第十九話 強敵過ぎるゴッフレード

 ゴッフレードから発せられた必殺技のゲイティル猛襲波は、四人を消し去ろうとしていました。

 ウルスラが杖を振り回し何かをしようとしてましたが、その前にバルが両手を前に出しゲイティル猛襲波の威力を受け止めてしまいました。


「ぬわりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 その受け止めた威力をバルの両手が持ち上げるようにして上に流しました。

 ゲイティル猛襲波は空高く上がり、フェードアウトして消えました。


「ふうっ そのまま受けても良かったけれど、街中じゃやっぱマズいよなあ」


「あんたは力技過ぎるよ。私は魔法で中和しようと思ってたからもっとスマートに出来たんだけどねー」


 と、バルとウルスラはケロッとしながら言いました。

 ゴッフレードを始め、ビーチェとジーノもビックリ仰天の目になっています。


「し、師匠…… あんたの力って……??」


「何言ってんだ。おまえらだってちょっと頑張ればこのくらいやれるほど鍛えてあるんだぞ。今のはお手本の大サービスだから、次からやれよ」


「えっ? ええっ!?」


 修行中は二人が見たことが無いバルの防御力をここで見せたんです。

 当然ジーノが驚くのも無理はありませんが、それ以上に修行の中で自分たちが今バルがやって見せたことが出来ると言われ、信じることが出来ませんでした。

 とにかく猛襲波を回避したわけですが、ジーノはビーチェをかばってべったりと抱きかかえたままだったので……


「ジーノ…… そんなにくっつくなよ……」


「え? ああいや、ごめん……」


「でも…… ありがと」


 ビーチェに言われて慌てて離れるジーノ。

 でもデレている彼女に、戦闘中ですがほっこりしますね。

 さて、置いてけぼり状態にされているゴッフレードは気を取り直してこう言います。


「俺様のゲイティル猛襲波をあっさり跳ね返すとは…… おおおおまえ、何者だ!?」


「何者だと言われてもなあ、そこらへんの魔物ハンター兼町食堂の料理人なんだが。おまえこそゲイティルの名を使った技を使うとは何者だ? ヴィルヘルミナ帝国出身なのか?」


「おお俺はこの国出身だが先祖がヴィルヘルミナ帝国ヨックモック族(Jokkmokk)の血筋だ。いいいやなんでおまえにそんなことを答えなくてはならんのだ!」


「あっそう、わかった。もういい」


「人に物を聞いておいてその態度…… ぬっくく……」


(魔物じゃなくて、同郷の少数部族だったか。道理で過去に聞いたことあったわけだ。ゲイティルとはあの部族が崇拝する巨人の神。技の名はそれにあやかったんだろう。王都の情報も適当だよな)


「ビーチェ! ジーノ! こいつは魔物じゃないことがわかった! だが悪いことをいっぱいしたやつは退治せにゃならん! 容赦なく徹底的にやれ!」


「あれで魔物じゃないって……」


「世の中いろんな人間がいるんだねえ」


(まてよ? あいつこの国出身って言ってたよな? ということは、あんなのが他にもガルバーニャ国にいるかも知れないってことか。――まあ今考えるのはよそう)


