第三十六話 女神ディナの苦悩
カフェで本を読むフリをしながらビーチェたちの様子を
美味しそうなスイーツ三昧で食い倒れをしてみたい!
ラム酒漬けのケーキ、ババ。
皆さんもよく知っているマリトッツォ。
そしてジェラート! 私はビターチョコレートとコーヒー味にしました。
苦みが利いた大人の味、美味しいですわあ。
女神だってたまにはグルメを楽しみたいんですう!
それをサリ様ったら、
私が祭り特設の、オープンテラスの席でジェラートを食べていると、後ろから肩をツンツンされました。
「ディアノラ様、こんなところにいたんだ」
『あら、あなたたち来たのね』
ビーチェとジーノでした。
相変わらず二人で行動していますが、デートだなんて全然思ってないでしょうね。
「ねえ、もう一回大聖堂の礼拝室へ行ってみない?」
『ああ…… でもきっと同じ結果になりそうですよ』
「やってみなくちゃわかんないって。今日は祭服じゃないから怪しまれないし、ゆっくりやれるよ」
「そうだよ。ビーチェの言うとおりだ」
『そうですね…… じゃあそうします。あっ アイス食べ終わるまでちょっと待ってて下さいね』
ビーチェの勧めで、もう一度大聖堂へ行くことにしました。
私は残ったコーヒージェラートを慌てて食べ、ビーチェたちについて歩きました。
口の中がちべた過ぎるし、味がよくわからないし勿体ないですぅ。
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再び大聖堂の一角にある、
パレードの時間ではないので大聖堂内は祈りを捧げる人たちで大賑わい。
昨日は誰も居なかったから私はそんなに人気が無い神なのかと心配しましたが、今日は礼拝室も人だかりで安心しました。
「うーん、やっぱり来る時間を間違えたかなあ」
「これじゃあゆっくりお祈り出来ないよな」
『パレードの時間に合わせて出直すことにしましょう。今ここで祈っても、もし何かあって人々を巻き添えにしちゃうといけませんから』
老若男女の皆さん、
「でもさあ、本人が目の前にいるのにみんながああやって祈ってるのを見ると面白いよね」
「みんな何を願っているんだろうな」
『私に祈っても何も出てきませんから、ご苦労様なことです』
「ええ…… ここでそれ言っちゃうの?」
『そんな何百人何千人の願い事なんて知りませんよ。あーでも、ここへ来たのも何かの縁ですから、軽く祝福をして差し上げましょう』
私は、礼拝室にいる皆に向かって小声で言いました。
『愛の神サリ様、ここにいる皆に祝福がありますように――』
「そういえば昨日もだったけれど、なんかおかしくない? 女神様なのにサリ様へお願いするなんて」
「あっ ホントだ」
『シーッ サリ様のほうが
「なんだあ。ディアノラ様って大した神様じゃないんだ」
「うぷぷっ ウケるっ」
『なんて失礼な子たち! ほらっ 早速祝福の効果があったようですよ』
礼拝室にいるお年寄りから若いカップルまでいろんな人たちが、次々と歓喜の声を上げています。
「おおっ! 急に腰の痛みが無くなって、身体が軽くなったわい!」
「お爺さん! あたしゃ膝の痛みが無くなったよ!」
「家の中へ隠したヘソクリの場所を忘れて困っていたけれど、今思い出した!」
「えっ 目が! ぼやけてた目が急に良く見えるようになったわ! これなら眼鏡いらない!」
「今はっきりわかった! 僕には君しかいない! 結婚しよう!」
「まあ嬉しい! 女神様の前でプロポーズしてくれるなんて素敵!」
言葉がわざとらしいですが、そこは気にしないで。
思っていたより効果があって
「すっげえ。みんなに幸福が訪れた! 他にも人がいっぱいいるけれど、効果あるの?」
『今日中には何かが起こります。家に帰ったら何か良い事があるかも知れませんね』
「へー 俺も祈ってもらおうかな」
「おまえ、あたしと一緒が不幸だから祈るのか? コラ」
「ああいや…… そういうことじゃなくてさあ――」
ちょっとビーチェったら、その言い草はジーノがあなたのことをちょっとでも嫌がっているんじゃないかと自覚しているってことですよ。
だからジーノは浮気男のように露骨な行動をしないまでも、他の女の子に目移りしていまうんです。
ああ…… この子たちの将来が心配になってきました。
『さあ、出ますよ。パレードが始まるまでお祭りを楽しむことにしましょう』
「よしきた!」
「よーし! また食べるぞお!」
『あなたたち、やっぱり食べることしか頭にないんですね』
若い子たちの胃はどれだけ貪欲なのでしょうか。
特にこの二人は燃費が悪そうですけれど、美味しい物を好きなだけ食べられるのは羨ましいことですね。
サリ様が祀られている大きな礼拝堂を通り過ぎると――
「あの、もし……」
わわっ 昨日も見かけたオバサン修道女がいましたよっ
人混みに紛れて、知らないフリをして通り過ぎましょう。
(ああ…… 行ってしまった…… あのお方、昨日は祭服だったのに今日はケバケバしい服を着てらっしゃるんですね。やっぱり偽物なのかしら? 今度見かけたら問い詰めなければいけませんね!)
