第三話 ラ・カルボナーラ

 ビーチェの家、ペコラーロ家の家業はパスタ料理のお店。

 一階がお店で二階と三階が居住スペースになっています。

 店主はビーチェのお母さん、アンナリーザさんで皆はナリさんと呼んでいます。

 調理はナリさんとバル、ホールはビーチェと五つ下(十一歳)の弟ファビオ君がやってるんですよ。

 ナリさんとファビオ君がとっても可愛くて、二人を目当てに店に通うお客さんもいるくらい。

 ビーチェは明るく元気でとても親しみやすい看板娘なんですが、容姿人気ではお母さんと弟君のほうに分があるようですよ。


 普段は夕方からの営業なので、お昼を過ぎてナリさんは一人で仕込み調理を行っていました。

 そんな時、ビーチェたち三人が狩りから帰って来ました。


「ただいまおかあさーん!」


「あら、みんなおかえり。まあどうしたのそのお肉は?」


「修行してる時にたまたまジャイアントボアを見つけちゃってねえ。

 今日はジーノと二人だけでやっつけたんだ!」


「へえー 頑張ったのね。うふふ」


 ビーチェは優しいお母さんが大好き。

 何でも話して聞いてもらいたくて、小さな子供みたいですが仲良し親子は良いですね。


(ああ…… ナリさん、今日も可愛いなあ。二人の大きな子供がいるなんて思えないよ。好きな男がいるんだろうか。いやあそんな感じには見えないけれど、時々悲しい顔をしていて声を掛けづらいことがある。前の旦那を思い出しているんだろうか)


 バルはそんなヘタレなことを思いつつ、分けてもらった肉をナリさんに差し出してこう言いました。


「ナリさん、ヒレ肉がこれだけあるから今日はステーキを出そうよ」


「そうね。ビーチェ、の看板を開店の時に出しておいてね」


「はーい! でもあたしたちが食べる分は残しといて!」


「はいはい。明日はスカロッピーネ(イタリア風豚薄切り肉ソテー)にしましょうね」


「わーいやったあ!」


 ヒレ肉のスカロッピーネですって。美味しそう……

 私は見てるばかりで食べられない! 悔しいですう!


「いいなあ。俺もなんかかーちゃんに作ってもらわないと」


「ジーノのお母さんはお料理が得意ですものね。私も食べてみたいわあ」


「いやいや、ナリさんには叶わないよ」


「うふふふ。ありがとうね」


 ジーノはナリさんみたいな綺麗なお母さんに憧れているみたいですが、美味しい料理を当たり前に作ってくれる自分のお母さんに感謝しないといけませんよ。

 あっ この子、ビーチェの胸を見てからナリさんの胸を見て安心した顔になってます!

 ナリさんの胸はビーチェよりもう一回り大きいのですが、川で見たビーチェの生おっぱいからナリさんの生おっぱいを想像してるんでしょうか。

 それとも、ビーチェの胸の将来を想像してるんでしょうか。

 男の子ってそういうことは想像力が豊かなんですね。

 え? それは私の想像だって突っ込まないで下さいね。


「――さて、俺は家に帰るわ」


 ジーノが少し残念そうな顔で店の出入り口に向かって帰ろうとすると、ギイッと戸が開きました。

 どうやらビーチェの弟、ファビオ君が帰ってきたみたいです。

 するとジーノの顔はパッと明るくなりました。

 どうやら彼はファビオ君に会いたかったみたいですね。


「ただいまー! あっ みんな帰って来たんだね」


「おかえりファビオ」

「よう! おかえり!」

「おかえりー!」


 三人が挨拶するとジーノは……


「お、おかえり」


 ファビオ君の顔を見るなり照れています。

 それもそのはず、ファビオ君はナリさんによく似た超美少女的な男の子で、優しくて人当たりも良いから学校や街でも男女問わず大人気なんです。


「ジーノは学校休みだったんだね!」


「あ、ああ。学校は楽しかったか?」


「うん!」


 こんな可愛い無邪気な顔を見せられると卒倒してしまう女の子もいるようです。

 中には男の子でもジーノのように照れてしまう子も。

 わ、私は成人イケメン男子が好みですけれど……

 この子の場合は私でもどうにかなってしまいそうです。フンガフンガ


「みんな、そろそろ開店準備をしますから着替えてきてちょうだいね」


「「はーい!」」


 もう夕方になるので、ナリさんはみんなにそう声を掛けました。

 ビーチェとファビオは上の階へ、バルはすぐ近所にある裏通りの自宅へ戻ります。


「じゃあジーノ、またね。(ニコッ)」


「ああ、またな(ズッキューン!)」


 天然無垢なファビオ君の笑顔で、ジーノは胸に矢が突き刺さるような気持ちになってしまいました。

 天使ですよ天使!

