第7話 メイド、主人に攫われる
結構な勢いでカルヴァンが飛び込んできて、びくりと身体を竦める。
床にいたヴェラとカルヴァンの視線がばっちりと合う。一瞬だけぽかんとしたカルヴァンだったが、すぐに身をかがめるとそっと頭を撫でてくる。
「なんだ、おちびちゃんが先にいたのか。驚かしてしまって悪かったな」
眉間をなでなでされると、これが異常なほど気持ちがよく、ヴェラの喉がごろごろと鳴った。
(ま、待って……! こ、こんなに気持ちいいとは……!!!)
思わず我に返って、ヴェラはおろおろと視線を彷徨わせる。
カルヴァンはよしよしと撫でた後、そっと抱き上げた。
ぐんと地上が遠くなったが、カルヴァンがしっかりと抱いているから安心感しかない。香水と彼の香りが濃くなった。
(カルヴァン、優し……)
絶体絶命のピンチだというのに、胸がキュンとする。
「首輪がついてるな。しかし、いつの間にヴェラは猫を飼ったんだろ。 聞いてないな――僕に秘密を作るなんて」
ぶつぶつ言いながらもカルヴァンの手はヴェラの頭を撫で続けている。ヴェラは必死で喉がごろごろ鳴らないように耐え続ける必要があった。
彼女はそのことに気を取られすぎていて、自分の喉につけられている瓶を、カルヴァンの視界から隠すことを忘れていた。
「ん、なんだこれ……?」
そこでカルヴァンが呟いたので、ヴェラははっとした。
(ま、まって、み、見つかっちゃった……!?)
ぎくりと身を固くする。だがその時にはもう時遅く、彼の銀色の瞳は、しっかりとヴェラがつけている瓶に吸い寄せられてしまっていた。
「“ローレル様へ”……?」
カルヴァンはヴェラを抱いたままベッドに座った。そして彼女の首輪を取り外した。自分の足元にヴェラをそっと置くと、真剣な顔でハサウェイ夫人からの手紙を読み始めた。
たらり、と冷や汗がヴェラの背中を走った。
(お、想い人って書いてないよね、あの人書いてないよね約束してくれたもんね? でも手段は書いてあるよね、あるんだよね!? や、やっば……逃げたい……)
あまりにもいたたまれない。
見ると、扉が少しだけ開いているではないか。猫の脚力ならば逃れられるのではないか。ヴェラはそろっと立ち上がると、たん、と一気に扉まで駆け始めた。
逃げるのに必死で、他のことに気を回している余裕などない。
(あと少し――)
だが現実は無情だった。
目と鼻の先で扉が閉められ、ヴェラは逃亡に失敗したことを思い知った。そろそろと後ろを振り返ると、そこには片手で扉を閉めたままの姿で仁王立ちしているカルヴァンがいた。
「僕から逃げるつもりかい」
カルヴァンはそこでにっこりと笑って、続けた。
「ヴェラ」
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