第十一話 バスローブ姿の二人/謎の黒髪美女
ビーチェが買った下着の会計が終わり、ルチアさんとメリッサ先生も下着をしこたま買い込んでジーノの元へ戻ってきました。
そこへ妖しいおじさんがジーノの後ろから明らかに嫌らしい手の動きでお尻を触っているので、ビーチェはそれを見て後ろからポンポンとおじさんの肩を叩く。
「ねえ、あんた何をやってんの?」
「ぬあっ びっくりしたあ。邪魔するな!」
「はあ!? 気持ち悪いんだよ!」
ビーチェはそう叫び、おじさんの股間を蹴り上げました。
一応手加減をしていたようですが、お気の毒に……
おじさんは股間を両手で押さえて床に
「はうっ!? ぎぎゃぐぉぉぉぉぉ…… ぐぬうぅぅぅ……」
「何やってんだよジーノ。こんなモンさっさとこうすれば良かったのに、おまえなら出来ただろ」
「怖かったんだよおぉぉ」
「都会は変なのが時々いますから気を付けなさいまし!」
「はぁい……」
慰められず逆にジーノは怒られてしまい、しおれてしまいました。
彼は魔物には強気でも、人間相手だとそうではないんでしょうね。
根は優しい子ですから。
「どどどどうなさいました!?」
妖しいおじさんの声を聞いて、女性店員が数人駆けつけてきました。
「身内の男の子に対する痴漢が出ましたの。もう制裁はしましたからあなたたちは構わなくても良くてよ」
「は、はあ…… 男の子にですか……」
店員さんたちは呆れたり身震いをしていました。
同性に対する痴漢行為は、この国では珍しいようです。
「ちょっとこいつを店の前へ放り出してくる」
と、ビーチェはおじさんの首根っこを
「怖かったんだね。よしよし」
ビーチェがいなくなった隙に、メリッサ先生がジーノの頭をなでなでしました。
するとジーノの表情はパアッと緩み、犬猫が可愛がられているような顔に。
「先生、甘やかしすぎです」
「お嬢様、男の子の扱い方には慣れておいたほうが良いですよ。うふふ」
「そ、そうですか……」
先生は王都でいろいろ経験を積んだんでしょうね。
そうしているうちにビーチェが戻ってきて、ジーノの表情がぐにゃぐにゃに崩れているから不思議に思いました。
「さて今日の買い物はジーノの服を買って終わりね。さあ行きましょ」
今度はメリッサ先生が三人を率いて男性向けの売り場へ向かいました。
ジーノは先生が選んでくれる服に期待を膨らませています。
---
「うーん…… そのカーゴパンツでも良いけれど、今時の若い子はこれかなあ」
メリッサ先生はジョガーパンツや七分丈のハーフパンツをジーノの腰に当てて合わせながら見ています。
ジーノ表情はまた崩れてますよ。
(うわあ、先生の良い匂いがするぅ。ナリさんやウルスラも良い匂いがしたけれど、先生は何だか甘酸っぱくてとろけちゃうぅ…… 俺、来年から先生の授業を受けようかなあ)
ジーノの表情が露骨にだらしないので、ビーチェとルチアさんはジト目で見ています。
メリッサ先生はテキパキと選び、上着はちょっと高めのポロシャツを何着か見繕っていました。
「はいっ これで終わり。お会計しましょうか」
「あっ はい……」
ジーノはポカンとしてましたがそれもそのはず。
女性陣は選ぶのが三時間近くかかったのに、ジーノは十分足らずで終わってしまいましたから。
「うふふ。今日も良い買い物が出来ましたわ」
「そうですねお嬢様っ ニコッ」
「お母さんにこんなぱんつ洗ってもらうの恥ずかしいなあ」
「――」
会計が全て終わり、ジーノは釈然としない表情をしながら下着以外の紙袋を全て持たされて、お店を出ました。
ビーチェがつまみ出した妖しいおじさんはどこかへ行ってしまったようです。
「皆さん、まだ用事はありますか?」
「「「ありませーん!」」」
「ではバスに乗って宿へ帰りましょう。そろそろ混んでくるはずですわ。こういう時スリが出ますから、二人とも財布はきちんと仕舞っておきなさい」
「「はーい」」
バスがやって来ると四人がギリギリ座れるほどの混み具合で、無事に宿の近くにあるバス停で降りることが出来ました。