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再び露店が並び賑わっている通りに来ました。
甘い物は別腹なのか、二人はあちこち店をまわりスイーツ三昧。
この二人、食べてるときは必ず仲良しになっているんですよね。
ああもう! あんなに食べてるのに全然太らないなんて羨ましいです!
大食い選手権があったら絶対優勝しますよ。
「あっ シスターの女の子たちがいっぱい出てきた! 今日のパレードはもっと早い時間にやるんだ」
「俺、ちょっと見たい……」
「このスケベ! 行くんだよ!」
「痛てててて! なんでスケベなんだよっ! また耳引っ張りやがってえ!」
どうやら昨日より早くパレードが始まるようで、準備のために出発点まで向かっているようです。
ビーチェはジーノの耳を引っ張って大聖堂まで向かおうとしています。
近頃ジーノの思春期が進み、女の子に目移りするようになってきましたからね。
ビーチェは無意識に妬いているんでしょうが、それじゃあ逆効果ですよ。
さて、私たち三人は再び大聖堂へ向かいました。
やはり中の人はほとんど出払っており、ガランとしていました。
あのオバサン修道女に見つからないうちに礼拝室へ行くことにします。
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本日二度目の礼拝室です。
早速私は、私自身である女神ディナ像の前に立ち、ビーチェとジーノに祈ってもらいます。
「じゃあ、ディアノラ様―― 始めるからね」
『よろしくお願いします。あ、女神ディナ様が天界へ戻れますようにと雑念無く繰り返し強く念じて下さいね』
「あ…… ああ、わかったよ。雑念無くね……」
「もしかしてこれでお別れになると思ったら、俺ちょっと寂しいな」
『ちょっと、ですか…… あいや、お願いします……』
ビーチェとジーノは目を閉じ、素直に祈ってくれてます。
この辺はとても良い子たちなんですけれどねえ。
(女神ディナ様が天界へ戻れますように。女神ディナ様が天界へ戻れますように――)
(女神ディナ様が天界へ戻れますように。女神ディナ様が天界へ戻れますように――)
おや? 後ろの像から何か引き寄せられる感覚が。
これはもしや――
『二人とも、良い感じですよ! このまま続けて下さい!』
「そうなの?」
「ああ、やっぱりディアノラ様とお別れかあ」
そう言いつつ、二人は祈りを続けました。
おお? おおお? いいですよ! 良い感じです!
バシイィィィィィッッッ
『あ痛たたたたたたたた!! 頭打ったあ!』
上手く行くかと思っていたのにいい!!
痛すぎて、床をのたうちまわってしまいました。
二人に無様な姿を見せてしまうなんて、神失格ですわ……
「おおおいい!! ディアノラ様大丈夫ぅ!?」
「うわっ 本当に痛そう……」
女神像に吸い寄せられるということは、二人の祈りがこの女神像に作用されていること間違いありませんわ。
もう一度挑戦してみましょう!