 この世界にはロッカ族のウルスラのように特殊な能力を持っている部族がたくさん点在していますが、ヨックモック族は私も知りませんでした。

 ああいう筋肉だるま巨人もいたんですね。ひ◯ぶって言いそう。

 ビーチェとジーノは再び戦闘の構えとなり、ゴッフレードに立ち向かいます。


「今度こそお父さんのかたきを倒す!!」


「ビーチェ! めちゃくちゃぶっ飛ばしてやろうな!!」


「またガキが出てきたか。いいだろう…… フフフフ……」


 僅かとはいえビーチェたちにダメージを与えられ、バルに必殺技を跳ね返されてもまだ余裕の表情のゴッフレード。

 まだ切り札が残っているのでしょうか。


「そういえばおまえ、父親のかたきと言っていたなあ」


「それがどうした!」


「十年前ここで、おまえと同じ髪の色の威勢が良いバカがいたっけ。そいつがおまえの父親かあ! まあ弱っちくてあっという間に潰れちまったがな。ガッハッハッハッ」


「ぬぅぅぅぅ!! お父さんをバカにするなあああ!!」


 ビーチェは拳を握りしめて飛びかかろうとしましたが、ジーノが後ろから抱えて制止しました。


「ビーチェやめろ! おまえを煽って罠にはめるつもりだ!」


(ほう。ジーノは冷静な判断だな。あいつらは二人で一人前足らずの0.8人前ってとこか……)


 バルは後ろから見守り、ジーノを見て感心していました。

 ウルスラは退屈そうに、杖をぷかぷか浮かせてそこに座って見ていました。


「あーあ。私だったら弱火だけど絶対消えない魔法でじっくり火あぶりするか、全身にじわじわとカビが生えて腐る魔法を使うんだけどなあ」


「おまえ、昔から大概たいがい悪趣味だよな……」


 ウルスラの言葉にバルは呆れてました。

 バルが若い頃から眺めていますけれど、彼はウルスラの抑え役でもありました。

 ビーチェとジーノのコンビもいずれそうなるんでしょうか。


(おいビーチェ。いつもジャイアントボアを倒す要領でやるんだ。俺があいつの脳天ぶちかますから、よろめいたらおまえの強力なオーラランスでやってくれ)

(――わかった)


 何やら二人で作戦を考えたようで、ジーノが先だってゆっくり前に出ました。

 険しい表情でゴッフレードを見つめます。


(まずゴッフレードに近づくのが至難なんだよなあ…… でもビーチェに敵を取らせてやりたい)


「グフフ…… 何のつもりか知らんが俺様がおまえらの浅知恵でやられると思うなよ。力でねじ伏せてやる」


 そう煽るゴッフレードですが、ジーノは決心して真っ直ぐ高速で駆け出しました。


 スタタタタタッ


「正面から向かってくるとは恐れ入った。握り潰してやるう!」


 ゴッフレードは両手を出して捕まえる体勢になりました。

 ジーノの予想に反して単純な攻撃になりそう?


(よしっ 猛襲波じゃない! やつの動きはノロいし、何か衝撃波を出しても間合いはそれほど長くない!)


 スタタタッ タタッ


「なにっ!?」


 ジーノはまるで水鳥が水面から飛び上がるように空へ舞い上がりました。

 ゴッフレードはまさかジーノが飛びあがるとは予想せず、上を見上げて腕から突発的に威力が弱い猛襲波を出しましたが当たりません。

 ジーノはゴッフレードの後ろへ着地すると、その勢いで連続バク転をします。

 ゴッフレードにとって具合が悪いことにジーノを視界へ追いかけるために後ろへ振り返ると、ジーノがバク転で下から後頭部をキックするつもりが、顔面で受けてしまいました。

 動きが遅いからとはいえ、なんというドジなやつ!


