第十三話 ミローネ伯爵家/ナリさんお土産ぱんつの試着
ボナッソーラの宿にて、盗賊退治の件で朝から領主のミローネ伯爵から呼び出しがあり、ルチアさん一行の四人は伯爵家の応接室で待っているのでありました。
眼鏡メイドさんから紅茶を出されました。
この地方では珍しいアールグレイです。
ビーチェたちは上手に頂けるのでしょうか。
「ビーチェ、ジーノ。ウチと違ってここでは行儀良くして頂戴ね。
と、ルチアさんは二人に注意しましたが……
「承知しましたわ、ルチアさん。心配しなくても良くってよ。ジーノ、あなたもわかりましたね?」
「え…… さっきからどしたのビーチェ?」
(わっ こいついつも脚を組んでるかガバッと開いているのに、ビチッと閉じてる!)
「ああ…… 美味しいわ、この紅茶――」
(はあ? いつもならガバチョと飲むのに、ティーカップを摘まんでる持ち方! ソーサーも持って音を立てずにススッと飲んでるぞ!? ルチアから習ったのか?)
なぜだかわかりませんが、ビーチェはいつものがさつな様子ではなくルチアさんのような貴族令嬢を気取っているようです。
ボロが出なければ良いんですけれどねえ。
「あ、あのビーチェ…… もう少し普通にしてて良いのよ」
「
「それは素晴らしいことだと思うけれど、うううん…… 何だか不気味ね」
「まるでお嬢様が二人いらっしゃるようですね。うふふ」
そんな会話をしているうちに、ミローネ伯爵と執事の女性がやってきました。
パウジーニ伯爵よりやや老けた四十半ば、黒髪で口髭顎髭を生やしているもののイケおじ風ではなく、だらしなく小者感ある顔です。
執事はそういう伯爵を制するような、ビシッとした三十代半ばお局様風の女性です。
「おお、よくおいでになったシニョリーナ!」
「ご無沙汰しておりますミローネ伯爵」
ルチアが立ち上がり作り笑いをしてお辞儀をすると、続いて三人も立ち上がって頭を下げました。
ミローネ伯爵が着席の合図で右手を差し出すと、ルチアが座り三人も座りました。
「いやあ良くやってくれた! まさか盗賊集団のスパゲッティーニをシニョリーナがやっつけてくれるとは!」
「
ルチアはビーチェたちに向かって手を指しました。
そして挨拶をしなさいと顔で合図を送ります。
「ジ、ジーノです……」
「ベアトリーチェと申します、ミローネ伯爵。うふふ――」
ジーノは緊張でキョドりながら、ビーチェはミローネ伯爵に向かってニコッと微笑んで挨拶をしました。
ルチアさんは内心呆れながらもここはスルーで。
「おおそうかね! こんな美しく
「ぶん殴ったり、跳び蹴りいたしましてよ。オホホホ」
「えっ? あ…… そうかね…… 見かけによらず
ビーチェが不自然なお嬢様言葉でそのように答えたので、魔法でも使って倒したのかと思っていたであろう伯爵は意表を突かれて苦笑いをしていました。
「それで君たちを呼んだのは他でもない。あの盗賊集団には三百万リラの懸賞金を掛けていたからそれを渡すことにしたのだ。カリーナ(Carina)、シニョリーナへ」
「はい、閣下」
執事のカリーナさんが、用意した現金が入った封筒をお盆に載せてルチアさんの前に置きました。
(三百万リラねえ…… あの盗賊集団が今まで全然捕まらなかったことと、ミローネ伯爵領の経済規模を考えると最低でも五百万リラよ。ケチだけに…… まあ、降って湧いたものだからこのまま頂きましょう)
「ありがとうございます。頂戴いたします」
ルチアさんは封筒を受け取り、メリッサ先生へ手渡してバッグへ仕舞いました。
先生はルチアさんの執事役でもあるんですよね。
「ところでモンターレの警備隊には中級魔法師が一人もいなかったように思いますが…… CかBクラスが一人でもいれば解決が早かったのでは?」
ルチアさんがそう尋ねました。
確かに街道沿いの街の警備隊にしては粗末に思います。
アレッツォで中級魔法師以上の資格を持っているのは、特殊なウルスラを除いて雇用しているのはバルとメリッサ先生のBクラス、それから伯爵夫人のCクラスと人口規模の割に揃っているんです。
初級魔法師は農家も含めて数百人規模いますが、生活や農業、魔石カートリッジへの魔力注入で活躍しています。