ここでスリにやられるのがお約束の展開でしょうが、素直な二人はルチアさんの言うことをよく聞いて、財布をズボンやスカートの前ポケットの深いところへ入れて手でしっかり押さえていたのでそんなことにはなりませんでしたね。うふふ
---
宿へ戻ると階段を上がり二階の受付でそれぞれ部屋の鍵を受け取り、魔動エレベーターで上階へ上がります。
当然二人はエレベーターなんて初めてですから……
「うおうおうおおおお!? 足の下から持ち上げられてるう!?」
「あたしがジャンプしたほうが速いんじゃないか?」
「はぁ…… ある意味今日はあなたたちを連れてきて良かったですわ。大人になってそれだったら恥を掻くところです」
「うっふふ」
という話もつかの間。
上階に到着し、部屋の前に着きました。
「食事まで時間がありますから、荷物を整理したり休憩なさい。寝てはだめよ。食事の時間になったら呼びに行きます」
「「はーい」」
めちゃ素直で良い子たち……
そして部屋のドアを開けて中に入ると……
「うひょほおおおお!! 何これすげえ広い!!」
「ルチアんちの部屋よりすごいんじゃないか!? あたしも貴族かな!」
と言いながら二人ともベッドへ一目散に飛び込みました。
ツインルームなので、クィーンサイズのベッドが離れて設置されていますね。
もちろんお茶飲みのテーブル・チェアに、姫ソファーもあります。
「おおおおふわふわもこもこおおおお!!」
「あたしこれ欲しいいいいいん!!」
「おまえんちも俺んちにもデカすぎて置けないさああっはっはっは!」
「魔物をいっぱい倒して新しい家を建てるかあああああうっふっふ!」
などと浮かれながらベッドの上で大の字に寝転ぶ二人。
現実離れした空間ならばそうなってしまうのも致し方ないでしょう。
「ふわぁぁぁぁ あ…… なんか
「あたしも…… ぁぅ――」
あらあら。ルチアさんに寝ちゃいけないと言われたのに、ベッドが気持ち良すぎたのか二人とも寝ちゃいました。
朝早く起きてから出掛けて、いろいろあったんですものね。
---
「ほーらっ 起きなさい! ビーチェ!」
と、ビーチェのほっぺたをピシピシ叩いて起こすルチアさん。
「ジーノくぅん。ご飯ですよぉ、起きなさぁーい」
(今の彼がバル様だったらどんなに良かったことか…… まあ、この子は可愛いし嫌いではないけれど)
と、ジーノのほっぺたを優しくさすって起こすメリッサ先生。
扱いに差があるのは性別関係なく、起こす側の性格ですね。
「ああ…… ルチアもう朝なの……?」
「何言ってるの。寝ないでと言ったのに…… 早くご飯行きますわよ!」
「うーん…… ????」
ビーチェは、ジーノがメリッサ先生から起こされるのを見て一気に目が覚めました。
「ゾクゾクゾク…… は、はひっ? 先生!?」
(いきなり先生の顔が目の前に!? お、俺先生と初キスしちゃうの? これはチャンスか!? むちゅうぅぅ)
まだ寝ぼけているのか、ジーノは口を尖らせて先生からのキスを待つ仕草をしました。
それを見たビーチェは勿論……
「ふがふがふがっ―― あ痛たたたたたたた!!」
ビーチェは、ジーノの鼻を思いっきり摘まんでから強く引っ張りました。
昔のお笑いコントで、洗濯ばさみをそういうふうに使っていたのを見たことがある気がしますが…… あれは痛いですよね。
「なっ…… なに!?」
ジーノは何が起きたのか訳も分からず飛び起きました。
メリッサ先生はクスクス笑い、ビーチェはジーノを
そればかりでは無いようには見えましたが……
「ジーノ、晩飯だってよ。早く行くぞ!」
「は? え? 何怒ってんのお!? 待ってくれよぉぉぉ❗」
「下のレストランへ行きますからちゃんと鍵を閉めて行きなさい」
女子三人は、目が覚めきっていないジーノを置いてスタスタと行ってしまいました。
こういう時、男子一人だけの黒一点状態は寂しいですねえ。
---
外はすっかり暗くなり、宿の一階にあるレストランは盛況です。
席はルチアさんが予約していたので四人が楽に座れました。
注文した食事が運ばれ、数種類の大きなピアッツァ、生ハムサラダ、牛肉のカルパッチョ、白身魚の唐揚げなどがテーブルにいっぱい!
私も食べたいですううううう!!