「ギャァァァァァァァ!!!!」


「今だ!!」


 ビーチェは両腕に貯め込んでいたオーラでランスを二本作り、光る槍がゴッフレードの広い背中へ目掛けて射出しました。


 シュッシュッ ドカドカッッ


「ゴフッッ グハァァァァァッ」


 ビーチェのオーラランスは見事ゴッフレードの背中の左右に命中。

 煌々こうこうと光る槍は刺さった数秒後にフッと消滅し、二カ所の傷口から血が噴き出しました。


 シュゥゥゥゥゥッ


「ジーノ! やったぞ!」


「ふうっ ビーチェ、かたきが取れて良かったな」


 喜んでいる二人ですが、百戦錬磨のバルとウルスラは表情が険しいです。

 ゴッフレードはプルプルと身体を震わせました。


「ぬぐぅぅぅぅ…… ハァァァァァァ!!」


「ええっ!? どうして!?」


 ゴッフレードが身体に力を入れると、吹き出ていた血が止まってしまいました。

 あまりダメージを与えた様子ではありません。


「ガーッハッハッハッ!! こんなもの針が刺さったも同然! 効かぬわあ!!」


 それを言うためにゴッフレードがビーチェのほうへ振り返り、言い終えた瞬間――


 ドカァッ


 ジーノがオーラを込めたキックをゴッフレードの後頭部に重い一撃。

 それで倒れかけた瞬間にビーチェは顔に目掛けて高速連続パンチをお見舞いしました。


「グギャゴゴゴゴゴベヘゴホォォォォ!!」


 ズダァァァァン!!


 ゴッフレードはそのまま後ろへよろめき、大きな音を立てて地面に倒れました。

 ビーチェ、ジーノ! これで倒せたのかな?

 それでもバルとウルスラの表情は変わりません。

 ジーノも何かを察したようで、ビーチェの元へ戻りました。


「ダメだ! あいつきっとまた起き上がってくるぞ!」


「そんな…… 決定的な打撃が与えられないなんて、どうしたらいいの!?」


 二人はゴッフレードのまだ尽きぬオーラを感じ、異様なタフさの相手にとどめを刺すことが出来ず嘆いています。

 ビーチェとジーノ自身、基本的に打撃攻撃しか出来ないのに打撃で致命的なダメージを与えられない相手は天敵と言えるでしょう。


「ブペッ ブッ…… ゆ、ゆん…… 許ないぞおおおお!!」


 ゴッフレードはゆっくり立ち上がると、ボコボコに腫れ上がった顔でビーチェとジーノをギロッとにらみました。


「か、顔が怖い…… ブルブルブル――」


「おおおまえがやったんだろ!」


 ゴッフレードの顔を自分でぶん殴ったのに怖いと言っているビーチェ。

 でも本当に怖いです。まるでぶどうの房のよう。ひいぃぃぃ!


「ビーチェ! ジーノ! やつが大技を出す前にやってしまえ! 今までにないくらいオーラを高めるんだ!! 父親のかたき!! 友のかたき!! 倒すなら今しか無い!!」


「「わかった!!」」


 ビーチェとジーノは目を閉じ、両拳をにぎって意識を集中させました。

 と同時にゴッフレードの身体がまた赤く変化していきます。


「いかんな。ゲイティル猛襲波をまたやる気か?」


「仕方が無いわね。街に防御魔法プロテクションを張っておくわ」


 ウルスラはこっそり宙に浮き杖を振ると、戦場になっている部分の街道を除いて街一帯が見えない壁に覆われました。

 近くに野次馬はいないようです。

 道の舗装は壊れるかも知れませんが、これで街の建物は安全です。


「ゴァァァァァァァァァォォォォォォォォ――」


「「ハァァァァァァァァァァァァァァァァ――」」


 ゴッフレードとビーチェたちが力を最大限に貯めており、空気の振動から再び窓ガラスが細かに震えて音がしています。

 ゴッフレードの身体は赤く染まり、黒みを帯びるほどになってしまいました。


---


 その頃パウジーニ伯爵家では、バルコニーでルチアさんたちが様子をうかがっていました。

 街道には人気ひとけが無く、すでにルチアさんとメリッサ先生、宿直のメイドさんたちの声かけによって住民は家に引っ込んでいるようです。


「お父様、街に防御魔法プロテクションの壁が張られましたわ! きっとウルスラさんです。とても強力な魔法をあんなにあっさりと……」


「そ、そうなのか? 私は魔力が無いからわからんが、有り難いことだ……」


「閣下、ウルスラさんは何者なんですか? 上級魔法師Sクラスを超越してますよ? それにビーチェやジーノのオーラは何ですか? あの子たちバル様から何を教わっているんでしょうか?」