『も、もう一度ですわ!』
「ええ? ディアノラ様がそう言うなら……」
「また失敗しても知らないぞ」
『今度こそ、本気で祈って下さいね!』
「あーっ それって失敗の原因があたしたちみたいで嫌だなあ」
「まあそう言わずに、早く帰ってもらおうよ。あっ 願い事を叶えてもらう話、どうなったの!?」
『それは天界へ帰ってからでも、どうにでもなりますから……』
「ああ良かった。じゃあビーチェ、祈るぞ!」
「よーしっ もう一回だ!」
ううう…… 二人の言葉にとても複雑な気分です。
そりゃ
サリ様には遠く及びません。
でもこの大聖堂で祀られているなんて、嬉しいじゃありませんか。
私も目を閉じて、この街のために祈りましょう。
ロッツァーノの人々が幸せになりますように――
(女神ディナ様が天界へ戻れますように。女神ディナ様が天界へ戻れますように――)
(女神ディナ様が天界へ戻れますように。女神ディナ様が天界へ戻れますように――)
バシイィィィィィッッッ
『あ痛い痛い痛いいぃぃ!! うぇぇぇぇぇぇん!!』
「あー、また失敗しちゃったよ」
「わっ パ――」
(むはーっ ディアノラ様、大股広げて白ぱんつ丸出しじゃん。脚綺麗だし、えっろ。――見てないフリしてよっと)
ううううっ 痛いいいいいっ 涙が出てくるぅっ
なんてみっともないの……
でも、もう一度だけなら!
『あともう一回! お願いします!』
「うーん、ディアノラ様がそう言うならするけれど……」
「帰れないなら、最初言ってたみたいに俺たちとしばらく一緒でいいからさっ」
『これで最後にします。お願いします』
「――わかった」
「最後だからな」
三度目の正直と言いたいところですが、何がいけないのかわかりません。
この二人に邪念は無いと思いますが――
どうかどうか次こそはっ
(女神ディナ様が天界へ戻れますように。女神ディナ様が天界へ戻れますように――)
(女神ディナ様が天界へ戻れますように。女神ディナ様が天界へ戻れますように――)
バシイィィィィィッッッ
『うおえぇぇぇぇ! 背中打ったあああああっ 痛い痛い痛い痛い痛い――』
「ああもう! 泣くほど痛いならしなきゃ良かったのに!」
「ディアノラ様、もうホテルへ帰って休もう」
『すみません…… グスン……』
ビーチェは
はぁ…… 何か作用しているのは確実なのですが、上手く行けばきっと女神像に吸い込まれて天界へ帰れると思うんです。
二人の祈りが間違いなければ、
もしそうだとしたら、何年経っても帰れませんよ?
『とりあえず、ここを出ましょう』
「ディアノラ様、なんか可哀想」
「ジェラートでも食べて元気だそう」
『え……』
ジェラートはさっき食べたんですが……
この子たちのお腹の基準では、
---
再びサリ様像が祀られている礼拝堂を通り抜けます。
誰も居ませんね……
『二人とも、誰もいないうちに早く行きましょう』
「「うん」」
私たちは足早に礼拝堂の通路を歩いていると――
「もし。あなたたち!」
『はいぃぃぃっ!?』
――横から急にオバサン修道女から声を掛けられました。
この人、気配を感じませんでしたよ! 何者なんですかあ!?
「昨日、祭服をお召しなっていらっしゃいましたが、今日のお姿は……」
『いえこれは普段着で―― オホホホホホ』
オバサン修道女は私を怪しい目で見ています。
どうしましょ…… ああもう面倒だから術を使います!
『あの、私の目を見て下さい』
「え?」
――ピキーンッ
「ああっ 失礼いたしました。私はこれで――」
私が術を使いオバサン修道女の目を睨むと、彼女はあっちの方へ歩いて行ってしまいました。
やはり私の能力が落ちているわけではないようですね。
サリ様と連絡が取れるようになれば、すぐに相談しなければいけません。
「あれれ? どうなっちゃったの?」
『ちょっと術を使いました。このくらいのことなら、ウルスラにも出来ますよ』
「え? ディアノラ様、何でそんなこと知ってるの?」
『あっ いや、そんな気がするだけです』
「そっかあ。神様だからそんなこともわかっちゃうんだね」
ウルスラが勇者一行のメンバーの時から、私は見ていました。
彼女の力は凄すぎます。私をも凌駕する力を持っているのではないかと。
彼女はちゃらんぽらんした性格ですが、あれで優しいので監視対象から外れました。
バルはさらに別格で危険を感じたので監視をしているんです。
あれから二十五年、何事も無かったから良かったものの、大魔王ゼクセティスとの戦いは国が滅びかねないほど苛烈極まりました。
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