第十八話 ゴッフレードの猛襲

 アレッツォの北入口から襲って来たゴッフレードの本隊。

 賊が撒いた火によってあちこちで火事が起こり、寝ている住民の民家に侵入し金品強奪、そしてこれからパウジーニ伯爵家を襲おうとしている時でした。

 ウルスラは空から強力な凍結魔法で賊を凍らしましたが、凍ったはずのゴッフレードの身体に異変が起きました。


 ――ビキビキパリッ バリバリバリッ ガシャーン


 氷の膜がまるでガラスのように割れて落ちました。

 そこには不気味に微笑んでいるツルツル頭の顔がありました。


「あの魔法を使ったら、身体の芯まで凍結してしまうはず…… あいつは強力な魔法抵抗を持っているの?」


 ウルスラはゴッフレードの力を見誤り驚いていましたが、世界最強クラスの賢者なのでまだ落ち着いています。

 完全に氷が身体から外れたゴッフレードは、街の通りに向かって大笑いで叫びました。


「フ…… フフ…… でぃゃーっハッハッハッッ! ちょっとびっくりしたが、俺様にそんな魔法は効かぬわあ!!」


「――むかつく。そういうことなら今度は絶対零度級の魔法か、逆に十万度の超高熱魔法をお見舞いしてやろうかしら。あいや、街が余計に燃えちゃうわね……」


 ウルスラは次の攻撃に入ろうとしているとき、ゴッフレードはあたりをキョロキョロと見回しました。


「出てこーーーい、魔法使い!!! ん? 上か……」


 ゴッフレードは空中に浮かんでいるウルスラを発見しました。

 そして薄汚い笑い声で彼女を凝視しています。


「うへへへへうへうへへ。スカートの中が丸見えじゃないかあ。エッチなおパンティ、もっと良くみたいぞ…… ニチャア」


「チッ 暗視魔法で覗いてるんだ。私のぱんつの拝観料はこいつの命で払ってもらおう」


 ウルスラは舌打ちしてスルスルと地上へ降りました。

 しかし拝観料って……

 こんな時にウルスラはミニスカを履いてくるのはどうかと思いますし、ラ・カルボナーラでは脚を広げて騒いでますから常連客にはみんなタダで見られているはずですよ。


---


 場面はラ・カルボナーラの前へ。

 ジーノはバルに言われ、座り込んでいるビーチェをどうにかしてゴッフレードの元へ連れて行くように彼女をなだめていました。

 しかしビーチェは動こうとしないので、やはり強引に連れて行くべきか悩んでいます。


「なあ、ビーチェ。一緒に戦って倒そう」


「――あいつ強すぎるから勝てっこないよ……」


(どうしよう…… 無理に連れて行ったら俺がヤラれちゃいそうだ)


 カチャ ギイィィ


 店の戸が開きました。

 するとワンピースパジャマ姿のナリさんが出てきました。

 心配そうな顔でビーチェとジーノを見て、こう言います。


「上から見ていたら大変なことになっているけれど、何が起こっているの?」


「あ…… ナリさん…… また来てしまったんですよ。十年前の……」


「そう…… 何となくそう思っていたわ。それで、あなたたちは?」


「それが――」


 ビーチェは言いにくそうに事の経過をナリさんに説明しました。

 そしてナリさんは何か決心をしたような表情で、ビーチェの隣に座りました。


「ねえビーチェ。お父さんがもし生きていたらどうしてるかな? きっとまた勇敢に立つ向かっているとお母さんは思うわ」


「あたし弱いもん…… お父さんみたいに強くないもん…… バルがやればいいんだよ」


「もしバルがやっつけてくれても、あなたがやらないと一生後悔するわよ。お父さんのかたきを討つために今までせっかくつらい思いをして修行してきたのに……」


「――」


 ビーチェ自身、後悔することは理解しているでしょう。

 ですが十年前の記憶で気持ちが萎縮してしまい、身体も言うことを聞きません。

 ナリさんはビーチェの手を握りました。


「バルが私にこう話したことがあるの。――小さい頃から俺が教えてきたオーラとは何か。ビーチェとジーノはかたきに対して絶対に死なないし、死なせないもの。そのつもりで厳しく鍛えてある。だから何も心配することは無いよ―― とね」


