第6話 仲間との出会い

 バベル・アカデミーの中央ホールは、想像を遥かに超える光景だった。


 天井まで届く巨大なホログラムスクリーンが、複雑な数式とコードで埋め尽くされている。その周りを、様々な年齢の若者たちが忙しなく行き来していた。みんな左手首に、僕と同じような古びた偽装デバイスをつけている。


「ここが、私たちの作戦本部よ」


 マユが誇らしげに言った。


 その時、ホールの向こうから一人の少年が僕たちに向かって歩いてきた。茶色の髪をくしゃくしゃに掻き上げ、半袖シャツから覗く腕には複雑な模様の刺青が入っている。


「お、新入りか?」


少年が僕に向かって軽くウィンクした。


「俺は黎嵜くろさき カズマ。よろしくな」


 カズマが右手を差し出してきたので、僕は少し戸惑いながらも握手をした。その瞬間、僕は奇妙な感覚に襲われた。カズマの手が、普通の人間の体温よりも少し冷たく感じたのだ。


「あ、僕は砂羽叢さわむらリョータです。よろしく」


 カズマが口角を上げて笑うと、彼の目が一瞬、銀色に光ったような気がした。


「カズマは私たちの護衛役よ」


 マユが説明した。


「彼の腕はピカイチだから」


「よせやい、照れるじゃねぇか」


 その言葉に、カズマは照れくさそうに頭を掻いた。


 「とはいえ、お前らみたいな頭脳派には敵わないよ」


 突然、僕たちの背後から声が聞こえた。


 「あら、新しい仲間?」


 振り返ると、小柄な少女が立っていた。黒縁メガネ型のスマートレンズの奥で、鋭い眼光が光っている。


水鳥河みどりかわ ナナミ。テクノロジー開発と情報解析が専門」


 ナナミは僕に向かって軽く会釈すると、すぐにホログラムタブレットに目を戻した。その動作の素早さに、僕は驚きを隠せなかった。


「ナナミは天才的なハッカーで、私たちの技術的なバックボーンなの」


 マユが付け加えた。


 ナナミは照れくさそうに頬を染めたが、タブレットから目を離すことはなかった。


「あの、みなさん」


 優しい声に、全員が振り向いた。長い黒髪を後ろで束ねた少女が、穏やかな笑顔を浮かべて立っていた。


「初めまして、華座間サクラです。医療と心理カウンセリングを担当しています」


 サクラの柔らかな物腰に、僕は少し緊張が解けるのを感じた。


「サクラは私たちの精神的支柱よ」


 マユが説明した。


「彼女がいるおかげで、みんな心身ともに健康でいられるの」


 サクラは照れくさそうに微笑んだ。


「さて」


マユが全員を見回した。


「これで、クラッカーズのメンバーが揃ったわ」


「クラッカーズ?」


僕は思わず聞き返した。


「そう、私たちのチーム名よ」


マユが答えた。


「ZNSのシステムを突破し、真実を暴いてこの息が詰まりそうな世界を壊す悪いハッカー集団……だから、クラッカーズ」


 僕は息を呑んだ。ついさっきまで、こんな世界があるなんて想像もしていなかった。そして今、僕はその一員になろうとしている。


「よーし、これからよろしくな、リョータ!」


 カズマが僕の肩を叩いた。その瞬間、再び僕は奇妙な感覚に襲われた。カズマの手から、微かな機械音が聞こえたような。


 僕がカズマの腕をじっと見つめていると、彼は急に表情を引き締めた。


「あー、これか?」


カズマは左腕の刺青を指差した。


「ちょっとしたサプライズってやつさ。そのうち教えてやるよ」


 その言葉に、僕の中で好奇心と不安が入り混じった。カズマの身体には、一体何が?


「さあ、オリエンテーションを始めましょう」


 マユの声で我に返った僕は、新しい仲間たちと共に、バベル・アカデミーの奥へと歩き始めた。未知の冒険が、今まさに始まろうとしていた。

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