 私も一瞬、どうかなっちゃいそうでしたよ。

 あ、天使は人間の空想で天界にいませんけれどね。


(か、可愛すぎるぅぅぅ!!

 ぬぬぬくううう! ビーチェが男でファビオが女の子だったら良かったのに!

 そしたら、そしたらぁぁ! はぁ…… 世の中そう上手くいかないものだなあ……)


 彼がビーチェと一緒にいる時では有り得ない反応ですね。

 ジーノの春はいつ誰と迎えるんでしょうか。うふふ


---


 ラ・カルボナーラが開店しました。

 店内はほぼ満席状態で活気があり、バルとビーチェが威勢良く声を掛けてます。


「ジャイアントボアヒレ肉ステーキ・チャーハンセット上がり!

 ビーチェ! 三番テーブルだ!」


「あいよお!」


 ナリさんとバルは厨房内で大忙し。

 ビーチェとファビオ君はホールであちこち動き回ったり、皿洗いもしています。

 それにしてもバルとビーチェは修行が終わった後にこれですからすごい体力ですね。

 今日はステーキ&パスタ各種、ステーキ&チャーハンのセットがよく出ているようです。

 チャーハンはバルの得意料理で、旅先で覚えたみたいですよ。


「お待ちぃ! ジャイアントボアヒレ肉ステーキ・チャーハンセットだよお!」


「おうビーチェ! 今日も元気がいいな!」


「あたしは元気が売り物だからねー! あっ おっちゃんには別料金ねっ」


「ガーッハッハッハ! ビーチェの元気なら金払ってもいいかもな!」


 こんな冗談でも言い合えるお客とお店の関係は素敵ですね。

 そこはビーチェの底抜けの明るさがあってのものでしょう。


「うんめえー! これだからバルのチャーハンと魔物肉はやめられねえ!」


「そうだろうそうだろう!!」


「これで今晩はかーちゃんとギンギンだぜ!」


「おいおい、今度はかーちゃんも連れてこいよな! 家族で揃って食え!」


ちげえねえ!  ぎゃっはっはっは! 

 今日は魔物肉の看板見てつい店に吸い込まれてしまった!

 時間が早いから家でも食うよ!」


「そうかそうか。それは良いことだ! 魔物肉はまだ当分あるからな!」


 そういうお客との下品な会話も飛び交ってますが、ファビオ君の教育に良くなさそう。

 ナリさんは苦笑いをしていますね。

 当のファビオ君はそんなこと耳に入らず、他のお客さんの相手をしています。


「お姉さん、いつもありがとう。はい、ボロネーゼお待ちどおさまです」


「あーん! ありがとう! ファビオ君今日も可愛いわねえ!」


「えへへ」


(ズッキューン! ま、毎度この笑顔でもうお腹いっぱいになるわ…… また来なくっちゃ)


