第三十七話 ロッツァーノを出発/登場人物紹介
神ですから痛みはすぐに回復出来ますけれど、精神的ダメージが大きくてソファーでゴロッと寝込んでいるところです。
上手く行きそうだったのに――
サリさまぁ、どこの世界へ行っちゃったんですかねえ。
早く天界へ帰ってきて下さーい!
――コンコン
「失礼します。おかえりのご様子でしたので、伺いました。何かご用は…… え!? お客様、如何なされましたか!?」
ベレニーチェさんが部屋に来て下さいました。
ああ、彼女は部屋付きの係でしたからきめ細かいサービスが有るんでしたね。
『ああいえ、疲れたので横になっているだけですよ』
「それでしたら、甘いココアでもお作りしましょうか?」
『そうね…… お願いします』
ベレニーチェさんは早速、部屋にある戸棚からココアの缶を取り出して魔法ポットでお湯を沸かし作り始めました。
ここのホテルの部屋って、魔動冷蔵庫もあって中にジュースも入っているし、お酒以外の飲み物ならだいたい何でも揃っているんですよね。
「――どうぞ。熱いのでお気を付け下さい」
『ありがとう。――美味しいわ』
「お一人でおかえりだったのですね」
『ええ、あとの三人はお祭りを楽しんでいるわ。いつ帰ってくるのやら。オホホホ……』
「あああの…… お伺いしたいことがあるんですが、よろしいでしょうか?」
『はい。何でしょう?』
ベレニーチェさんはもじもじしながら少し恥ずかしそうに
これはきっと、個人的なお悩み相談になりそうですよ。
面白そうだから聞いちゃいましょう。
「ベアトリーチェ様とジーノ様は幼なじみ同士で恋人ではないと聞いてますが――」
『ええ、仲良しではあるけれど姉弟と同じような間柄で、好き合っているわけではないようですね。それで?』
「わ、私…… ジーノ様のことが気になっていて―― 可愛くて、お風呂上がりに―― は、初めて男の子の裸を見てしまいましたから…… キャッ」
ああ、初日にそんなことがありましたね。
ベレニーチェさんは恥ずかしがって両手で顔を隠してしまいましたが、あなたの正体は知っていますよ。
ジーノのぱんつを思いっきり嗅いで喜んでいたのですから。
まあこの子がジーノに気があるのは気づいていましたけれど、痴女の気がある子をジーノと一緒にさせるのは心配だなあ。
ジーノはベレニーチェさんの三つ年下でしたっけ。
確かにあの位の年代ならば三歳差でも可愛く見えますよね。
『でもあの子たちは明日の朝、出発してしまいますよ。二度と会えないかも知れませんが』
「はい―― それなんですが、皆さんはずっと南にあるパウジーニ伯爵領のアレッツォという街に住んでいると聞きました。いつか遊びに行けたらなあと思っています」
なるほどね―― 彼に会いに行きたいと、もう自分で答えを出しているんですね。
相談ではなく、話を聞いて欲しかったなのでしょう。
まあ、ベレニーチェさんの恋の目覚めに水を差すのも良くないので、どう言ってあげたら良いのかしら。
『遊びに行くのは良いとして、そこから彼の心をあなたに
「ええ…… 確かに厳しいですが…… あの――」
『うん?』
「いっそのこと―― アレッツォに住んでみたいです!」
ベレニーチェさんは目をキラキラして私に訴えました。
まさか引っ越してまで彼のことを思っているとは考えもしませんでした。
でもほっぺにチュッしてしまいましたから、ジーノは何か想いを膨らませているのかも知れません。
『その意気込みです! 私も応援しますよ!』
「ありがとうございます! うふふっ 一度遊びに行って、働き口も探してみます!」
『そうね。宿場町だから田舎でもあなたならば仕事はすぐに見つかりそう。頑張って!』
「はい! それでは失礼します!」
ベレニーチェさんは
私に話すことで決心がついたようですね。
しかし―― 私が推しちゃったけれど、
もしかしたらアレッツォで三角関係が始まっちゃったりしてね。うっひっひ
ビーチェがいつまでも気持ちをはっきりしないから、良い刺激にもなりそうです。
そうそう、この国は一夫多妻が認められているので、上手く行けばジーノが二人を
ビーチェの性格では将来は恐妻確定なので、無理ですかねえ。
---
さて、ココアでも飲みながら――
ビーチェとジーノは何をしているのか見てみましょう。
「うひょほっ パレードの折り返しが帰って来た! どうしてこの街のシスターはみんな可愛い子ばかりなんだろうな!?」
「知るか! 下心があるバカはディナ様のバチが当たれ!」
「そんなんじゃねえって! 純粋にそう思っただけだ」
「どうだかねー」
ビーチェも何だかんだ言いながらシスターのパレードを見に行っているようですね。
また喧嘩をしていますが、ジーノの軽い一言でビーチェが過敏に反応しているということは、彼女は相変わらず焼き餅ですね。
ただベレニーチェさんを入れてみて、二人に刺激を与えてみるのも良いと思って。ぐふふ
さてウルスラは――
「おっちゃーん! ビールもう一杯ついかー!」
「あいよ。ねーちゃん朝からずっと飲んでて、よく泥酔しないよな」
「うひひひひっ 酒は私と友達だからな! グビグビグビ―― ぷはーっ」
「あんたの飲みっぷりなら
昨日とは違う屋台で、自分が座っている席の周りの客を巻き込んで飲んでいました。
一体何を話しているんでしょうか。
一応美人だから男は寄ってきやすいんですかね。
あっ ウルスラが食べているのはどうみても日本の焼き鳥では?
