第9章 寄付(募金)とは何だろう?
第36話 何も買わない消費
木々が色づき、枯れ葉が地面をいろどる小春日和の休日。
三人は、公園のベンチにこしかけ、コンビニで買ってきたホットドリンクを飲んでいた。小さな子どもたちが広場にある遊具で走り回って遊んでいる。風もなく、やわらかな陽の光が心地よい。
「ねぇ、パパってさ」
「ん、カノちゃん、なんだい?」
「さっき、コンビニのレジで、募金箱にお金入れていたよね。お金は少なくても大事なものなのに、どうして募金するの?」
カノは、首を傾げて聞いた。
「あ、見られていたか」
パパは、照れ隠しで頭をかく。
「ぼくも知っているよ。パパはスーパーとかでも募金箱におつりの小銭を入れているよね。お金はみんなが欲しがるものだし、生きていくのに大事なものなのにさ。ちょっと不思議だなぁって」
「あ、お兄ちゃん、それを言ったら、赤い羽根募金とかも不思議よ。わたし、友だちとみんなで駅前に立って、お願いしますーって声をあげたことあるの。進んで募金箱にお金を入れていく人がいたよ。中には、五百円玉や千円札を出す人もいてビックリしたんだ。どうして、みんな募金をするのだろう?」
「そうか。『寄付』というお金の使い方を教えてなかったね。ちょっとその話をしてみようか。ひなたぼっこを楽しみながら」
パパが言った言葉に、二人の子どもたちは嬉しそうな顔をした。
「うん。わたしね、お菓子をこっそり家から持ってきたんだ。それを食べながらね」
そう言って、カノは持っていた鞄からお菓子を出した。
「さてと、二人とも募金はしたことがあるでしょ?」
「うん。駅前で、犬の里親探しの募金をしたことがあるよー」
「ぼくは、震災の募金をした。あと、環境問題に興味があって……熱帯雨林の保護だったかの募金もしたことがあるよ」
「二人とも、少ない額かもしれないけど、募金にお金を使ったわけだね。それで、二人は何を手に入れたのかな? ちょっと考えてみよう」
パパは、二人に問いかける。
「むむっ。そう言われると……なんだろうなの」
「うーん。正直、何かものを手に入れてはいない……かなぁ」
「『寄付』のとらえ方は、人それぞれだと思うのだけど、パパは二つあると思う。ひとつ目は、『何も買わない消費』という感じかな」
「あ、確かに募金でお金を使うと、何かものが手元に残るわけではないよね」
ハルは、納得したように言った。
「何も買わないというよりも……なんというか、気持ちをあげる感じ。犬の里親探しの募金は、ワンちゃんがしあわせになって欲しいなって思って、募金したの。うまく言えないけど……」
カノは、自分の意見をパパたちに述べる。
「なるほど。カノちゃんは、自分の気持ちを表すために、お金を使ったんだね。これは大事なことだと、パパは思う。誕生日などで、家族や友だちにプレゼントをあげることがあるだろう。あれはプレゼントというものがあるけれど、基本的に自分の気持ちを表現している部分があるよね。大好きな人にプレゼントを贈ると、自分自身もあたたかい気持ちになる」
「そうよ。……あ、だからね。わかったわ。プレゼントという形ではなくて、お金のままで気持ちを伝えているのね」
カノは、嬉しそうな顔になって手を合わせた。
「そう。良い気づきだ。『寄付』は、お金の形のままプレゼントをしていると考えるといいだろう。寄付をする相手やその活動を好きだという気持ちをこめて募金をする。なので、自分自身、まったく損をしているとは思わないんじゃないかな」
パパは、そう言って二人の顔を見た。
「うん。震災の募金は、被害にあった人たちがすこしでも早く元の生活に戻れたらなぁって思ってしたよ。その……金額はあまり多くないけど」
ハルは、少し照れた顔で言う。
「『寄付』、つまり募金をするかしないかは、そのお金がどんなことに使われるのかで、人は判断する。地球環境の保全、貧しい子どもたちへの援助、震災といった自然災害からの復興、動物の保護など、『寄付』する先はいろいろだね。ハルくんたちは、その目的に少なからず共感できた時におそらく募金をしているはず。だから、何も買わない、何も手元に残らないお金の使い方だけど、気分は良くなると思う」
「あ、じゃあ、パパも同じなのね。コンビニでお釣りを募金するのは」
「そうだよ。少ない金額だとしても、多くの人が出し合えば、とても大きな金額になる。前にも言ったけど、お金はエネルギーだ。そのエネルギーで、ものを手に入れたり、人に働いてもらえたりができる。みんなの善意が、エネルギーとして集まるものが『寄付』であり『募金』なんだと思っている」
「『寄付』は『何も買わない消費』というのはわかったよ。ね、パパは、『寄付』のとらえ方は、二つあるって言っていたよね。もうひとつは?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます