合コン

「なあ柴田、お前の好きなタイプの娘はおったん?」


「…いや、残念ながらおらんかったわ。川本はどやった?」


「いや、俺はまだ判断保留やな」


「…そうなんや」


 合コンが終わり、二次会に行くグループと一次会で離脱するグループに別れるタイミングで、二次会に参加しようか悩んでいた川本は、合コンに参加したグループから少し離れた場所で佇んでいる柴田に声を掛けたのだった。


 合コンに集まったのは、男は同じ高校のクラスメイトだった同窓生で、女は幹事の嫁の同窓生だった。


 今回の参加者は、幹事以外は全員が未婚で、男のグループは皆男子校出身、女のグループは皆女子校出身という集まりだった。


 全員が四十路に手が届く年齢という事もあり、人生の酸いも甘いも噛み分ける大人なだけに、ひと筋縄で攻略できる合コンでない事は全員が理解していた。


「で、柴田は二次会どうするん?」


「俺はやめとくわ。川本は?」


「俺は…、迷ってるんやけど、柴田が行かんのやったら、俺もやめとこかな」


「そうか…、川本は気になる相手はおらんかったんか?」


「う~ん…、おらん訳じゃないんやけど…」


「へぇ、どの娘が気になるんや?」


「いや・・・、幹事の山田の嫁が美人やったなぁって思ってな」


「それはアカンやろ。人妻やないか」


「やっぱ、そうやんなぁ…」


「他にはおらんかったんか?」


「う~ん…、おるにはおったんやけど…」


「じゃあ、それでええやん。で、どの娘なん?」


「ほら、あの、宮田さんやったっけ? めっちゃオッパイの大きい娘」


「あ~、確かにおったなぁ。俺は全然話してないけど」


「うん、俺もほとんど話してないねんけどな。っていうか、オッパイばっかり見てたから、あんま顔とかも覚えてないんよな」


「何やそれ」


「いやだって、あれはGカップはあるで? それだけで女神やろ」


「…まぁ、オッパイには幸せが詰まっとるからな。分からんでも無いわ」


「だけど顔が思い出せんのよな。ずっとオッパイが会話してるのを見てる気分やったもんな」


「…ほたらお前、その娘ともっと話す為にも二次会行ったらええやん」


「う~ん…、せやけど、他の男もあの娘を狙ってる感じあったやん?」


「ああ、そうかも知れんな。それがどないしてん?」


「いや、俺なんかがしゃしゃり出ても、勝負にならんやろって思ってな」


「じゃあ、次に気になってる娘にアタックしたらええやん」


「次かぁ…、次は守屋さんかなぁ」


「ああ、俺の隣に座っとった娘やな」


「そうそう、気になっててんけど、柴田は何で隣に座ってたのに守屋さんとほとんど会話してなかったん?」


「ああ、何か、俺の反対側に座ってた杉田の事が気になってるっぽかったからな。俺はちょっと遠慮しとったんよ」


「ああ、杉田なぁ。あいつ俺らの中じゃイケメンな方やもんなぁ」


「せやな。女も40歳になると遠慮とか無いからな。杉田へのアプローチが猛獣みたいやったから、ちょっと引いてたのもあるな」


「そうなんか…、って事は守屋さんも無理っぽいし、やっぱり俺も二次会は辞退しようかな~」


「おお、お前の好きにしたらええと思うで」


「そうか…、ところで柴田はどんな娘がタイプなん?」


「何や突然?」


「いや、今日の合コンって女性陣もそんなにレベル低い感じじゃなかったのに、柴田の好きなタイプがおらんって言ってたから」


「ああ…、実のところ、俺既に彼女おるねん。今日は頭数合わせで参加してただけでな」


「え…、それ、彼女も知っとるんか?」


「おお、知っとるで。この後彼女に会うし」


「ええ!? …その彼女ってどんな彼女なん?」


「ええ彼女やで。ぽっちゃりしててまん丸で可愛いし。まあ、来年くらい結婚すると思うけど」


「おいおいマジか! 柴田ってデブ専やったんか?」


「デブ専とか言うなよ。ぽっちゃりが好きなんや」


「…で、デブとぽっちゃりの違いって何なんや?」


「さあ…、トータルで可愛いのがぽっちゃりで、そうやないのがデブとちゃうか?」


「…なるほど、新しい境地やな」


「そうか?」


「…で、そのぽっちゃり彼女は、オッパイ大きいんか?」


「何聞いとんねん。…まあ、大きいけど」


「…そうか。多分、幸せが詰まっとるんやろなぁ…」


「ああ、老若男女、オッパイが嫌いな人間はおらんやろ。生まれた時からオッパイにはお世話になりっぱなしやで」


「…そんな事、考えた事も無かったわ。けど確かに、俺がオッパイ好きなんは、そういう本能的な何かが原因やったんかも知れんな」


「お前の好みの事はよう知らんけど、最近はオッパイが小さいのがええっていう奴も結構おるらしいな」


「ああ…、俺も昔はそうやったわ」


「へぇ、川本は何で今はオッパイが大きい方がええんや?」


「何でって…、オッパイ小さい娘が好きって言ったら、ロリコン扱いされるやろ?」


「そうか? 今日の参加者も3人はオッパイ小さいのおったけど、別にロリコンとは思われへんやろ」


「いやまぁ…、確かにそうやな」


「お前はお前の好みを追求したらええんちゃうか? オッパイの大きさに縛られる人生とかじゃなくて」


「…そうなんかな。俺、オッパイが小さい娘が好きでもええんかな」


「ええに決まっとるやろ。たいたい、女の価値はオッパイで決まるんちゃうやろ」


「…そうか。そうやんな! 柴田の言う通りやな!」


「おう、って事で、お前は二次会に行って来い」


「…いや、それはやめとくわ」


「おいおい、何でやねん?」


「いや、だって…、40歳やと、オッパイしわしわやん?」


「はあ?」


「え、いや・・・、ぷりぷりのちっぱいって、やっぱ若い子やないと維持でけへんやろ?」


「いやいや、お前は何を言うとるんや? たいたい、ぷりぷりのちっぱいって何やねん?」


「え? そりゃあ、張りがあって、すべすべなちっぱいの事やんか」


「…お前、ロリコンか?」


「…え? いや…、え?」


「胸の大きさなんか気にするなって意味で俺は言うたつもりやったけど、お前のそれは、何か違うやろ」


「あ、いやいや、分かってる分かってる! 柴田の言いたい事は分かるで! 昔!昔な! 俺がそういうの好きやったんは昔の話やで!」


「…っていうか、川本お前、もしかして童貞か?」


「…ち、…違うと思う」


「いやいや、そこは断言せえよ。断言できん時点でお前は童貞確定やろ」


「え、いや…、一応…、やった事あるで?」


「まさか、相手は未成年とかちゃうやろな?」


「違う違う! それは無い! 見た目は幼いけど、歳は100歳を超えてるから!」


「…はぁ? どういうこっちゃねん。それホンマに人間か?」


「いや、人間というか…」


「じゃあ一体何や? これは一体何の謎かけやねん? それか夢の中の話なんか?」


「いや、違う違う! リアルな話やって!」


 話がとんでも無い方向に進んでしまった事に呆れた柴田は、大きくため息をついて、川本を見据えた。


「…もうええわ。お前がどこのダッチワイフと経験したかは知らんけど、とりあえず今日の二次会はやめとけ。お前に合う女がこの世におるかは知らんけど、一応彼女に相談してみるわ」


「…あ、ありがとうやで。けど俺、童貞ちゃうからな…」


「もうええ。お前が童貞かどうかなんか俺にはどうでもええ話や」


「…そうか、まぁ、そやな。…で、いつ彼女紹介してくれるん?」


「お前なぁ…」


 柴田はそう声を上げて川本を睨みつけたが、オドオドと卑屈な表情を受かべる川本の姿に、何だか全てがバカらしくなってしまった。


「…川本。お前はまず、自分を見つめ直す事から始めた方がええわ。彼女の紹介の話は忘れてくれ」


「…え、あ、そうなんか…」


「今のお前に紹介できる女は、俺の周りに居そうにないわ」


「…それは、しゃーないな」


「ほな、そろそろ時間やから、俺はもう帰るで」


「ああ、うん。お疲れ~」


「ああ、お疲れ」


 そう声をかけて分かれた二人だったが、他の合コンメンバーは二次会に向かったのか既にその場にはおらず、川本も梅田駅に向かってトボトボと歩き出した。


「言われへんよなぁ…、あんな事」


 そう呟いた川本の脳裏に、過去の記憶が映りだす。


 高校の校舎裏に植えられた、樹齢100年を超えるガジュマルの木。


 それは、分岐した枝が見る角度によって奇跡的に少女の裸体の姿に見える事に気付いた、17歳の川本の初体験の相手の姿だった…

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