「ああ…… 指摘の通りだが中級魔法師を雇うと高くてね……」
「人件費は掛かるものですし、大事なところへは惜しまず掛けるべきなのでは? 適正者を見つけて教育費を補助するのも宜しいと思います」
「わかってはいるんだが…… うーん…… トホホ」
「これ以上は差し出がましいので申し上げませんが、伯爵と領地のことを思ってのことですから」
「閣下、ルクレッツィア様が
「――わかった」
(はあ…… これで領主なんですから困ったものですね。奥様やカリーナさんが優秀だから何とかやって行けてるのでしょう)
ルチアさんやカリーナさんにそう言われ、伯爵は不貞腐れた顔をしています。
他地域の領主に向かって歯に着せぬ発言をするルチアさんもなかなかですね。
「で、そこのお二人さんはどうしてそんなに強いのかね? 魔法を使ってはいないんだろう?」
「よくぞ聞いて頂けました! バル様というそれはそれはお強い殿方が五年前に偶然外国からいらっしゃいまして、野盗によって殺害された父親や友人の敵を討ちたいという二人の願いでとてもとても厳しい修行を重ねて、当領地の頼もしい戦力になりました。おかげで五年間全く、街が魔物や野盗によって襲われることが無くなりましたの。オホホホ」
「そういうことか……」
ルチアさんは得意気にバルやこの二人のことについて伯爵に話しました。
伯爵は興味を持ったのか、ビーチェをイヤらしい目つきでこう言います。
「ぐふ…… もし良ければそちらのお嬢さんだけでもうちの領地の警備に来てくれないかねえ。報酬ははずむよ。ぐふっぐふふっ」
「えええ……」
伯爵はビーチェの胸と太股に視線を送りましたがあまりに露骨だったので、ビーチェは嫌そうな表情をしました。
ですがそのタイミングで執事のカリーナさんが後ろから……
バチィィン!! バチッ!
「「えええ!?」」
なんとお金を持ってきたお盆で二回、伯爵の頭を叩きました。
あまりに予想外のことが起きてビーチェとジーノは目を白黒させています。
「失礼しました。奥様からこうしろと言われていますので、いつものことです」
「カリーナ…… さすがに今日のは目から火花が出たぞ……」
(はあ、やっぱり今回もでしたか。いつもは
(あらら、今日はビーチェかあ。前回はカリーナさんと私を交換してくれとエッチな目で言っていたから、手の平で頭をぶっ叩かれててましたね)
部下に叩かれても怒らない領主というのはある意味とても平和と考えて良いのでしょうか。
街は活気があり食事は美味しい、理想の土地ですからね。
「ま、まあさっきのは冗談だから許してくれ。せっかく来てくれたしそろそろ昼食の時間だから食事をしていってくれないか」
「ありがとうございます。お言葉に甘えて呼ばれますわミローネ伯爵。うふふ」
ルチアさんが作り笑いで返事をして、後ろからカリーナさんが伯爵を
伯爵とカリーナさんは退席し、控えていた眼鏡メイドさんがお代わりの紅茶を入れてくれました。
「オホホホホ。
と言いながら紅茶を飲むビーチェです。
「なあビーチェ。それまだ続くの? 何か変な物食べてないか?」
「何を
「はぁ……」
ジーノは呆れてため息をつきました。
ビーチェのお嬢様ごっこはいつになったら終わるんでしょうかね。オホホホ
---
小一時間ほどして、ミローネ伯爵家のダイニングルームへ案内されたルチアさん一行。
食卓には伯爵と、夫人も加わった。
「紹介しよう。妻のイデア(Idea)だ」
「初めまして。ルチアさんとメリッサさんはお久しぶりですね」
「お久しぶりです、イデア様」
「ご無沙汰しております」
ルチアさんとメリッサ先生の挨拶に続いてビーチェが挨拶をします。
イデアさんはニコニコ顔で二人の方を向きました。
「初めましてイデア様。私はルクレッツィア様の友人、ベアトリーチェでございます」
「あっ あの…… ジーノです……」
ジーノがキョドって挨拶をしていますが無理もありません。
チンケな顔の伯爵の奥さんとは思えないほどの美貌なのですから。
ナリさんのような可愛い美人奥さんと違い、青いドレスが似合って大人の雰囲気たっぷり。お乳も大きい!
