プロローグ2 少年の目覚め

 目を開けると、懐かしい青い光の粒子が視界を舞っていた。


 この青い光の粒子を見ると、あの日を思い出す。14歳の誕生日。人生が一変した日。


 教室で退屈な授業を受けていた時だった。突然、視界が真っ青に染まり、世界がピクセル化したような感覚に襲われた。そして、脳内に響いた電子音とともに、【サイバーシンクロ起動】という文字が浮かび上がった。


 次の瞬間、僕はデジタルの海に飛び込んでいた。


 まるでVRゲームにダイブしたかのような感覚。周囲の電子機器から放たれる情報の光が、無数の流星群のように僕を取り巻いた。スマホ、パソコン、電子黒板など。さまざまな電子機器が発する信号が、僕にしか見えない青い軌跡を描いていく。


「な、んだよ……これ……」


 思わず呟いた瞬間、視界に入っているクラスメイトがSNSに投稿したであろう内容が頭の中に流れ込んできた。プライベートチャットの内容、写真のメタデータ、これまで移動してきた位置情報のログ。さらには個人デバイスに登録されている個人情報まで見ることができた。まるで、彼らのデジタルデータが一斉に僕に語りかけてくるみたいだった。


 その時、気づいた。これは、ハッキングだろうと。


 心臓が高鳴る。バレたらヤバい。ヤバいけど、やめられない。指先がピリピリする。体が熱くなる。脳が、もっと情報をくれとせがむ。


 次の瞬間、学校のセキュリティシステムに侵入していた。生徒の成績データ、教師の個人情報、さらには、今後の入試問題らしき問題用紙までも見ることができた。


「マジ、かよ……」


 興奮で手が震える。でも、同時に恐怖も感じた。犯罪者の烙印を押される未来を幻視する。


 その時、激しい頭痛に襲われた。鼻から血が滴る。視界が歪み、教室が遠ざかっていく。


 気がつくと保健室のベッドの上。どうやら、能力の使いすぎで気絶してしまったらしい。


 あれから3年。毎日コツコツとトレーニングを積み、今では数時間は持続できるようになった。でも、長時間使うと激しい頭痛や吐き気、そして最悪の場合、記憶障害まで起こす。しかも、影響を受ける記憶は個人の経験を示すエピソード記憶だけではない。一般的な知識と言われている意味記憶すらも影響を受けるのだ。実験したときは一時的な記憶障害で済んだが、使い続ければどうなるかわからない。この力は諸刃の剣。使いすぎると、最後はデジタルの海に呑み込まれかねない。


 今、僕はパソコンの前に座っている。モニターの向こう側には、政府の機密サーバーがある。持ち前の調査能力とハッキング技術を駆使して突き止めた、両親の死の真相が眠るはずの場所。ただし、失敗すれば即座に個人が特定され、犯罪者の烙印を押されるどころか、命の危険すらある。


 でも、もう後には引けない。


 深呼吸をして、目を閉じる。


「【サイバーシンクロ】……起動」


 世界が青く染まり、デジタルの海が広がる。その中心に、巨大な要塞のような政府のサーバーが見える。


 心臓が早鐘を打つ。手のひらには汗。でも、真実を知るためならば、この命をも賭けてやる。


「行くぞ……!」


 そして、僕は意識を飛ばした。未知のデジタル海域へと、ダイブする。

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