「へー、師匠はそんなことを言っていたのか――」


「――」


「あの人自身、この街へ来る前から国内で暴れている悪党組織のことは王都のほうで調査済みだったの。その中にゴッフレードの組織もあったのね」


「それ全然聞いたこと無かったよ」


「――」


「バルがこの街へ来た時にたまたま私たちに出会って十年前の話を聞いたの。でもそれで五年も付き合ってくれたなんてすごいし、有り難いことなのよ」


 バルが王都でコソコソと何かやっていたのは私も気づいていましたが、ゴッフレードのことも調べていたんですね。

 確かに放浪の旅といえど、悪党を退治しながら移動するならば情報があるに越したことはありませんから。

 しかしバルがこの街に滞在しようと思った一番の動機は一目惚れしたナリさんと仲良くなりたいという下心からですけれど、彼女は鈍感ですからビーチェとジーノを鍛えるためにそこまでしてくれる、なんて素敵な方なんでしょうと思っているわけです。ふひひ


「――ねえ、お母さん……」


「なあに?」


「あたし、やってみる」


「そう、わかったわ。お母さんはあなたたちのことを信じてる。でも気を付けて行ってらっしゃい」


 ビーチェはスクッと立ち上がり、ジーノと共にゴッフレードがいる街の北へ駆け足で向かっていきました。

 実の子たちに危ないことはやめなさいと言わないお母さん。

 バルやビーチェをよく理解し、信じているのですね。


---


 ウルスラが地上へ降りたと同時に、バルがやって来ました。

 部下だけが凍ってデカいゴッフレードだけがゲラゲラと笑っている様子に、バルは異様さを感じました。


「おいウルスラ、これはどういう状況だ? あれがゴッフレードなのか?」


「そうよ。あいつだけ凍結魔法が効かなかったんだ」


「なるほど―― 外国でも暴れ回っていて、十年ぶりにこの街を襲ったわけだ。前に王都で調べた通り、あいつは人間そっくりの魔物という話だ。あんなデカブツが人間なわけないだろう。ハッハッハッ」


「ふーん、やっぱりね」


 バルはゴッフレードの姿を見て大笑い。

 ウルスラはつまらなそうな表情でバルに言います。


「ねえ、あいつにぱんつ見られちゃってさあ。ムカつくからもうヤっちゃうよ?」


「ぱんつって、おい…… いや、おまえがやる必要はない」


「何でよお?」


 ウルスラが杖を振りかざし、今にもゴッフレードに魔法で攻撃を仕掛けようとしています。

 ですかバルはそれを制止しました。


「ごぁぉぉぉ…… 何だおまえらごちゃごちゃうるせえぞ。姉ちゃん、さっきの魔法はひんやりして気持ちよかった。もっとやっていいんだぜぇうへへへ」


「うっわっ 気色わるっ さっさと消しちゃうよ」


 シュワァァァァァァ


「だから待てって。あいつらにやらせるから俺たちは見守るだけにする」


 ウルスラは杖に魔力を込めて今にも発射しそうなところでバルはまた彼女を止めました。

 バルが言うあいつらとは誰なのか、ウルスラは不思議に思っていましたが二つのオーラが近づいてくるのにすぐ気が付きました。


「ん? あの子たちにやらせるの?」


「そうだ」


 それから数秒後には二人が駆けつけてくる姿が見えてきました。

 勿論ビーチェとジーノです。


「おーい! 師匠ぉぉぉぉ!!」


 ジーノが声を掛け、後からビーチェが付いてきていました。

 そしてバルとウルスラの向こうに見えるダルマみたいな大男を見て二人は顔色が変わってしまいます。


「おまえたち遅いぞ。あれがゴッフレードだ。間違いないな?」


「あ…… ああっ! 確かにあいつだ! うううう……」


「お、お父さんを殺した…… ぬっくくく……」


 ジーノは十年前のまだ五歳だった記憶でも鮮明に残っており、身体中に緊張感が走る。

 ビーチェはさっきまで恐怖で震えていたのが、ゴッフレードの姿を見るなり怒りで震え出しました。


「そうだビーチェ。怒りをオーラに変えろ。そしてゴッフレードにぶつけるんだ」


「くうっ…… ぬああああああああああ!!」


 ビーチェはトランス状態になり、彼女の凄まじい気迫が辺りにズンズンと響き住宅の窓ガラスが音を立てるほどでした。


「すっげえ…… あんなビーチェ見たことえ……」


「随分鍛えたものね。だけど……」


 ウルスラは懸念がありそうでしたが、バルも一緒にこのまま見守ることにしました。

 ゴッフレードは突然現れたビーチェたちに困惑しているようでしたが……


「なんだなんだ? 今度は子供が二人現れて何かやろうとしてるぞ。おほ? あの子なかなか可愛いし、おチチがデカい。姉ちゃんのおパンティも見られたし、今日は運が良い日だなあ。ぐふふっ」


 ビーチェの気迫を物ともせず、ただエロい目で見ているだけでした。

 その間にもビーチェはオーラを高めていきます。


「お父さんのかたきぃぃ!! てぇぇぇぇぇぇぇい!!」


 バババババババババババババババババンンッッッ!!!!