「そうですわあなた! 何か知ってらっしゃるんでしょう?」


 と、伯爵はメリッサ先生と伯爵夫人に問い詰められますが――


「ああいや、私は何も知らぬ……」


 パウジーニ伯爵は身内だろうと、あくまで知らぬ存ぜぬを突き通すつもりです。

 彼らの本当の力が知れ渡り街中で大騒ぎになってせっかく来てくれたバルやウルスラがいなくなれば、小さな街にとって安全が脅かされるわけですから。


---


 場面は戻り、ビーチェたちとゴッフレードの間は一触即発で大爆発でも起こしそうな空間になっていました。

 ウルスラの防御壁ならば街は安心でしょうが、このままだと両方からの攻撃で道に大穴が空いてしまいそうです。


「グググググ―― ゲイティル猛襲波ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「うりゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ドカァァァァァァァァッッ!!!!!!


 ゴッフレードのゲイティル猛襲波と、ジーノの両腕から放たれるオーラを帯びたけんがぶつかり合いました。

 ジーノのけんは一秒間に一万発を超えるけんを放ち、身体が耐えきれず手と腕から血が吹き出ています。

 ですが彼は歯を食いしばり一心にゴッフレードへ目掛けて撃っています。


「でぇぇぇぇぇぇぇいいいい!!!!」


 するとゲイティル猛襲波の威力がジーノの拳によって霧散し、中和されていきます。

 なんという力業ちからわざなのでしょう。

 まるでジーノが魔法を使っているかのようです。


「ガガガガガガガッ!? 何故だあああ!??? こんなガキにいぃぃぃぃ!!」


 ゴッフレードはまさか子供に押されるとは思わず、ボコボコの顔で驚くと余計におかしな顔になっています。


「何てヤツだ…… だがこのままでは身体が壊れてしまう!」


「あの子…… どれだけの潜在的な力を持っていたの!?」


 バルとウルスラが心配しています。

 それを余所にジーノの攻撃はゲイティル猛襲波を押し切り、完全に散ってしまいました。

 この間、僅か十数秒。


「ビーチェ今だあああ!!!!」


「うわああああ!! お父さああああん!! 力を貸してええええ!!!!」


 ジーノが合図を言った後、ビーチェは右手から一秒間に数万本ものオーラの矢を放ちました。

 一見すると金色の矢が高速で固まっているので、レーザー光線のようです。

 それがゴッフレードの胸一点集中で突き刺さる。

 数秒も無い、ほんの僅かな時間でした。


「ガハアッッッッ…… あっ うっ うぅぅぅ――」


 バタァァァァッッッッ ズシイィィィィン――


 ビーチェの矢の塊はゴッフレードの心臓部分を貫通し、大きな音を立てて倒れました。

 ついに倒したのでしょうか!?


「あいつら、とうとうやったぞ……」


「確かにゴッフレードのオーラを全く感じなくなった…… 確実に絶命しているはずよ」


 どうやらバルとウルスラのお墨付きのようです。

 ビーチェとジーノは?

 二人とも笑いながらヘトヘトになって、地面に倒れ込んでいました。


「ハハハハハ…… やったなビーチェ――」


「やったよ…… うん。すぐお母さんに知らせたいけれど、身体が全然動かないや。アハハハ……」


 二人が寝転んだまま見ている夜空は、たくさんの星がとても綺麗に瞬いていました。

 そこへ流れ星が―― ☆ミ


「あれ、お父さんかな。かたきが討てたよ―― ううっ…… うぇぇぇぇぇん!!」


 あらあら。ビーチェは大泣きしてしまいました。

 強気でもこういう時は女の子なんですね。うふふ。

 ジーノは抱きしめてあげたいそぶりでしたが、彼もまた身体が動きませんでした。

 さて次回は第一章の最終回です!



 戦闘シーンを書くのは難しいですね^^;


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