「先生はワインね! みんなはぶどうジュース…… ムフフフフ……」
「え? 先生なんか変だよ」
「先生は大酒飲みなの…… 先生! 明日帰るんですからそれ一杯だけにしてください! 二日酔いになりますから!」
「えー そんなあ…… ボナッソーラのワイン美味しいのに……」
「明日お父様の分も一緒にお土産で買いますから我慢してください!」
「わーいやったあ!」
(えー、先生って酔っ払いになるのかあ。俺酔っ払い苦手なんだよなあ。ウルスラも酔ったら変になるし…… ビーチェには将来酒を飲ませないようにしないとな)
===
その頃、アレッツォのラ・カルボナーラでは見慣れぬ女性客を一人、迎えていました。
色白で美しくスラッと背が高い。
黒髪ストレートのロングヘアーで前髪パッツン。
服装は紺色のロングスカートワンピースと、見た目が旅人とは思えない異様な雰囲気でした。
背の高さはウスルラと同じくらいですが、物静かで彼女とは正反対。
そのウルスラは他の常連客と混じってわいわいと飲み食いしていました。
「いらっしゃいませお姉さん。何にいたしましょうか? ニコッ」
「うふふ…… 可愛い子ね。そうね…… カチョ・エ・ペペ(チーズと黒胡椒のパスタ)を頂こうかしら」
「かしこまりました。少々お待ちくださーい!」
その女はメニュー本を見て、いつも可愛い接客のファビオ君にオーダーをしました。
それから頬杖を突いて静かに待っているところ……
「よお綺麗な姉ちゃん、見ねえ顔だな。どうだい? 俺と一緒に飲んでくれねえか?」
ギロッ
「あ…… 悪かったよ。じゃあ……」
常連の男がそう声を掛けると、その女は冷たく鋭い目つきで男を睨みました。
「おーいヴァルうう! チャーハン一皿作ってよ!」
ウルスラが手を上げてバルに直接オーダーをしようとしましたが……
「ウルスラ! 横着しないで注文はファビオに言ってくれ!」
「へーい…… ねえファビオくぅぅん! チャーハン一つねえ!」
「はーい! ニコッ」
「うふふふふっ やっぱりヴァルなんかよりファビオ君の可愛い笑顔を見た方が正解ね!」
その会話を耳にした冷徹な女はニヤッと微笑みました。
この女、何者なんでしょうか?
(フフフフフ…… 見つけた…… やっぱりヴァルデマールとウルスラね…… こんな田舎にいたなんて…… お母様にも報告しましょう。でも今は私の力が足りない。いつか必ず、きっと……)
「お待たせしましたあ! カチョ・エ・ペペでぇす!」
「ありがと。フフ」
その女は頼んだ食事を一人で静々食べて、普通に会計をして店を出て行き、闇の中へ消えていきました。
何か大きな力を持っていそうですが、忙しく調理しているバルやわいわい賑やかに飲み食いしているウルスラには認識されること無く……
認識されていない理由はそれだけなんでしょうか。
(美味しかった…… あの子も可愛かったし…… また行きましょ……)
===
場面は戻り、ボナッソーラの宿。
食事が終わってから部屋に戻り、ビーチェとジーノは二人きり。
部屋は暖色の魔光灯に照らされて雰囲気たっぷり。
食事中は忘れていたものの、さっきメリッサ先生がジーノを起こした時のことで若干気まずい様子です。
ジーノは腹ごなしにまたベッドでごろ寝をしていますが、ビーチェはお風呂場を覗いていました。
「へえー シャワーだけじゃなくて湯船もあるんだあ。お湯を張っておこうかな」
蛇口を捻ると勢いよくお湯が出て湯船に貯まります。
やはりここも魔力カートリッジによって熱せられたお湯が出るわけですが、施設が大きいので相当な魔力消費量でしょうね。
「おいジーノ。ああ、あたしはいい今からおおお風呂へ入るから、いいって言うまでこここっち見んなよっ」
「え? ああ…… うん……」
ビーチェはこれから裸になることで緊張しているのか言葉がうまく出ませんでしたが、ジーノは言われたとおり渋々と壁の方へ向かって肘を突いて寝転び直しました。
パチッ ファサッ―― パッ――
ビーチェが服や下着を脱ぐ音が聞こえます。
ジーノは気になっているのかどうなのか、チラ見する様子はありません。
見たらぶん殴られそうと思っているのでしょう。
(ビーチェの裸なんていつも見ていたし? 何で今更見るなと言われなきゃいけないんだ? だからって、無理して見たいって訳じゃないぞ? 変なやつ!)
