第7話 ナノマシンの秘密

 ◇◇◇ カズマ視点


「よーし、新入り!バベル・アカデミー潜入ミッション、スタートだぜ!」


 俺、黎嵜くろさきカズマは、両手を広げてリョータの前でクールにポーズを決めた。


「はいはい、ゲームじゃないんだから」


 ナナミが呆れ顔で突っ込んでくれる。マユとサクラは、いつものことだという表情で微笑んでいた。


「ナナミは知らないのか?このポーズ、SNSで流行ってんだぜ?」


 俺がスマートグラスを取り出すと、リョータが興味深そうに覗き込んできた。


「へぇ、『アンプラグド』でもSNS使えるんだ。ZNSインプラントの個人認証が必須だと思ってたから調べてもいなかった」


「おうよ。ただし、超ハイセキュリティ。政府のサイバー警察も顔真っ青のやつさ」


 俺たちは談笑しながら、アカデミーの奥へと歩き始めた。廃墟のような外観からは想像もつかない、最先端技術の結晶みたいな内装に、リョータは目を丸くしている。


「うわ、これ、SFの世界に入り込んだみたいだ……」


 リョータの驚いた表情を見て、俺は左腕の刺青を無意識に撫でていた。マユがそれに気づき、小声で囁いた。


「カズマ、リョータに見せるの?」


 俺は少し考えてから頷いた。


「ああ、仲間になるんだろ?なら、知っておいた方がいい」


 俺は一行を小さな訓練室へと案内した。扉を閉めると、深呼吸をして切り出した。


「リョータ、お前にちょっと見せたいもんがあるんだ」


 俺は左腕のタトゥーに触れた。するとタトゥーが青白く光り、皮膚の下で何かが蠢き始めた。


 リョータは驚いた表情を浮かべたが、すぐに興味深そうな目で観察し始めた。


「これは、バイオテク?いや、まさか……ナノテクノロジー?」


「さすが凄腕ハッカー。知ってたのか?」


 俺はニヤリと笑う。


「ナノマシンってやつさ。【ナノマシンシフト】……俺の能力の名前だ」


 俺は手のひらを前に向けた。するとナノマシンが活性化し、皮膚が金属のように変化していく。


「すごい……」


 リョータは息を呑んだ。


「もしかして、医療用途だけじゃない?」


「高速再生はもちろん、強化された身体能力、高速再生、形状変化。人が思いつく限りのことは何でもできるぜ」


 表向きには、ナノマシンは医療用途で開発されたとされている。体内に入り込んで健康診断の代わりにするとか、極小のがん細胞を除去したりするとか。ようは民衆受けすることだけを公にしているってわけだ。


 俺が説明していると、突然、手のひらに違和感が走った。


「ちっ……」


 俺は歯を食いしばり、集中して制御を取り戻そうとする。手のひらの一部が僅かに膨らみかけたが、すぐに元に戻った。


 マユたちは心配そうな顔をしていたが、俺が大丈夫だと目配せすると、安心したように肩の力を抜いた。


「今のは……?」


 リョータが訝しげに尋ねる。


「ああ、たまにこいつらが暴走しかけるんだ。でも、こんな程度なら問題ない」


 俺は軽く答えたが、リョータの表情は真剣さを増していた。


「リスクもある、と。まさか、政府の実験?」


「よく分かったな。そうさ、俺は元々政府の秘密プロジェクトの被験者だったんだ」


 リョータの目に、驚きと共に何かが閃いた。


「だから、政府に反旗を翻した?」


「まあ、そういうことだ」


 俺は苦笑いを浮かべた。


「でも、それだけじゃない。俺は、この力を正しいことのために使いたい」


 リョータは黙って頷いた。その目には、恐れや憧れではなく、理解と決意のようなものが浮かんでいた。


「分かった。僕も、自分の能力を正しく使えるようがんばるよ」


 その言葉に、俺は少し驚いた。こいつ、見た目以上にしっかりしてるな。


「そうか、期待してるぜ」


 俺はリョータの肩を軽く叩いた。


 マユ、ナナミ、サクラも安堵したように微笑んでいる。


「よーし!」


 俺は再び明るい声を出した。


「秘密の暴露タイムはこれくらいにして、次は……そうだな、バベル・アカデミー特製の最新VRトレーニングルームを見せてやるよ。興味あるだろ?」


「えっ、マジ?ぜひとも見たい!」


 リョータの目が輝いた。


 俺たちは、また軽口を叩きながら歩き出す。だが今度は、なんだか以前より絆が深まったような気がした。


 心の中で、俺は誓う。この仲間たちを、絶対に守ってみせる。そして、俺たちの力で、この歪んだ世界を変えていくんだ。

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