第6話 責任

「オカルトお兄さん!!」

『ーー……ル、……ど!』


 掠れた音声に焦りが募った。何度か声をかけて言い直してもらう。そして辛うじて聞き取れた二つの言葉を脳内で繰り返した。


 ”メール”

 ”もう一度”

 

「……わかった!」


 俺は全速力で部屋に戻った。ノートパソコンを開いてメールを開く。今回の依頼人からのメールだ。


「嘘……なんだよこれ……」


 メールの文が、届いた時とは全く異なっていた。送られてきた日付は同じなのに、内容は随分と短く、文体も180度違う。



『連れ出してくれてありがとう。ここはとてもいい部屋だわ!』



 はっと息を吸って俺はまた部屋を飛び出した。向かう先はあの男女が生活していたはずの部屋。まだ警察が来ておらず、鍵が開いたまま中に入ることができるはずだ。


「っ……」


 静かな部屋に忍び込む。住人は二人以外いないようで、中に人の気配は全くない。部屋の構造は俺の住んでいる部屋と同じ。俺はすぐに風呂場に走った。


「うわ……」


 風呂場の壁は乾き切り、ところどころひび割れている。水を外に出さない風呂の壁が簡単に割れるわけがないのに。体が震える。このマンションの全ての風呂がこうなってしまうのか。そんな、俺の所為で。


「……?」


 絶句していると、緩く乾いた風が頬を撫ぜた。体にまとわりつくように離れず、少し気味が悪い。


「あ、もしかして」


 このまとわりつく風が、俺はカワギなのではないかと思い当たった。そう考えた瞬間に喉がひどく乾く感覚。俺はすぐさまその部屋を飛び出した。ロビーに出てもその風の感覚はまだ感じられる。俺は今カワギを纏っている。もしなんとかするとしたら、カワギを連れたまま他の場所に行くしかない。

 そして適する場所はやはり、あの銭湯だろう。その足で銭湯に走った。


 風が重い。喉の渇きが毎秒ひどくなる。汗も出ず、口を開いても乾いた息が漏れるだけ。


「くそ……」


 銭湯のもう目の前まで来ているのに、あと少しが遠い。辛うじて動いていた足は、銭湯の駐車場でとうとう止まってしまった。体の水分が吸われているのがちゃんとわかる。

 立っていられなくなり、俺はその場に倒れ込んだ。脱水症状どころじゃない。腕や足、目、鼻、口の全てからものすごいスピードで渇きが広がっていく。息をするだけで痛かった。


「ぁ……ぁ」


 ああ、もう終わりだ。不思議調査員だなんて簡単にするものではなかったのだろうか。未知な事柄に心を奪われて気軽に手を出しすぎてしまった自分の行動に、初めて……いや、何度目かの後悔をした。

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