「おい! もういいぞ!」
すっぽんぽんになったビーチェは、風呂場のドアから覗いてそう言いました。
ジーノはホッとしてベッドに腰掛けました。
(うわっ 今も相変わらずだな…… 床に服もぱんつも脱ぎ散らかして…… いつもの白ぱんつだな…… 匂いは嗅がないぞ! 俺は変態じゃない!)
ジーノは脱ぎ散らかしていたビーチェの服をしばらく見つめていましたが、またベッドへ大の字になって寝転びました。
(あーぁ、俺ってこの先どうなるんだろな。ビーチェと結婚するなんて考えられないよ。どうして優しいナリさんからビーチェみたいなのが産まれるんだ? 確かに亡くなった親父さんは豪快な人だって記憶があるけれど…… ううああ本当にファビオが女の子だったら良かったのにいいい!!)
何を考え事しているのかわかりませんが、ジーノの顔が百面相になっていて面白いです。うぷぷ
---
「おっ風呂お風呂おお! おっ もうお湯が貯まってる!」
この宿のバスルームは舟の置物のようなバスタブがあり、シャワールームが別に仕切られている豪華仕様。
ビーチェは早速シャワールームで身体を洗いました。
「ふあー 気持ちよかった。それじゃあお風呂に入っちゃおう」
ぽちゃっ ズブズブ――
「あああああああ気持ちいいいいいいいいい! ルチアんちで何回か入ったことがあるけれど、ズルいよなあ。ウチにも湯船置きたいけれど、狭いんだよねえ」
シャワーから出て湯船にじっくり浸かるビーチェの顔は完全に気が緩みとても
この子って独り言ですぐ声に出しちゃうんですね。
「そういやブラのサイズを測ってもらったとき、また大きくなってたなあ。やっぱりお母さんと同じくらいになるのかな。ルチアのお母さんのおっぱいはデカすぎるよ! あれは重たそうだから大変だよね。ルチアのおっぱいも将来あんなふうになるのかなあ」
---
(あいつ風呂の中でも独り言を言ってるよ。おっぱいがなんだって? 先生のおっぱいは小さそうだなあ。俺、かーちゃんのおっぱいと、ナリさんとビーチェのおっぱいしか知らないから、小さいおっぱいなんて見たこと無いんだよ。実際どうなってるんだろう?)
ガチャ
「おい、上がったぞ。次入れよ」
「お、おう」
「そこのクロークにバスローブがあるから、上がったらそれを着るんだよ」
「わかった」
ビーチェは白いバスローブを着て頭をタオルで包んでいました。
バスローブの下はすっぽんぽんですよ!
ジーノはクロークからバスローブを取り出し、そのままバスルームへ向かいました。
「俺、中で脱ぐから」
「あ…… うん」
---
(へー こんなに広いんだ。これならやっぱり中で着替えても全然余裕じゃん。ビーチェはやっぱりどこか抜けてるよな)
ジーノは服を脱ぐとさっさとシャワーを浴びて、湯船に浸かろうとしましたが……
(げっ あいつお湯抜いてないじゃん! でもまたお湯を貯めるの面倒くさいしなあ。まあいいや、このまま入っちゃえ)
あらあら。ジーノったらここは地球の日本じゃないんですから一人ずつお湯を入れ換えるのが当たり前の習慣なのに、ダメですよ!
(ビーチェが入ってたお湯か…… 汚いとは思わないけれど、何だか複雑な気分…… もし師匠が入った後のお湯だったら、汁っぽくて絶対嫌だよな)
---
ジーノはバスローブを着てお風呂から上がると、ビーチェは姫ソファーに座って冷蔵庫に入っていたサービス品のぶどうジュースを飲んで気取っていました。
ぱんつ履いていないのに脚を組んで、バスローブが
ジーノはそれをチラッと見てからすぐ目をそらし、自分のベッドに腰掛けました。
「はー いい湯だったな」
勿論ジーノは、ビーチェがお湯を抜き忘れたことを黙っています。
彼はわざとらしく手団扇で顔を扇ぎその場をやり過ごしました。
二人ともバスローブの下は何も着ていないこのシチュエーション、この後ナニかあっても仕方がないですよ! むはっ
「ねえジーノ。あんた先生みたいな女がいいの? ウルスラはどうなの?」
「えっ?……」
ビーチェはぶどうジュースを飲みながら、突然ジーノに声を掛けました。
質問の内容が内容だけに、ジーノはどう答えたら良いのか困っています。
ですが黙っているわけにはいきません。
彼はどう答えるのか? 続きは次回!
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