初期の花子さんは、私たちが呼ぶんじゃなくて、むしろ呼び掛けられる、むしろ自己紹介される感じの怪異だったっぽいのだ。


 それがどういうきっかけで、こちらから呼ぶような話になったかに関しては定かではないけど、とにかく昭和から平成に切り替わるタイミングで都市伝説ブームや怪談ブームが到来することになり、「学校」という身近な舞台も相まって瞬く間に人気者になった。


 とくに「3」という数字にものすごく意味がありそうな気配があるけど、これもなんで「3」なのかよくわかってない。


 想像するにもしかしたら「丑三つ時」にかけているのかもしれないね。正確にいえば、丑のこくというのは午前1時から3時までを指し、「一つ」を30分とするので、「丑三つ時」は午前2時から午前2時半の30分間を表す。


 話によっては、「午前3時に」という話になったりするけど、こういう妖怪や化け物が出るのは大体丑三つ時だから、この「丑時」にそろえる形で、3階、3番目の個室、3回ノックになったのだと思う。そうすれば、話として覚えやすいからね。


 覚えやすい、ということは、人に伝えやすい、ということ。そうすれば人から人へ、さらに人から人へと話は伝播でんぱしていく。これが、都市伝説や怪談、学校の七不思議としてきっと重要な要素になっているんじゃないかな、と思うわけですよ!


 ところで、なんでトイレなんでしょう?


 一説には、日本には江戸時代から続く「厠神かわやがみ」の信仰が関わってるとか。


 厠神の解説はまたいつかきちんとするけど、要は「トイレの神様」のこと。京都府では昔、夜中にトイレ行くことが悪習とされていたことがあって、それを矯正するため、しつけのために、夜中には厠神が出るからいっちゃだめですよって子供に言い聞かせていたとか。他の都道府県でもそういうしつけがあったのかなぁ?


 だから、どうしても夜中にトイレに行きたくなったときは、厠神に「もう夜中に来ませんよ」と言わないといけないらしい。


 もし言わなかったらどうなるかは実は分からない。言わなかったパターンの話が見つからないので何とも言えないんだけれど、多分呪われでもするんじゃないかな?


 ちなみに、トイレの花子さんよりももっと昔、京都で「カイナデ」という妖怪が現れたという話があって、これがまた面白い。


 この「カイナデ」もまた、節分の夜に厠(トイレ)に行くと、そのトイレの中から毛むくじゃらの手が伸びてきて、お尻をなでる、というのだ。


 おお? 1950年ごろの「三番目の花子さん」の話に似てるな?


 たぶんに、トイレ、すなわち不浄の場所であることがいろいろ関わってきそうな気がする。


 風水だったり、スピリチュアルな話にちょっとなってしまうけれど、トイレには悪い気が溜まりやすいので、生命力の源である生花を飾ると良い、って話がある。


 特に昔はぼっとん便所、つまりくみ取り式だったわけだから、夜中に行こうものなら、奥に何があるかなんて気っとわかったもんじゃなかったはず。


 そういう思い込みや精神的な恐怖から、「トイレの中から出てくる手」という怪異が生まれて、それが発展していくとともに、今度は「トイレの花子さん」という新たな姿を得て今現在も語り継がれているんじゃないかなーと、思うわけです。


 ちなみに、似たような話がいっぱいあるといったけれど、「ブキミちゃん」って名前だったり、「闇子さん」って名前だったり、男の子バージョンも「ヨースケくん」だったり「ムネチカくん」だったり、後なぜか「コアラのお化け」が出てくることもあるらしい。


 ……こ、コアラ?



2024/9/13 初稿公開

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る