第十話 ビーチェ、初めてのランジェリー
※ランジェリーは前作のオマージュっぽくなってしまいました。
港町の海鮮料理を食べてお腹いっぱいになったルチアさん率いる一行。
せっかくここまで来たので、腹ごなしに港を散策がてらの散歩。
見える物が全て新鮮なビーチェとジーノは相変わらずの
まるでお母さんですね。
「皆さん、次は買い物へ行きますわよ。あそこに停まっているアレに乗るんです」
「あっ 街で見かけたデカい魔動車だ!」
それはバス停に停車していた乗り合いの大型魔動車で、平たく言えば路線バスですね。
港のバス停を起点に市街を往復しています。
ヨーロッパでも二十世紀初頭に走っていたボンネット型バスによく似ています。
「運転士に200リラ払って、空いている席へ座っていなさい。スカルセリーニ(Scarsellini)二丁目というバス停で降りますから」
ビーチェとジーノは大喜びでバス停のほうへ走って行き、さっさと乗ってしまいました。
魔動車に乗ってもすぐ飽きたのに、この子たちは新しい物に目がありませんね。
遅れてルチアさんとメリッサ先生も乗り込みました。
お昼過ぎだから幸いガラ空きで、一番前の席に座ったビーチェたちの後ろの席に座りました。
「ねえルチア。もう乗ったのになんで動かないの?」
「これは何時何分と時間指定で動くんです。そうしないと他の人たちが集まって一緒に乗れないからよ」
「ふーん、走った方が早く着くかもね」
「あなたたちだけでは迷子になるわよ」
「あ、そうか。そうだよねえ。アハハッ」
小さな街のアレッツォにはバスが走っていませんからね。
度重なるビーチェの問いにルチアさんは律儀に答えているんです。
彼女は高飛車な性格とアレッツォ唯一の貴族が災いして友達が増えませんでしたが、実は良い子なんですよね。
しばらくしてバスは動き出し、後ろのルチアさんが監視するべくビーチェとジーノは大人しく窓の外を見ながら、十数分後にはスカルセリーニ二丁目のバス停に到着。
二人だけだと気づかず乗り過ごしそうでしたが、ルチアがいたので滞りなく下車が出来ました。
「今日出掛けた一番の目的はここよ」
バス停の目の前にある建物、それは高級総合アパレルショップ。
紳士服からドレス、下着までありとあらゆる衣料品を揃えています。
アレッツォでは小さな店か行商の露店でしか服を売っていないので、ビーチェとジーノは置いてある服の量に圧倒されていました。
「
「う、うん……」
ルチアさんとメリッサ先生は勝手知ったるように店内をまわり、気に入った服を探し始めました。
女性はこうなると長いですからねえ。
ビーチェたちも何となく店内の服を見ていますが……
――かれこれ一時間後。
ビーチェたちは何をどう選べば良いのかわからないので、まだ一度も服を手にしていません。
それもそのはず、二人ともお母さんが適当に買ってきた服を着ているだけなので、自分で服を選んで買ったことが今まで一度も無いのです。
「ねえルチアまだあ? 退屈なんだけれど」
ジーノは退屈すぎて余計にしおれてました。
男の子ですからねえ。
「待ちなさい。もうすぐ終わりますから」
「もうすぐって?」
「すぐです! ――って、あなたたち
「別に服がすぐ欲しいわけじゃないし、こんなにたくさんあっちゃ何をどう選べばいいのかわかんないよ」
「あ…… そうですか…… うーん、わかりました。今お会計をしてきますから」
ルチアさんは何か察したように服選びを止めて、たくさんの服を持ってレジへ向かいました。
メリッサ先生も一区切りがついたようで、先ほど会計を終えたようです。
ルチアさんがレジから戻ってくると……
「ジーノ、これを持っていて下さい」
「えー、何で俺が持つの?」
「そのくらいするのは男の甲斐性です。女の子にモテませんよ」
「――」
ルチアさんは買った服を入れたたくさんの紙袋をジーノに渡し、彼は不満そうな顔で受け取りました。
それを察したルチアさんは――
「後であなたの服も先生と選んで差し上げますから」
「そ、そうか」
ジーノの表情はパァッと明るくなりました。
ルチアさんはともかく憧れのメリッサ先生が選んでくれるとなれば、嬉しさこの上ないでしょう。うふふ
「さあビーチェの服を選びに行きますわよ」
ルチアさんを先導に、四人は再び売り場へ戻っていきました。
さてどんな服を選んでくれるのでしょうか。
---
「あのさあルチア。動きやすい服がいいんだけれど。普段着とそれから修行で着られるやつ」
「じゃあ普段着は可愛いので、修行用はもっと生地がしっかりしたものにしましょう」
ルチアさんとメリッサ先生は売り場を動き回り、あっという間に数着の服を持って来ました。
他人の服を決めるのは早いんですね。
みんなで試着室前へGO!