 ドムドムドムドムドムドムドムドムドムッッッ !!!!


 ビーチェのオーラをまとった高速拳がゴッフレードの身体に目掛けて当たっていきます。

 これでは流石のゴッフレードも……


「グェァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


 効いているんでしょうか?

 苦しんでいるようですが、倒れる様子がありません。


「ハッ…… ハァ ハァ……」


 ビーチェは息を切らして地面へヘタリ込んでしまいました。

 バルたちは表情が険しいです。


「ぬうううこのガキ…… ちょっと痛かったぞ。こんなことが出来るなんてなあ想像してなかった。それでおまえたち、次はどうするんだ? クケケケケ」


「な…… 渾身こんしんの拳が…… そんな……」


 ゴッフレードはほぼ無傷でした。胸や腹の皮膚が赤くなっているくらい。

 ビーチェは自分の攻撃が効いていないことがわかると放心状態に。


「ビーチェ、まだ威力が足らん。あれは一秒間に七千発程度しか無かった。一万発って言ったろ。いや、一万発でもダメかな……」


「ええ……」


「バル、あんた時々無責任なこと言うよね。ビーチェがかわいそう」


 ウルスラがバルを煽ってます。

 そうそう、バルってそもそも適当な人だから怒られたりするんですよ。

 続いてジーノが前に出ます。


「ならばこれならどうだああああ!! でぃぇぇぇぇぇぇぃぃ!!」


 シャサァァァァァァァ!! ザザザザザザザザ!!


 ジーノは、ジルドを倒したときの何倍ものオーラと速度でゴッフレードを手刀で攻撃しました。

 石で組んだ道路の舗装まで切れる威力で、ゴッフレードの首や胴体を切断しようとしています。


 ブチィィィィッ


 何か切れる音がしました。

 しかしゴッフレードの手足首は繋がったままです。


 ズサッ


「おおおおおっっ!? 俺のっ 俺の特注のベルトがあああっ!!」


 ジーノはゴッフレードのズボンを巻いているベルトを斬っただけで、ズボンがずり落ちて猿股さるまた一丁の姿になってしまいました。


「げっ 嫌な物を見てしまった。おいジーノ、何てことしてくれるんだ」


「ええっ!? こんなはずじゃ……」


「なんかくさそうね。あれも特注のぱんつなの? ぱんつがかわいそう。あークサクサ」


「――」


 ゴッフレードの巨大な猿股さるまたを見て、バルは汚物を見たような苦い表情になり、ウルスラは自分の鼻を摘まんで手の平を団扇のようにパタパタさせてました。

 ビーチェはまだ放心状態から回復していません。

 私もあんなデカいぱんつを見たの初めてですよ。

 でも見たくなかったです…… オエエ


「ぐぅぅぅぅ…… 大事なベルトをどうしてくれるんだあああ!!」


「知らねえよ。今日でおまえは終わりなんだからその心配をする必要無い」


 バルは煽ってますが、バル自身が倒すわけではないのでまだビーチェとジーノに希望を持っているのですね。


「おまえたちにはこれをくれてやるぅぅぅぅ!!!」


「むう? あいつ何かやるぞ!」


 ゴッフレードは猿股姿のまま両手こぶしをグッと握りオーラを高めていきます。

 すると身体中が真っ赤に色が変化しました。

 逃げると街がめちゃめちゃになりそうなので、バルとウルスラはそのまま受け身を、ジーノはすぐにビーチェを抱いてかばう体勢になりました。

 この子たちは仲良しでも普段は抱いたり手を繋いだりするようなスキンシップをしないのですが、この時ばかりは自然にそうさせたのでした。


「ゲイティル猛襲波ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「ゲイティルだと!?」


 ゴッフレードが技の名を叫んだと同時に、バルは記憶にある言葉を思い出しました。

 ですがその瞬間に衝撃波のようなものが街道を真っ直ぐに貫こうとしています。


「これはまずいわね」


 そう言ってウルスラが杖を振り回しましたが……


 ドムゥゥゥゥゥゥゥドガァァァァァァァァァァ!!


 ゲイティル猛襲波が発射され、凄まじい威力が四人にぶつかりそう。

 バルが気がかりにしていたゲイティルとは何?

 ビーチェたちはゴッフレードを倒すことが出来るのでしょうか?

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