200層 園


200層まで来ると流石に人も居なくなる

どこを見ても岩ばかりの風景、ひたすらに

風が吹く音だけ、ここは本当にさびしい

前に一度だけ来たことあるが、孤独があまりに怖く、すぐに引き返した覚えがある


進んで行くと、地上世界の様な華やかな看板に「ドラゴンパラダイス」と書かれた建物があった。ここはドラゴンしか居ない動物園である


中に入ればそこは森、植物はあっても鳥や虫

バクテリアすらも居ない。居るのはドラゴンだけひたすら、ドラゴン。

猫みたいなのも二足歩行なのも絵本に出てくるようなのもみんなドラゴン…多分

初めて来たけど、ドラゴンっぽいのがあんま

居ねぇなここ、巨大な猫とかは居ても肝心のドラゴンっぽいのがあまり

ん?


「ちょっと!危ないですよプレート付けないと!」

「なんだ人間みたいなドラゴンも居るのか。

中々面白いもんだな」

「違うっ!私はただの飼育員!半竜だけど

飼育されてなぁい!!!」

「冗談だよ…そんな怒るなって」


飼育員は背中の翼を縮こませて「むっ」とした


「あ、プレートならいらんよ」

「え〜?パクっといかれちゃいますよぉ。

あなたうさぎなら特に」

「はいはい、ご心配ありがとさん」


僕はひらひら手を振って、先へ向かった


「へーうさぎそっくりなドラゴンもいるんだ。

マジでうさぎだなぁ。小屋まである」

柵に乗りながら、中を見るとそこにうさぎ。うさぎにしか見えないがドラゴン園に

うさぎがいるわけない。あれもドラゴンなのだろう。やたらとかわいいドラゴンだなぁ


「あれ、ドラゴンじゃ無くてただのうさぎだよ。うさぎちゃん」

横から誰かが言った。見ると、柵に肘を乗っけて、中を見てる女がいた


「ほら、あそこに黒いのがあるだろう。あれが

次元の狭間さ、あそこからうさぎが出てきちゃってね、危ないからここで保護してるんだよ」

指さした方向には確かに黒い割れ目があった

なるほど、じゃあただのうさぎか


「街と格好がやたら違うじゃないか。これから

お見合いにでも行くのかい?」

「覚えていてくれたんだね。街の外は危ないからね。こんな格好をしなきゃならんのだよ」


女は頬杖をついた。目はなぜかきらきら輝いて、西洋の鎧に腰には木刀、確かに変な格好だ


「その目のきらきらはなんだ」

「ああ、これ?カラコン、街の外では私、カラコンしてるんだ。いいっしょ」

女は人差し指を目尻に当て、きゅぴんと笑ってみせた


「…普通逆じゃないのか?」

「まあまあ、そんな事よりたこ焼き食べる?」


どこから取り出したのか、女はまだ湯気が出てるたこ焼きを左手で僕に近づけた


「ここにたこ焼きなんか売って無いはずだけど…」

「街から保存の術を使って持ってきたのさ。

あーむ…あひっ」

「顔を近づけて食べるな、行儀が悪い。

ま、ひとついただくか」


たこ焼きは普通の味だった。外はカリッとしてて、中はトロっとしている。ソースが虫歯になるのではと思うぐらい甘かった


「…もういっこたべよっかな」

「どうぞぉー」


1個食べると、止まらないもんで、気づいたらもう紙の容器は空だった


「ところでうさぎちゃんの耳に付いてるそれ

なに?ずっと気になってたんだけど」

「ああ、これ?」

言われてみて、やっと思い出した。そう言えばなぜかこのインカム、ずっと付いてたっけ


「気づいたら付いてたんだよ。わからんね」

「なんかボタンがついてる…えいっ」


女は止せばいいのに、インカムのボタンを押した。すると

【配信を開始します】

という音声と共に僕の左目に緑色の画面が出現した


「なんだこれ?視聴者数 0 だってよ」

「あ!それ!ダンジョン配信じゃん!つまり

インカムは配信機材だったのね。いいなぁ」

「はい…しん?」


途端、恥ずかしくて堪らなくなった


見られてるとなると急に


「いやぁぁぁぁっ!だめぇ!無理ぃ!!」

「あー!配信機材投げ捨てちゃダメだよぉ!

もう」


女は外したインカムをひょいと拾って、自分の顔に装着した


「やっほー☆目の前にいるのがうさぴょんでーす!初配信見てますかー?」

「や、やめろ!ぼ…私をうつすな!」


慌てて、顔を覆い隠す僕を女はにこにこ笑いながら、撮り続けた


「あ、視聴者がちょっとだけ増えたよ。じゅう…よにんかな」

「十四人!?」


ぎゅぅ…顔を見られたくないので、とりあえず女の足元にぴったり張り付いてみたり


「かわいいってコメントがちらほら来てるよ。

てか余計に恥ずかしくない?それ」

「だってぇ…」


だが、その時、僕のデバイスが振動した


起動して見ると、一通メールが来ていた


"うさぴょん様 196層にて 掲示板にあった人物と似た人物を発見。以上 "


メールの内容はそれだけだった


「196層か、近くて良かった。行くか」

「ちょ、ちょっと!もう行っちゃうの!?

この先に占いしてくれるドラゴンとか居るのに…」

「そんな事してる場合か!!」


乱れた服をきゅっと直し、深呼吸


「そうだ、あたしに乗って行きなよ!ほら」


女は屈んで、肩を指さした


「お言葉に甘えて…ほいっとね」

「ぐはぁ…」


乗ったら乗ったらで、女は倒れてしまった


「なんだよ、まさか言っといて無理だって言うんじゃ」

「おもぃっ…あんだ…めちゃくちゃおもい」

「はぁ?!」


すぐさま飛び降りたが、それでも女は立ち上がらなかった


「どうじでこんなにおもいのよぉ…私の膝ぐらいしか無いくせに」

「う、うるせぇ…!私は行くからなひとりで」

「の、の前にこれ…」


女はインカムを僕に投げた


「あだじは…そのうち…いく…ぐはぁ」

そして、手を伸ばしたまま動かなくなった


ほっといて、僕は園を出ていったのだった











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