性癖2

「なあ清水。お前、このグラビアアイドル見て『セクシーやな!』って思う?」


「いや、思わんな。斉藤はどないやねん?」


「うーん…、俺も思わんな」


 独身生活を謳歌する清水と、新婚生活で妻との性生活に不具合を生じているらしい斉藤の二人は、今日も会社帰りに西梅田の居酒屋で斉藤の性の悩みについて語り合う事になった様だ。


「このアイドル、カワイイはカワイイやん?」


「せやな」


「けど、セクシーかって言われたら、そうでも無いやん?」


「せやな」


「このアイドル、せっかく水着姿になっとんのに、『ぜんぜんセクシーちゃいますね~』とか言われたら、ショックやと思わん?」


「そらそうやろな」


「となると、何かアドバイスしたるんが大人の男の義務やと思わんか?」


「さぁ…、そこまでは思わんけど、まぁ、斉藤がそこまで言うんやし、アドバイスしよか?」


「お、じゃあ、清水先生のアドバイスを聞かせてもらおか」


「おし。じゃあ、この写真やねんけどな、プールサイドで水着のアイドルが、内股で猫の手みたいなポーズしとるやん? まず、このポーズがあざといのがイカンと思うんよ」


「あざといか。なるほど。この『私カワイイねん』って自分で分かってる感じがにじみ出てるのはあるかもな」


「そうそう。俺らも40歳になって、なんちゅーか、女のブリっ子とか見るのしんどくなってきてるやん?」


「あ~、分かるわ。って事は、このアイドルをセクシーにする為に、どんなアドバイスをすべきやろか?」


「せやなぁ…。やっぱり、ポーズを変えるべきやろな」


「ほう。どう変えるのがええんやろか」


「やっぱ、M字開脚で両手で胸だけ隠してるって感じがエエんとちゃうやろか」


「なるほど。マニアックやな。胸を隠して恥じらいを残しつつ、下半身の防御は甘いって感じがセクシーっちゅー事か?」


「おお、そんな感じやな」


「…けど、それはちょっと露骨過ぎとちゃうやろか?」


「何がや?」


「いや、だって水着やで? ビキニやで? 元々防御力弱い装備しかしとらんのに、M字開脚は弱点さらけ出し過ぎやろ」


「…なるほど。ほたら、ちょっと防御力の高い装備させたったらエエんとちゃうか?」


「スカート履かせるとかそういう事か?」


「まぁ、そやな。スカートみたいなんでもエエし、バスタオルとかでもエエと思うけどな」


「なるほどな。チラリズムっぽくする事で、水着が下着に見えるっていう作戦か」


「せや。これでセクシー度が大幅アップするやろ」


「なるほどな~。清水、お前って天才やな」


「おお、そうか? じゃあ、こっちの写真もいっとくか?」


「おお、いっとこいっとこ」


「こっちの写真は、アイドルがセーラー服着て教室の窓際に腰かけてこっちを見てる感じやん?」


「おお、せやな」


「こんなん、高校の時とか、教室で女子が普通にやっとったやんか」


「まぁ、そやな」


「これやと、あまりに日常的過ぎてセクシーさを感じへんやん?」


「そうか? 何か、これから告白でもされるんかっていう緊張感みたいなんは感じるけどなぁ」


「いやいや、それはそうかも知れんけど、セクシーさは無いやんか」


「それはまぁ…、うん。そうかもな」


「でや、やっぱここでセクシーさを演出する為には、片足を上げて両手で膝を抱える様にして、スカートの合間からパンツがチラ見えするのがエエと思うんよ」


「おお、なるほどな。それは確かにセクシーやわ」


「せやろ? けど、俺らくらいのベテランになると、もっとセクシーな方がええ気もするなぁ」


「おお…、俺らは一体何のベテランなんや?」


「それは今はどうでも良くてやな、とにかく、教室の窓際やなくて、教室の机に腰かけて、その上でやっぱM字開脚がエエと思うんよ」


「…だいぶ変態みたいになってきた気がするけど、っていうかお前、M字開脚好きやなぁ」


「え? だってセクシーやん? M字開脚。斉藤はM字開脚好きちゃうのん?」


「いやいや、好きっちゃ好きやけど、清水ほど熱烈なM字開脚の信者やないで」


「そうなんか…、まぁ俺も、M字の角度が30度くらいやないと興奮せんねんけどな」


「何やその30度って、どの部分の角度の事言うとんねん?」


「そらお前、M字にした時の膝の裏側の角度に決まっとるやないか」


「そうなんか…、そんな決まりあるん知らんかったわ」


「いやまぁ、公にそんな決まりがある訳やないけど、俺くらいのベテランになると、M字の角度はこだわるで普通」


「…そうなんか。で、お前は一体、何のベテランなんや?」


「でな? この角度が広すぎて、特に45度を超えると、パンツのシワが無くなってまうんよ。これがアカンのは分かるやろ?」


「…いや、よう分からんで」


「けど、角度が15度くらいしか無くて膝と膝が近すぎたら、パンツが三角形にしか見えん様になってまうやん。これがアカンのはさすがに分かるやろ~」


「…いや、それもよう分からんけど…、お前がM字開脚へのこだわりがえげつない事は分かるわ」


「おお、せやろ? 俺くらいのベテランになると、膝の角度でパンツのシワがどう出来るかまで分かるからな」


「へぇ…、清水がそこまでベテランやとは知らんかったわ…」


「そうか? まぁ、あんまり他人に自慢できる様なスキルやないんやけどな」


「おお…、そこは自覚しとるんやな」


「で、M字の角度の話に戻るんやけど」


「ち、ちょっと待ってくれ。M字の話はもうエエわ」


「何や、もうエエんか?」


「ああ、もうエエ。…っていうか、お前が結婚できひん理由が分かった気がするわ」


「え? マジで?」


「まあ、何となくな」


「そうなんや…、で参考までに聞きたいんやけど、その理由は何なんや?」


「いや、理由も何も清水お前…、変態やん?」


「え? 嘘やろ? 俺、変態なん?」


「だってさっきからお前、M字開脚の話ばっかりやん。どうせこれまでの彼女にも、M字開脚を求めてきたんやろ?」


「いや、求めてきた訳やあらへんで? 自然にそうなる様に、俺が演出してきただけで」


「いや、そんなんさすがにバレるやろ。これまで何人も彼女と付き合ってきててすごいなぁと思ってたけど、もしかしてどの娘も長続きせんのは、お前の並々ならぬ性癖に恐れをなしたからとちゃうか?」


「…嘘やろ?」


「いや、俺は知らんがな。お前が思い返してみるしかないやろ」


「…なるほど。そうやったんか…。そう言われたら、そんな気がしてきたわ」


「そうか…、まぁ、お前は独身なんやし、まだチャンスはあるで」


「おお、何か励ましてもろて、ありがとうやで」


「どういたしましてや。…ところで」


「ん?」


「俺もちょっと嫁に試してみたいんやけど、M字開脚してもらうには、どうしたらええんや?」


「おお! ええやないか! 斉藤もこの境地に目覚めたんやな?」


「いやまぁ、お前ほどやないけどな」


「ええねんええねん! 最初は誰でも初心者やねんから! 俺ほどのベテランになるとやな~」


「いや、だから。お前は何のベテランやねん!」


 西梅田の繁華街の一画に佇む居酒屋の片隅で、二人の男のバカバカしい会話は続くのだった……。

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