愛矢と愛弓とニューヨーク

プロローグ

 トースト。サラダ。ミルク。よくある家庭のメニューの他に、愛矢の作った煮物が並ぶ。笛吹家のいつもの朝食だ。

 ママが徹夜した翌朝は、いつもわたしがご飯を作るのが日課だった。今はそれに愛矢が加わっている。

 わたし、愛弓。

 家族四人が一緒に暮らすようになって二か月近く。今ではすっかり当たり前になって、まるで最初からこうしていたみたいに錯覚しちゃう。

 パパも愛矢も色々大変だった分、これからはずっと平和な日々が続くといいな。――なんて思っていたんだけど……。

 今度の事件は、パパに一通の手紙が届いたことから始まったの。

「手紙が来てたよ、父さんあての」

 愛矢がそう言いながら、玄関から戻って来た。

「パパに? めずらしいわね。誰から?」

「わからない。差出人の名前書いてないから」

「ふうん。変な手紙ね」

 わたしは愛矢から手紙を受け取ると、何気なく食卓の上に置いた。

 少ししてママが起きて来た。

「あ、ママ、おはよう」

「おはよう、母さん」

 わたしたちがあいさつすると、ママもにっこり笑って答えた。

「おはよう、愛矢、愛弓」

 パパは休日以外は六時に家を出てしまうので、朝食は一緒に取れない。

 わたしはママのために目玉焼きを作り始めた。

「あら?」

 ママが不思議そうな声を出す。

「この手紙、パパあてなの?」

「あ、うん、そうなの。今朝来てたんだって」

「切手が貼ってあるのに消印がないわね。うちまで来て、直接入れたのかしら」

 言われてみると、確かにその手紙には消印がなかった。

「おかしな手紙ね。誰からの手紙かしら」

 ママが首をひねる。

 この数年間、うちにパパあての手紙が来たことはない。この手紙の差出人は、パパがうちに戻って来ていることを知っているのだろうか。

「大学の人かな。それにしたって、名前くらい書くわよね」

「今日は父さん遅いから、見せるのは明日になるね」

「そうね」

 わたしと愛矢に向かってうなずいてから、ママはもう一度繰り返して言った。

「本当に、おかしな手紙。一体誰が……」

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