あんなに山盛りを頼んで、よく食べますねえ。
そうそう、イタリアにもポッロスピエディーノ(Pollo spiedino)という鶏肉の串焼きがあったのを思い出しました!
それと全く同じなんですよ。特産のトマトやピーマンを挟んでいるのはこの国らしいですねえ。
ああ…… 私も食べたくなってきました…… じゅる
また奢って貰おうかしら。
---
結局
『アヒャヒャヒャヒャ! ゴクッ ゴクッ グビッ グビッ ぷっはぁぁぁぁ!! あああああ美味しいですわ! この焼き鳥も―― モグモグモク―― いくらでもイケますうぅぅ!』
「あのディアノラ様…… 飲み過ぎでは? あとぱんつ丸見え……」
『ビールと焼き鳥の美味しさのことを思えば、ぱんつぐらいどうだって言うんですかあ! うひゃひゃ!』
「まさかこんなに酔っ払うなんてねえ―― あれ? え? なに? いつの間に、このお店だけこんなにお客が来てんの? これってディアノラ様のせい?」
翌朝になってウルスラから聞いた話では、
飲んでいるときは大股開いてスカートからぱんつ丸出し状態で、男性客に披露していたとか……
全く記憶がありませーん! 恥ずかしいいぃぃぃっ!!
しばらくお酒は自重しましょう……
---
私たちはロッツァーノのお祭りで英気を養い、翌朝は再び王都へ向かうために出発します。
朝食前にベレニーチェさんが、昨日のうちに出しておいた洗濯物を渡しに来てくれました。
「おはようございます、皆様。二泊三日、私どものホテルをご利用頂きありがとうございました! これ、お洗濯物です」
「ありがとうニーチェ! お世話になったね!」
「いえいえとんでもございません。私もお客様とふれあえて大変楽しかったです」
(ゆうべも洗濯場でジーノ様のぱんつの香りが堪能出来たわ! もう思い残すことはありません! あっ これから頑張れば、いつか毎日嗅げます!)
ベレニーチェさんの顔が何故かにやけてますが、良からぬ妄想をしていることでしょう。
彼女にとってお客様とふれあえて楽しかったというのは、何か別の意味がありそうです。
「グラッツェ! ニーチェ! 俺のぱんつまで洗ってくれたなんて照れるなあ。いやっはっは」
「ジーノ様の下着なら喜んで! あいや、またいつかお会いできたらいいですね!」
「うん、アレッツォにも遊びに来いよ。歓迎するぞ」
「は、はい!」
(まさかジーノ様のほうからお誘いがあるなんて…… うふふふ。これは早い内に準備をしなければいけませんね)
ジーノは洗濯物を受け取り、デレ顔に。
ほーら、やっぱりビーチェの表情が不機嫌になっています。
わかりやすいですよねえ。
ジーノがベレニーチェさんへ向けている笑顔が余計にそうさせているのです。
(ぱんつを洗ってもらったぐらいで何だよあいつ? 仕事でやってもらっただけなのに、勘違いすんなよボケ。そんなに洗って欲しけりゃあたしでも出来るぞ)
「おはようこざいます、ディアノラ様。昨日はありがとうございました!」
『いえいえどういたしまして。上手く行くと
「ねえディアノラ様、何が上手くいくの?」
『えっ? あいや、ベレニーチェさんの仕事が上手く行くと
「ふーん、なんか怪しい気がするけれど」
ビーチェが急にそういうことを聞くからびっくりしました。
ジーノをベレニーチェさんに接近させたことについて、女の勘というのかビーチェは鋭いのでしょうか。
「ふわぁぁ…… おはよー」
「まあっ!?」
(ななななウルスラ様って、何て理想的な裸体なの!? 女の私でもおかしくなりそう!)
「ぶはあっ また裸だあ!」
(やっぱりウスルラの裸はすげえ。子供を産んで七百歳を超えているのにスタイルは完璧なんだよな。それに大酒飲みで大食いって、ロッカ族の腹はどうなってんだ?)