明るいブラウンのサラサラロングヘアー、目は切れ長、鼻がスッと伸び、赤い口紅を着けている唇は見ているだけで吸い込まれそう。
ジーノは魔法でも掛けられたようにポーッと夫人の顔を見つめて虜になってしまったようになっています。
その様子を見たビーチェは横からジト目で彼を見ています。
「まあ、可愛い男の子ね。聞き及ぶと、とてもお強いとか。私がもっと若かったら…… いいえ、何でもありません。ようこそミローネ家へ。精一杯の食事を用意しましたので、どうぞ召し上がって下さい」
挨拶をしている間にも次々と料理が運ばれてきます。
牛肉のワイン煮込み、辛めに仕立てた大きなエビのトマトクリームパスタなど高級レストランでしか食べられないようなメニューが並べられました。
ビーチェとジーノはもうワクワクたまりませんという顔です。
食事が始まると、ビーチェはお嬢様ごっこのまま食べ始めました。
「まあ。この海老のスパゲッティはとても美味しいですわ。実は私の家、パスタのお店をやっておりますの。お母様に相談して新メニューにしてもらおうかしら。オホホホ」
「そうだったんですか。ベアトリーチェさんのお母様はよほど料理がお上手なんですね。この海老のスパゲッティはお出汁を出すのにとても難しいんですのよ。オホホホ」
「それはそれは。うちのお母様はパスタ料理のことならガルバーニャ
「それならばいつの日かお邪魔して、その世界一のパスタ料理を頂きたいものです。オホホホ」
などという会話がビーチェと夫人の間で繰り広げられていました。
他の人たちはその会話の中に入れず、聞き耳を立てつつも静々と食事をするだけでした。
本当に夫人がお店に来ちゃったらどうするんですかね?
その会話もビーチェが食事に集中しだすと止まり、ミローネ伯爵家の話に。
二十歳になる娘と小さな息子が二人いるとのことで、娘はすでに王都の伯爵家へ嫁いでおり間もなく子供が生まれるそう。
夫人のその美貌でもうお婆ちゃんになるんですね。
男の子二人は今学校へ行っており不在中。
全く普通の家庭です。
(ふーん。あたしはバルがいてくれるし、お母さんとファビオ、ジーノとか街のみんなもいるから寂しくないよー)
---
ミローネ伯爵夫妻とカリーナさん、眼鏡メイドさんのお見送りでルチアさんたちを乗せた魔動車は出発しました。
出発した途端、ビーチェは車の後部座席で……
「あー、やっぱりお嬢様の真似事はあたしには合わないわ!」
「ちょ、ちょっとビーチェ見えてますわよ! はしたない……」
彼女は出発するまでしおらしかったのが今は
助手席に座っているルチアさんから見るとぱんつ丸見えなんですね。
「ぱんつぐらい見えたっていいよ。どうせジーノしかいないんだしー」
「なっ…… ジーノからも何か言っておあげなさい!」
「ええ? あの…… 年頃の女の子がそう言うのは良くないと思うよ」
「はあ? 何言ってんだジーノ。本当はこういうの好きなんだろ?」
と言いながらビーチェはプリーツスカートの短い裾をヒラヒラさせています。
真横にいるジーノからは一応ぱんつが見えないようにしているようですが……
結局ビーチェのお嬢様ごっこは何の目的だったんでしょうか。
「ビーチェが余計に変になったあ……」
「はあ…… 何なのこの子たちは」
「ジーノ、さっきは何だ? 年増のオバサンに
「オバサンでも超絶美人だったら見てしまうだろ!」
「うふふ。退屈しなくて
メリッサ先生は運転しながら他の三人の会話を聞いて笑っています。
その後アレッツォまで魔物にも盗賊にも遭わず、四人で和気あいあいと順調に帰ることが出来ましたとさ。
---
ビーチェがペコラーロ家へ帰って来ました。
ナリさんとバルが開店準備のために仕込んでいたところです。
「ただいまー!! 何とかお店の開店に間に合ったねー!」
「おかえり! って…… まあ! なあにその短いスカート!」
「ほほう、ビーチェもとうとうデビューしてしまったか」
