第35話 貧困から抜け出すには(二)

「まぁ、パパは幸いにも利用したことがないけれど……例えば、銀行に預けてあるお金があれば、それを使ってくださいと、うながされるらしい。生活に利用していない土地や家があれば売ってとも言われるらしいんだ。他にも、親族、つまり家族や親せきから援助を受けることができる場合は、援助を受けてくれとも、うながされるそうだよ」


「……お金に困っているのが本当かどうか、調べられるんだね。なんだか大変だなぁ」


 ハルは、感想を述べた。


「それでやっと認められると、食費や光熱費、家賃の支援、教育費用などに使えるお金がもらえるんだ。最低生活費の額から今の収入を引いた額を保護費として毎月もらえるんだよ」


「なるほどー。でも、それじゃあ、がんばって収入が増えてきたら、生活保護でもらえるお金は減ってしまうのね」


 カノは、残念そうな顔をする。


「なんだか、生きていけるお金は補助してもらえるけど……『貧困』からぬけ出しにくいよね、それじゃあ」


 ハルも、納得がいかないようだ。


「それは問題になることだろうね。『生活保護』を受けている間は、収入の状況を報告しないといけない。だから、なんとかお金を稼げるようになってきても、そこで『生活保護』のお金を減らされたら、立ち直っていくのは厳しいかもしれないね。働けなくなって国から支給されたお金が、働けれるようになったら減らされるからね」


「まとまったお金ができるまでは、『生活保護』を受けてられるといいのにね」


 カノがお兄ちゃんを見て言った。


「そうだよね。ダムに水がある程度たまって、安心できてから支給を止めてもいいのに」


「そうはいっても、この『生活保護』で支給されるお金は、元は税金として国民みんなから集めたお金なんだ。だから、湯水のように使ってしまわれても困るわけさ。セーフティネット、いわゆる命づなとしての仕組みがあることは、大変ありがたいことなんだけどね」


 パパは、大事なことを説明した。


「そっか、助けてくれるお金の元は税金なんだ。それじゃ、税金を貯金にまわされたら……税金を納めた人たちはあんまり良い気分にならないよなぁ」


 ハルは、納得したようだ。


「ね、パパ。他にも『貧困』から抜け出すための方法はあるの?」


「抜け出す手助けをしてくれる団体はあるね。会社のように利益を求めるために活動をしているのではなく、非営利つまり儲けを目指さないで困っている人たちを助ける団体がある。例えば、離婚などの理由で、ひとり親で子どもを育てないといけない家庭の場合、小さな子どもが病気になったらどうなる?」


 パパは、二人に問う。


「えっと、看病のために会社を休まないといけないよね。保育園や幼稚園に病気の子どもがきたら大変だし」


 ハルが、答えた。


「病気になった子どもの看病を代わりにしてくれる人がいたら、ありがたいよね。そういう支援をしている団体があったりするんだ。直接『貧困』を解決してくれるわけではないけれど、すこしでもみんなが楽になるようにとね。他にも共同で住む場所を提供してくれる団体があるし、お金の問題に親身になってくれる弁護士もいる。貧しい子どもたちに美味しい食事を提供してくれる子ども食堂という活動もある。お金の問題は、誰にでも起こりえることだと理解している人たちが手を差し伸べてくれる」


「それは、心強いわ」


 カノは、嬉しそうな顔になる。


「ただし、時に『貧困』の人たちからお金を奪うように手を差し伸べる人たちもいる。残念ながらね」


 険しい顔をしてパパが言った。


「えっ? だって、お金に困っているのに、その人たちからお金を取ろうとするの? ひどいし、ムリだよ」


 ハルが述べた。


「さっき説明した『生活保護』のお金を狙って、ビジネスをする人たちがいるんだね。例えば、住むところや食事を提供するから、生活保護のお金から払ってくださいという感じかな。立ち直っていくために貯金ができればいいのだけど、それができないくらいの額だったらどうなる?」


 二人は、パパの説明を聞いた。カノが答える。


「あ、いつまでも『貧困』からぬけ出せなくて『生活保護』をもらい続けるしかないかも……」


「そうだね。でも、どうしてそんな奪うような人たちが出てくると思う?」


「えっと……。あ、たぶん、やっぱり……からじゃないかな」


 ハルは、もっとも大事な基本を述べる。


「そのとおり! ここでも、お金を払わそうとする仕組みが働いている。だから、お金をどういった価値と交換するかは、やはり自分で判断していかないといけないんだよ」


「……。やっぱり、お金って難しいね」


 カノは、小さくため息をついた。


「『貧困』になってしまうくらい悪い状態だと、きっと選べることも少なくて……あきらめ気味になってしまって、良い判断ができないかもだなぁ……。『貧困』って、とても難しい問題だ」


 ハルは、静かに言った。


「そうだよ。だからこそ、知っておいて欲しい。お金の問題は人生と結びついているということをね。じゃあ、今日はここまでにしよう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る