 とまあ、ファビオ君は天然の笑顔で女性客のハートを射止めて常連客にしてしまうんです。

 ですがお店の中では良いことばかりではありません。

 ほら、酔っ払い男の二人組が隣のテーブルで食事をしている女性客に絡んでいるようですよ。


「へっへ。なあ姉ちゃんたち可愛いねえ。この後俺たちと飲み直さないかい?」


「そうだぜい。奢るからさあ」


「え…… いえ、遠慮します……」


「いやよ!」


「そう言わずにさあ!」


 そこへ鬼の形相をしたバルがやって来て、酔っ払い男二人の頭を両手で鷲づかみしました。

 ドスを利かせた声でゆっくりと喋ります。


「ぬん! おまえたち、俺がいる店でい度胸してるな。他のお客に迷惑をかけるんじゃねえ」


「あ痛たたた…… は、はい…… すみませんでした……」


「ごめんなさい……」


「よろしい。今度やったら出入り禁止にするからな」


 早い内の平和的解決ががバルのモットーなんですね。

 五年前にバルが来る前はナリさんと子供たちだけだったのでお酒は出していませんでしたが、お酒は良い収入になるのでそれからは出すようになったんです。

 バルが立ち去ると、女性客二人は憧憬しょうけいの眼差しでバルを見ていました。

 おじさんでもこういう細々としたサポートで若い女性にも人気があるようです。


---


 また別の日、いつものように修行が終わりバルがビーチェとジーノを連れて、ラ・カルボナーラまで帰って来ました。

 ジーノは昔から直接自分の家へ帰らずに、一旦ここへ寄るのが習慣になっています。


「お母さんただいまー って…… いないんだ。珍しいね」


「野菜を切ってる途中みたいだから、上にいるんじゃない?」


 ジーノが厨房を覗いてみると、そのようです。

 ナリさんは何らかでちょっとだけ上の階へ上がっているんでしょうね。


「そっか。――それよりさあ、おまえさっきから汗臭いんだよ。

 ウチでシャワー浴びていけ!」


「え……」


「そうだぞ。汗臭いと女の子に嫌われるぞ」


 そう言うバルは、こっそり魔法で服の汚れを落としているんです。

 本人にしか適用出来なくて、綺麗な服を着たばかりで汚れていない状態を記憶して、差分として汚れを落とせるんですね。ずるいです。


「だったら川で水浴びすれば良かったのに…… ブツブツ」


「だってあたしの裸…… いや、何でもない。早く行けってば!」


 ビーチェは先日の水浴びのことで、ジーノ以上にあれから性的に意識をし始めたようです。

 やっと大人の女として目覚めてきたのですね。

 ジーノは渋々と一階奥のシャワー室へ向かいました。


---


 アレッツォの街中は水道が整っており、どの家庭でもシャワーが出来るようになっています。

 魔力を込めた魔法石のカートリッジを使用してお湯も出るようになっているんですね。

 ジーノは子供の頃によくビーチェと一緒にシャワーを浴びていたので、ペコラーロ家のシャワー室まで勝手知ったるように進んで行きました。

 ジーノが脱衣室のドアを開けると……


「あっ……」


「あら、ジーノいらっしゃい。どうしたの?」


 なんと、ナリさんがすっぽんぽんで今からぱんつを履こうとしている時でした。

 ベタな展開ですよねえ。

 しかし何というダイナマイトボディ!

 そして年齢にそぐわない瑞々しく白い肌!

 十五歳の男の子が見て、平然としていられるはずがありませんよ!

 なのにナリさんったら何事もないように話しかけました。


「ん…… ビーチェが汗臭いからシャワー浴びろって怒るから……」


「うふふ、そうなのね。じゃあちょっと待ってて。今から服を着るから。

 厨房にいたら暑くて私もいっぱい汗を掻いちゃって、どうしてもシャワーを浴びたくなったの」


「――」


 ジーノはナリさんのおっぱいと股間とお尻ををガン見して無言で立ち尽くしていますが、ナリさんは気にしないでぱんつを履きました。


「懐かしいわ。昔はビーチェとファビオも一緒に四人でシャワーを浴びたこともあったわね。ちょっと狭かったけれど楽しかったなあ。うふふ」


(そういえばナリさんの裸を見るのは初めてじゃなかったんだ…… 小さかった頃だからよく覚えてないけれど…… それにしてもかーちゃんの裸と全然違うな)


 ナリさんはそう言いながら、たゆんたゆんのおっぱいにブラを装着しました。

 田舎なので色気が無い綿パン綿ブラですけれど。

 なるほど、ナリさんにとってはジーノも息子同然だということですね。

 そして大きくなっても小さな頃のままのジーノで。

 ナリさんのその感覚、ちょっと心配になってきますが彼のことを信用しきってるのでしょう。


「――そう、懐かしいですね。あはは……」


 ジーノのほうもまだ子供で、ビーチェの裸も見慣れていたこともあって理性を保てているようです。

 もしバルだったら抱きついているかも知れませんね。ひっひっひ

 おや、ナリさんは服を着終えたようです。

 ひよこの絵が描いてある可愛らしいエプロン姿はいいですね。


「さっ どうぞ。シャワー浴びてらっしゃい」


「――はい。ありがとうございます……」


 ナリさんが脱衣室から出てジーノとすれ違うと、彼女からの香りがふわっとジーノの鼻をくすぐる。


(わっ い匂い…… 何だろう? 香水じゃない、ミルクみたいな…… ふう…… 俺も服を脱ぐか……)


 ジーノはさっさと服を脱いで残りはぱんつだけになりました。

 何度見ても若い男の子の身体はいいもんですねえ。ふひ


(あ、あれ? ひっかかってぱんつ脱げない…… わっ!? 俺のコレがこんなに? ナリさんだぞ? ビーチェのかーちゃんだぞ? ううう…… どうして?)


 どうやらこの前ビーチェの裸を見たときよりも、ジーノのコレははち切れんばかりに元気になってしまったようです。

 これでジーノの成長がまた一歩。青春の一ページですね。うふふ

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