「ジーノ! 見るんじゃない!」
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
ウスルラが寝室から裸のままでノソノソと出てきました。
それを見たベレニーチェさんとジーノが興奮し、ビーチェはジーノの後ろから目を乱暴に押さえて塞いでいるものだから、ジーノは痛くて叫んでいます。
まったく朝から騒がしい人たちですよ。
そうそう。ゆうべ酔っ払った私はウルスラと一緒の寝室で寝たんです。
なので服は昨日のまま。ウルスラは裸で寝ていましたから、何かされてないでしょうか。
ジーノはソファーで、ビーチェはもう一つの寝室で一人寝ていました。
堂々と二人で寝れば良いものを、ビーチェはいつもジーノが絶対近くにいると思っていると思っているのでしょうが、ちゃんと捕まえておかないと本当に離れちゃいますよ。
もしそうなったら半分は
「ウスルラ! 服を着てから出てこいよ!」
「あー、うん…… えと、ベレニーチェさんだっけ。朝食を部屋へ持って来てくれるかな? レストランで食べるの面倒でさあ」
ウルスラは眠そうに、お尻をボリボリ掻きながらベレニーチェさんにそう頼みました。
ほんとこの人は身内の中だと女を捨ててるんですね。
「はい、かしこまりました。皆さんはいかがなさいますか?」
「あー、あたしも持って来てもらおうかな?」
「じゃあ俺も」
『私も…… すみませんが、全員分お願い出来ますか?』
「承知しました。それでは早速準備してまいりますので、しばらくお待ちください。それでは失礼します」
ベレニーチェさんはペコリとお辞儀をして部屋を退出して行きました。
味は間違いなく美味しい朝食が楽しみですね。
まさか天界から覗いていた
今日中には王都へ到着します。
さてこの先はどんな道中になるのでしょうか。
---
着替えて出発の支度をしてから、ベレニーチェさんが朝食を持って来て下さいました。
なんとパニーノというイタリア風のサンドイッチ盛り合わせでした。
美味しそう…… じゅるじゅるじゅるっ
長めのパンにいろいろ挟んで、それを等分に食べやすく切ってあります。
いろんな種類があって、生ハムとモッツァレラチーズが挟んであったり、トマトとレタスとベーコンが挟んである物、鶏のササミとチーズと野菜各種が挟んである物、玉子サラダが挟んである物など
ビーチェとジーノはミルク、ウルスラと私はコーヒーで。
「「「『いただきまあす!』」」」
とても美味しく頂けました。
もうお腹いっぱい……
皆も満足したようです。
---
ホテルを出発。
ベレニーチェさんがお見送りをしてくれます。
あとついでにいる、案内係と警備係の二人も。
「まだお祭りで人が多いから街の中は歩いて行くわよ。もっとも、私は杖に乗って飛んで行くだけね」
「ズルい…… で、ディアノラ様はどうするの?」
『私も飛べますよ。高速になったら光の
「そこまで出来る能力があるのに天界へ帰れないなんて…… それに怪しい物体の目撃情報で騒がれるかもね。ハッハッハッ」
「そりゃ言えるな! ぷぷぷっ」
ビーチェとジーノが二人して私を
まったくこの子たちは……
ほらっ ベレニーチェさんたちが不思議な顔をして私たちの話を聞いてますよっ
『あああっ それではベレニーチェさん、皆様、お世話になりました!』
「バイバイニーチェ!」
「またいつか会おうな!」
「こちらこそありがとうございました! 道中お気を付けて!」
お別れの言葉が済んだ後、私たちはごく普通にロッツァーノを出発したのでありました。
お腹いっぱいなはずなのに、ビーチェとジーノが屋台へ吸い込まれそうになるのを私が止めながら――
===
◯サリ【Sari】 多神教であるサリ教の主神で、愛の女神
◯ディナ【Dina】 サリ教の神で、子宝の神
◯ディアノラ【Dianora】 ディナが下界に下りたときに使う名前。
◯ベル/ベルナデッタ【Bernadetta】(26) アレッツォの教会にいる女性神官
◯ヴァルプリ・ユーティライネン【Valpuri Juutilainen】(24) バルとウルスラの娘
◯ベレニーチェ【Berenice】(18) ロッツァーノにある高級ホテルのメイド。牛乳瓶眼鏡で、長い髪の毛を後ろで編んでいる典型的な地味子顔。ジーノに好意を持つ。
◆ビゴッティ(Bigotti) アレッツォから120km北にある街。紡績業が盛ん。
◆ロッツァーノ(Rozzano) アレッツォと王都の中間地点にある街。ビーチェの一行が到着した日はディナの感謝祭が催されていた。
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