第15話 癒しの手の決意

 ◇◇◇ サクラ視点


 銃声が鳴り響く中、わたくしは基地の隅に身を潜めていた。心臓が激しく鼓動を打つ。目の前で繰り広げられる光景が、まるで悪夢のようだ。


 キョーコさんが倒れている。胸から広がる赤い染みが、床に滲んでいく。リョータさんたちは白いスーツの男に囲まれ、絶体絶命の状況だ。


 このまま見ているだけでいいの?そんな思いが頭をよぎる。医療エリートの家系に生まれ、幼い頃から”人を助ける”ことが当たり前だと教えられてきた。でも、それはZNSの管理下での”正しい”生き方だった。


 本当に人を助けるってこういうことなの?


 目を閉じると、これまでの記憶が走馬灯のように駆け巡る。ZNSに疑問を持ち、バベル・アカデミーにたどり着いた日。仲間たちと出会い、自分の特殊能力【バイオシンセンス】の真の力に気づいた瞬間。


 そして、今。


「もう、迷わない」


 私は小さく、しかし強く呟いた。目を開けると、手のひらに淡い緑色の光が宿り始めている。


 身を屈め、ゆっくりとキョーコさんに近づく。銃撃の合間を縫うようにして、彼女の元へたどり着いた。


「キョーコさん、大丈夫です。わたくしが……わたくしが治します」


 震える手を、キョーコさんの傷口に当てる。目を閉じ、意識を集中させる。


 すると、不思議な感覚が全身を包み込んだ。キョーコさんの生命力が、まるで光の糸のように見える。傷によって乱れ、消えかけているその光を、私は必死で紡ぎ直そうとする。


「戻って……戻ってきて!」


 額から汗が滴り落ちる。歯を食いしばり、全身の力を振り絞る。


 するとふいに、私の手から放たれる緑の光が強さを増した。キョーコさんの傷口が、肉眼で見えるほどの速さで塞がっていく。


「す、凄い……」


 リョータさんの声が聞こえた。


 振り返ると、白いスーツの男も、黒装束の集団も、皆が驚愕の表情で私を見つめていた。


「これが……わたくしの力」


 言葉と同時に、最後の光がキョーコさんの体を包み込んだ。


「はっ!」


 キョーコさんが大きく息を吸い込み、目を見開いた。


「キョーコさん!」


 皆が駆け寄る。


 混乱に乗じて、マユが煙幕を炊いた。その隙に、私たちは急いで脱出経路へと向かう。


 基地を出て、夜の街に紛れ込んだ時、ようやく安堵のため息が漏れた。


「サクラ、お前すげぇよ」


 カズマさんが肩を叩く。


「本当に助かったわ」


 キョーコさんも感謝の言葉を述べる。


 皆の笑顔を見て、胸が温かくなる。


「あれ?」


 急に視界がぼやける。体に力が入らない。


「サクラ?大丈夫か?」


 リョータさんが心配そうに声をかける。


「大丈夫……ちょっと疲れ……」


 言葉が途切れる。膝から崩れ落ちそうになる私を、カズマさんが支えてくれた。


「おい、顔色が悪いぞ」


 その声が、どんどん遠くなっていく。


 わたくしの能力……まだ制御しきれてない……。


 意識が遠のく中、そう思った。


 でも、これでいい。仲間たちを……守れるなら……


 暗闇に包まれる直前、不思議な感覚に襲われた。


 まるで、体の中で何かが変化し始めたような...

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