ジーノの表情はまたしおれてきました。
「さ、試着室でこれを着て
ルチアさんとメリッサ先生はビーチェにドサッと大量の服を渡しました。
一度にこんなに服を持って来てお店に迷惑なんじゃないですかね。
「これみんな!?」
「そうです。さあ早く! ワクワク」
「わかったよ……」
まず一着目――
試着室のカーテンが開くと……
「何これ。すごく着にくかったんだけど」
「それは舶来品で、ニンジャという戦士が着る物です。修行に使いやすいと思いまして」
まさに日本の忍者が着ていた濃紺色の忍び装束にそっくり。
ビーチェの赤毛がすごく映えます。
「これはいいや……」
二着目――
「これ派手すぎない? 身体にぴちぴちだし、やたらスカートは短いし……」
「お、俺はよく似合うと思うぞ」
「それも舶来のドレスです。普段着にも修行用にも使えますよ」
なんと青いミニスカチャイナドレスでした。
キックをしたらぱんつ丸見えになりそうです。
「――ジーノの目が変だからやめた」
「えええ……」
三着目――
「うーん、悪くないけれどこういうのはファビオのほうが似合うんじゃないかなあ。あの子じゃサイズが大きすぎるか」
(確かにファビオが着たら…… かか可愛いぞ!)
「じゃあサイズを変えてファビオ君のお土産にしましょう」
ベレー帽を被り、ブラウスにベスト、ショートパンツでした。
十歳前後の男の子なら似合いそうですね。
四着目――
「うん、これならいいかな」
「それは先生が選んだんですよ。うふふ」
「おおお可愛いぞ!」
「そうか? えへへ」
白いポロシャツにデニムのショートパンツ。
まあ無難ですよね。
五着目――
「スカートが多いなあ。これは?」
「それはセーラー服といって、この街の学生が着ている服よ」
白いセーラー帽に、白基調で水色のラインが入っている上着、膝上丈の白いスカートです。
ビーチェにしては可愛すぎませんかね?
「まあこれはこれで良いかも」
「俺も良いと…… 思う……」
「そうなのか? じゃあこれも買おう!」
それから六着目、七着目と続きますが、ミニスカメイド服やミニスカ修道服、亀と書いてある赤い道着、あげくに女戦士の際どい鎧まで出てくる始末。
「ねえ、もしかしてあたしで遊んでない?」
「え、あ、そんなのことないですわよ。これが最後ですわ」
ビーチェは少々ムスッとしながらも十五着目の服を着て皆に見せました。
「まあ素敵! あなたにはやっぱりこれがお似合いね!」
「先生も王都ではこういうのを着ていたわあ。あの頃に戻ってみたいなあ」
「す、すごくいいぞ。俺もそれがいい!」
ビーチェが着ているのは先日ルチアさんから借りたブラウスとプリーツスカートによく似たもので、太股がばっちり見える丈がさらに短いスカートでした。
「ええ、またミニスカだよ? みんなこういうのが
「それが
「あ…… 先生まだ大丈夫だと思うけれどなあ…… でも王都では流行っているし、若い時にそういうスカートを履いておいたほうがいいわよ」
「王都かあ…… それならこれも買おうかな」
王都という言葉に弱いビーチェでした。
若い子は都会に憧れるんでしょうねえ。
私は田舎の方が好きなんですけれど。
え? オバサンだから?
