第十六話 魔物肉の照り焼きステーキ試食会
ビーチェたちがボナッソーラから帰って、学校に家の手伝い、修行といつもの日常に戻りました。
ビーチェが買い物で手に入れたせっかくの可愛い服やスカートを着る機会は少なく、修行の時はシャツにロングパンツやカーゴパンツばかりを履いています。
いくら強くなっても森の中で女の子がダニや虫に噛まれたら嫌ですものね。
そしてこの日も師匠と弟子たちとの激しい戦闘が繰り広げられていました。
バゴオオオオオオオオオドドドドオオン!!!!
ビーチェがバルに向かってオーラを
その衝撃波の音が森の中へ大きく響いています。
バルは仁王立ちで、両手を使って軽く防いでいるだけでした。
「どうしたビーチェ。一秒間にたった三千七百発じゃ話にならんぞ。ジーノの五千発でもまだ少ないのに」
「ハァッ…… ハァッ…… あのね師匠、思うんだけどさ……」
さすがのビーチェも両膝に手を突いて息を切らしています。
ジーノなんて地面に転がってますよ。
「なんだ?」
「一秒間に何千発も撃ってたら普通人間って死んじゃうでしょ? もうこれで十分なんじゃない?」
「いいや、おまえの父親の
「ひっ ひえぇぇぇぇぇ……」
ビーチェは絶望と嘆きで、ジーノと同じように地面に寝っ転がってしまいました。
一秒間に一万発のパンチなんて一体どんなものなんでしょうか。
---
別の日は、森に魔物が急に発生したので魔物狩りをすることになりました。
農地に現れると農作物に被害が出ますので、バルの大事な仕事です。
もちろん修行がてら、ビーチェとジーノも一緒に魔物討伐をします。
「なあ師匠。近頃本当に魔物が多くなってきたねえ。それに強くないやつばかりで、嫌がらせかよ」
と、森の中を歩いている時にジーノがバルにぼやいてます。
「魔物が多くなってきているのは俺も思うが、魔物は前より強くなっている。おまえらのほうが強くなってきてるんだよ」
「それほんとか師匠!?」
「ジーノ、あたしたちがこれだけ修行して強くなってなかったら泣きたくなるよ……」
「それよりおまえたち感じたか? また出てくるぞ」
ガサガサガサ―― ザザザザザッ
バルたちの視界に入ったのは、体長二メートルほどのウサギ型の魔物が数匹でした。
魔物はまだバルたちに気づいていないようです。
体毛がグレーで額に一本と背中に何本ものトゲが生えており、顔が全然可愛くなくて肉食獣のような面構えです。
「おいありゃソーンラビットじゃねえか! あいつの肉を食ったら美味いぞ!」
「師匠あんなの食べたことあるの?」
と、ビーチェがバルに問いかけてます。
ビーチェたちが見るのは初めての魔物のようですね。
動物型の魔物を見ていきなりそう言うバルは、どれだけ食い気があるのでしょう。
「昔外国で捕まえて食べたことがある。鶏肉より濃厚で柔らかいんだぞ。焼いてタレをつけるだけでも
「照り焼き……」
「ステーキ……」
バルがそんなことを言うものだから、ビーチェとジーノはソーンラビットを見てよだれを垂らしています。
戦略より食欲の二人は今にも猪突猛進で魔物へ向かって行きそうですが、バルは制止します。
「ソーンラビットはかなりのスピードで動き回る上に、トゲを使って体当たりをしてくる。オーラランスが当たりにくいしな。食肉にするからいつものように身体を傷つけないで、頭をぶん殴って倒せ」
「「わかった!」」
二人は一気に駆け、最初の二体は不意打ちで殴って倒すことが出来ました。
残りは四体のようです。
魔物は気づき、二人に突進してきました。
「うわっ 回転して背中から体当たりしてくる!」
「トゲ痛そー!」
二人は飛び上がって回避しましたが、魔物のほうも地面を蹴って飛び上がり再び体当たりをしようとしてきます。
「てぇい!」
「うりゃ!」
二人とも飛び上がったまま手の平からオーラの光球を発射。
見事二体の顔面に命中しました。
ここまでビーチェとジーノは、シンクロした素晴らしい動き。
その二体は地面に落ちていきましたが、最後の残った二体はジーノに向かって体当たりしていきました。
「あ痛たたたたたたた!」
ジーノの身体にトゲが当たってとても痛そうです。
地上から見上げていたバルは――
「あーぁ、だから言ったのに。詰めが甘い」
と言って、落ちてくるジーノをサッと受け止めお姫様抱っこをしました。
「全く…… 綺麗なお姉さんだったら抱っこし甲斐があるのに」
「師匠、そういうとこはつくづく残念だな――」
二人がそうしている間にビーチェは二体の頭の角を手掴みし、振り回して地面へ叩き付けました。
チュドーォォォォォォン!!