「こんなの王都なら当たり前って先生言ってたし、ボナッソーラでも履いている子見かけたよー! じゃあ準備してくるねー!」
「少し休憩してからでもいいのよ!」
「大丈夫だってー!」
と、上の自分の部屋で準備をするためビーチェは階段を駆け上がりました。
そして時間通りに開店し、営業中はいつものようにウルスラが入り浸り、無事に閉店をすることが出来ました。
就寝前にビーチェはナリさんの部屋へ行き、大量に買い物した紙袋を一気に渡します。
「お母さんこれ。この袋はファビオの服で、こっちの袋はお母さんの。あとはあたしのだから後で全部洗っておいてねえ!」
「まあ、ありがとう。それにしてもこの量は…… 随分お買い物をしたのね」
ビーチェはナリさんの言葉も聞かずにさっさと自分の部屋へ戻ってしまいました。
ナリさんは早速紙袋の中身を見てみることにしました。
「これはファビオの服ね。ブラウスに、ベスト…… ショートパンツね。可愛いわ! ベレー帽まである! きっとあの子は大喜びだわ」
ビーチェの気遣いに満足するナリさん。
次の紙袋を開きます。
(これは私のね…… 白いブラ…… 素敵な模様が入ってて、高そう。サイズは合ってるようだけれど、あの子全然洗濯もしないのによく私のサイズを知ってたわね)
ナリさんは、ビーチェが買ってきたFカップの白いレース模様のブラジャーを手に取り、満足したようです。
「ええっ!?」
(こ…… これは…… 何? ショーツ? 後ろが…… こんなに細い…… ええええ!? これを私が履くの!!?? 確か噂でTバックという…… 前はテカテカして綺麗だけれど、シルクなのかしら? ビーチェったらこんなに高い物を……)
ナリさんは白いサテンのTバックを手に取り、顔を真っ赤にしながらもまじまじと見つめていました。
(そ、そうだわ。試着してみましょう……)
ナリさんは一気に服を脱いで、姿見の前で試着を始めました。
またまた登場。皆さんお待ちかねの、若い男の子でもゴクリの瑞々しく且つ熟れた身体です。
何故かブラから先に着けるようですね。
(サイズは不思議なくらいぴったりね。着け心地もいいわ。でもお仕事の時に着けるのは勿体ないし…… いつ着けたら良いのかしら。勝負下着って…… ええ!? 私何を考えているの!?)
ナリさん、何か思い悩みながら両手でたゆんたゆんとやっています。
しかもぱんつを履いていない状態で。
天然女性の仕草は時々とんでもないものを見せてくれますね。
(つ、次はこれね……)
ナリさんは恐る恐るTバックを履いて、後ろ姿から姿見で見てみました。
(な、な、な…… お尻丸見えじゃない! それに何だか食い込みがムズムズする…… 若い子ってみんなこれがいいの? 慣れが必要なのね……)
次は前を向いて姿見を……
(前は素敵…… ちょっと細いけれどギリギリかな。とても高級感あるけれど、私に似合うのかしら)
トタトタトタ…… ガラッ
「ねえお母さん。ボクが明日学校へ着ていく服が見えないけれど、どこ? あっ……」
急にファビオ君がやってきて、何か見てはいけないものを見てしまったと察したのか、それともまだ空気が読めないこともあるのでナリさんに何が起きているのかわからないのか、とにかく彼の動きが停止してしまいました。
ナリさんの後ろ姿が視界に入り、ぱんつを履いているのに白いお尻がばっちりなのはファビオ君にとって不可思議なことなんです。
「あのっ ファビオ……」
「お母さんのお尻綺麗だよっ また後でねっ にこっ」
ファビオ君はいつもの笑顔で、トタトタとまた自分の部屋へ戻ってしまいました。
息子さんにお尻綺麗と言われてしまったお母さんはある意味ショックでしょう。
(ううう…… ファビオに裸を見られるのは何ともないのに、この下着は恥ずかしすぎる…… あの子また来るから早く着替えましょ!)
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