短いプリーツスカートは色違い三着も買ったようです。
ファビオ君へのお土産もしっかり買いました。
「はい、ジーノ。これ持ってて」
「ええ……」
両手にいっぱい紙袋を持つジーノ。
完全に荷物持ち係ですね。
バルみたいに物を宙に浮かせる術が使えればいいのですが、ジーノはまだそこまでの力がありません。
---
続いてやって来たのが下着売り場。
手前の方に男性向け下着売り場があったので、ビーチェが目にした物は……
「おい見ろよジーノ! これ紐と袋だけじゃん! あっ おまえには大き過ぎるか! あれなんて網で透けてるから丸見え? アッヒャッヒャッヒャ!」
「――そんなことはない」
男性向けセクシーランジェリーが展示されていたので、それらを指さして大笑い。
ジーノはボソッと抵抗。
「ちょっとあなた今何て言ったの!? おおお大き過ぎるってあわわわ……」
「まっ…… ビーチェってジーノのを見ちゃったの?」
「え? あっ あの、いや…… そんな気がするだけで別に…… あははは……」
ビーチェは川遊びで何度もジーノのアレを見ていただなんてとても言えないので適当に誤魔化していますが、ルチアさんとメリッサ先生には疑われてしまったようです。
「それより奥へ行って早く買い物を済まそうよ」
「そ、そうですわね……」
「先生がビーチェに可愛い下着を選んであげますよ。うふふ」
ビーチェは有耶無耶にしようと女性向け下着売り場へ行くのを二人に勧めました。
ジーノもそのまま着いていくが……
「あなたはそこで待っていなさい! エッチ!」
「え、エッチ!?」
「やーい、ジーノのエッチ」
ルチアさんとビーチェにエッチと言われてショックを受けるジーノ。
しかしメリッサ先生は……
「気にしなくて良いのよ。若い男の子はちょっとエッチなぐらいが健康的だから」
「あいや、はははは」
年上の綺麗なお姉さんにそう言われたら誰でもデレますよね。
ジーノは置いてけぼりで荷物を持ちながら待つことになりました。
男性向けセクシーランジェリー売り場の前で……
むほっ アレ象さんなんですか?
こっちのなんてレースのおぱんてぃではありませんか。
男性向けもいろいろあるんですねえ。
おや? ジーノを見つめている妖しげなおじさんが……
---
「ドひぇぇぇぇぇ! なんじゃこりゃああああ!!??」
女性向けの下着売り場へ入るなり、ビーチェが放った驚愕の声です。
見たことも無いようなセクシーなランジェリーがさっきの男性向けの比ではないほど並んでいて、自分が今まで履いていたぱんつとは何だったのかという反応です。
「これくらいは当たり前よ。アレッツォは物がなさ過ぎるから」
「こ、これ…… たぶんウルスラが履いてるヤツ……」
ビーチェは黒のTバックを手に取ってまじまじと見つめました。
ウルスラはお店で酔っ払ってよく脚を広げてパンチラさせてましたからねえ。
「
「先生はTバックの黒とか赤や紫も持ってるわ。若い子は普通よね」
「お母様も赤や黒がお好きね」
「え…… そうなの……? お母様も…… ううう……」
衝撃の事実を知ってしまったビーチェ。
ウルスラだけでなく親友や先生、そしてまさかルチアさんのお母さんまでTバックを履いているという……
わ、私は白のフルバックばかりですわよ。
あらいやだ恥ずかしい。つい口走ってしまいました……
「ビーチェもこの機会に履いてみなさいな。白だったらそんなに抵抗ないでしょ」
「う、うん…… 似合うのかな……」
「運動しているあなたには特にこれをお勧めするわ。綿百パーセントのTバック! お尻の周りがスッキリよ!」
ルチアさんが手に取ったのは、綿製Tバック5色セット!
二千リラとお手頃価格のようです。
「ああ、じゃあそれを……」
「あと白いのを何枚か買っておいたほうがいいわね。ブラも合うものを用意しないと…… あっ 店員さん! この子のバストサイズを測って頂けるかしら?」
「はい! かしこまりました! ではこちらへどうぞ!」
「ええああ、はい……」
近くにいた店員さんを呼び、グイグイと事を進めるルチアさん。
ビーチェは
服を脱ぎ、店員さんの前でぷるりんと晒すビーチェのお
「まあお客様! なんて形が良いお綺麗なバスト! もう理想的ですね。私、羨ましいです!」
「ああ、それはどうも……」
自分の胸がどうなのかあまり自覚していないビーチェ。
母親のナリさんも当たり前に大きくて綺麗なお胸をしてらっしゃるせいでしょうか。
「ふむふむ…… トップとアンダーの差が二十一センチ…… Fカップ寄りのEカップでございますね。承知しました! 当店は細かいサイズにも対応しておりますのでご案内させて頂きます!」
「あああえええ……」
こうして商売っ気旺盛な店員さんとルチアさんたちにブラジャー売り場へ連れて行かれ、当分ブラ選びに時間が掛かりましたとさ。
――そのころジーノは……
「ねえ、良いお尻してんじゃない…… あたしといいことしない?」
(なにこのおっさん…… 俺の尻触ってるううう。ビーチェ早く帰って来てくれエエ!)
さっき彼を見つめていた妖しいおじさんに、後ろからスリスリとお尻を触られていました。
見た目は髭の紳士なんですがね……
逃げたら迷子になるし、荷物はいっぱいだし、逃げようにも逃げられず……
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