――スタッ
ビーチェは体操選手のように綺麗に着地。
満面の笑みを浮かべてました。
「いやあ、ジーノに当たってくれたからやりやすかったよ。うっふっふっふ」
「ビーチェは戦いのセンスが良くなってるぞ」
「ふっふーん」
ビーチェは腰に手を当ててふんぞり返ってます。
ジーノはバルに抱えられたまま、ますます不満顔に。
「ホント俺グレちゃうよ?」
「まあまあ、俺が照り焼きをたくさん焼いておまえに死ぬほど食わしてやるから」
「何だか丸め込まれてるよな……」
そういうわけで仕留めたソーンラビット六体は血抜きをしてから、バルが術で浮かせて街へ持ち帰りました。
六体のうち二体はドナトーニ精肉店、三体はペトルッチ精肉店で買い取り。
一体は解体だけペトルッチのオヤジに解体だけ頼んでペコラーロ家で引き取り、お店に出す肉料理と自家用に使うことにしました。
そのペトルッチ精肉店での反応――
バルはふわふわ浮かせたソーンラビット四体をガスパロさんに見せつけました。
「うぉぉぉぉい!? 何だこのデカうさぎは??」
「見ての通り魔物のうさぎで、ソーンラビットと言う」
「解体はうさぎと同じやり方で良いのか?」
「ああ勿論だ。臭みが無いし、うさぎの肉より美味い。で、いくらで買い取ってくれるんだ?」
「うさぎ自体が安いからな…… この大きさでも一体が二万ってとこだな」
「何寝ぼけたこと言ってんだオヤジよ。二十万でも良いくらいだ。滅多に捕れねえし、クソ美味いんだぞ」
「クソ美味いなんて知らねーよ。食ったことねえんだから」
「よしわかった。一体解体して、明日ウチんとこの店で調理して食わしてやる。ああ、どうせならドナトーニのオヤジも呼ぼう」
バルとガスパロさんの間でそのような話になり、ラ・カルボナーラ開店前に皆を集めてソーンラビットの肉を使った料理の試食会が行われることになりました。
---
翌日ラ・カルボナーラでの試食会に招待されたのは、まずペコラーロ家の三人、ジーノとその母親、ペトルッチ夫妻と息子のアントニオさん、ドナトーニ精肉店のオヤジ。
ビーチェがルチアさんを連れてきてしまったので、パウジーニ伯爵夫妻とウルスラも付いてきてしまいました。
「とても良い香りが漂ってきますわあ! これからバル様の新しい料理が食べられるなんて、なんて幸せなんでしょう」
と、ルチアさんが天に召されるような笑顔で言っています。
パウジーニ伯爵夫妻も――
「ふーむ、うさぎの魔物なんて初めて食べるな。王都でもそんな物を出す店なんて聞いたことが無かった」
「あなた、うさぎ肉はとてもヘルシーと聞いてます。きっと魔物もそうに違いありませんわ。ああ、もっとその魔物がこちらへ来れば良いのに」
と、婦人はさりげにとんでもないことを言ってます。
バルの調理が終わったようで、ペコラーロ家の三人で皆のテーブルへ料理が配られます。
「ソーンラビット肉の照り焼きステーキだ! 今後二度とお目にかかれないかも知れないから、よく味わって食べるように!」
「「「「「いただきまーす!!」」」」」
皆が一斉にナイフとフォークを動かし肉を口に入れると――
「うまーーーーーい!! ビーチェなんだこれ!」
「ジーノがヤラれた甲斐があったな!」
「それ言うなって……」
「ジーノ! そんなガッつくのは行儀悪いよ! でもすごくおいしっ」
「なんですのこの上品な味! 新しい食感!」
「バル殿ズルいですぞ! 貴殿はこんな美味しいものを外国で食べていたなんて!」
「まああ! 照り焼きなのに脂っこくなくて食べやすいですわ!」
「バルすまなかった! まさかここまで美味いとは! 高く買い取らせてもらうぞ!」
「これは早いとこ街中に宣伝して店に並べなきゃねえ!」
「バルさん! 肉も良いですが調理が素晴らしいです!」
「こんな美味しい肉をドナトーニの店にも卸してくれるなんて有り難いことです!」
「ヴァルぅ、これ昔みんなと一緒に食べたけれど懐かしいね」
「本当に美味しいわ。ファビオも美味しい?」
「勿論だよお母さん! ニコッ」
読者の皆様、誰が何を言っているのかわかりますでしょうか?
わかったらこの物語の大ファンになってますよ。うふふ
結果、バルの言い値どおり一体が二十万リラで、ペトルッチ、ドナトーニとも買い取りが成立しました。
パウジーニ伯爵の計らいで、一部はボナッソーラのミローネ伯爵家へ届けられたそうです。
――暗くなる前のその頃、街道と農地から外れた別の森林地帯の中に潜んでいる何かで、不穏な様子がありました。
「おまえたち、深夜二時に決行だ。それまで休んでおけよ。あの街の生き残りはこのゴッフレード様と十年ぶりに再会出来てさぞ嬉しかろう。フフフフフ……」
あらら! 十年前にアレッツォを襲ったゴッフレードの野盗集団ですってよ!
首領はツルツル頭の巨体に、部下は百人は優に超えているんじゃないですかね?
最強のバルやウルスラがいるのに……
私はお知らせに行けないんですよね……
どうか無事をお祈りします。
――え? 神が誰にお祈りしてるのかですって?
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