第34話 貧困からぬけ出すには

「『貧困』からぬけ出すには、どうしたらいいのか? これは、とても……難しい問題だ。『貧困』の状態になってしまった人は、それぞれで事情が違うことがほとんどだからね。でも、大事な問題だから、考えてみよう。キャッシュフローが大事なのは、もう理解したよね?」


「うん。大丈夫」


 カノは、大きくうなずいた。


「『貧困』の状態は、ダムに水がたまってなくて、入ってくる川も細くて……それでいて放水の量が多いんだよね……どうしたらいいのだろう」


 ハルは、つぶやく。


「何から手をつけていいのか分からないくらい難しい問題だね。まずは、重要な原因から取り除いて、少しずつ少しずつ状況を改善していくしかないだろう。『貧困』になっている状態は、お金に関していくつかの悪いことが起きている場合が多い。病気で働けなくなって、その上、借金の返済もあるといった感じだ。こうなると、『収入を安定させる・増やす』とか『支出を減らす』といった『貧困』にならないための予防方法だけでは、良くなるのは難しいんだ」


 パパは、説明した。


「そうだよね。『貧乏』な状態だった時に、そういうことは、すでにしてそうだもん」


 カノは、寂しそうに言う。


「……うまく言えないけど、えっと、自分たちで解決できない状況だとしたら、誰かに助けてもらうしかないんじゃないのかなぁ」


「そのとおり。誰かに助けてもらうことだ。ところで、ふたりは、『貧困』の状態にもしなったら、誰かに助けを求めることができるかな? 恥ずかしいと思わない?」


「えっ、だって、自分じゃどうにもならないんだよ。ぼくは気にならないよ。ちょっとカッコ悪いかもしれないけどさ」


「わたしは……恥ずかしいな。だって、お金のことでだれかに助けてもらおうってことは……自分はお金がありませんって、告白するようなものだもん」


「恥ずかしい、かっこ悪いと思う気持ちはおそらく出てくると思う。お金の管理を上手にできていないから、そんな状態になるのだろうって後ろ指をさされる気持ちになるかもしれない」


 パパは、カノの意見に付け加える。


「そう言われると……なんだか助けを求めることができないよ」


 今度はハルが寂しそうに言った。


「でもね、二人にはもう教えたとおり、社会で生きていくためにはお金が必要なんだ。自分の力ではどうにもならないことが起きて、お金が無くなってしまうことは起こりえる。そうなってしまった時に、恥ずかしいとか、人に迷惑をかけるからとか考えてしまって、助けを求められないのは危険だと思う。お金はエネルギーだ。エネルギーがない状態では、何も動かすことはできない。自分にエネルギーがない状態なら、外から補ってもらわないといけない。わかるかい?」


 パパは、やさしい声で説明した。


「うん……なんとなくわかった。生きていけるかどうかは、やっぱりお金のありなしが重要なのね」


「さて、助けを求める重要さがわかったところで、どこに助けを求めればいいのかだね」


 パパは、話を先に進める。


「そうだね。それを知らないと、『貧困』になってしまった時にどうにもならないよ」


 ハルは、うなずいた。


「その前に……『生活保護』という制度は知っているかい? まずはこの制度のことを話そう。日本国憲法第二十五条に『すべて国民は、健康で文化的な最低限の生活を営む権利を有する』とある」


「あ、それは学校で習ったよ」


 ハルが、答えた。


「健康で文化的な最低限の生活をする権利を、みんなは持っている。お金の問題でそれができない時、国が助けてくれる制度があるんだ。これを『生活保護』という。もうわかっているとおり、お金がないと、すぐに生活の問題となる」


 パパは、説明した。


「じゃあ、『貧困』になった時は、国が助けてくれるのね。安心だー」


 カノは、ホッとした顔になった。


「でも、最低限ってことは、生きていくのがどうにもならないくらいピンチな『貧困』は助けてくれそうだけど、なんとかやれている『貧乏』な状態はどうなんだろ?」


「『生活保護』は、資産や能力などすべてを活用しても生活に困っている人に対して、困っている程度に応じて保護をしてくれて、自立を助けてくれる制度。だから、『貧困』になっている人が対象になるね」


「その生活保護は、どうしたら利用できるの?」


 カノは、首を傾げて聞く。


「住んでいる地域の福祉事務所に行って相談や申請ができる。ここで注意しないといけないことがあるよ。資産や能力などをすべて活用しても生活に困っていることが、利用の条件なんだ。だから、その申請で、いろいろと聞かれるわけだ。家庭訪問があったり、銀行口座にお金がないのかの資産の調査をされたりがある。さっき話しに出てきた、恥ずかしい、カッコ悪いところを聞かれてしまうわけだよ。お金に関わることが全部ね」


「そっかぁ。それじゃあ、お金のことで自分や家族のことを聞かれるのが、恥だと思ってしまう人もいそうだなぁ」


 ハルは、納得したように言った。


「それに、資産や能力という、本当にお金を稼ぐことができないかどうかも確認される。資産は売ってお金にかえられないかも聞かれるらしい。働けていない理由も。もちろん貯金の有無もね」


 パパの説明に、カノが反応する。


「ってことは、お金にかえられるものは、みんなお金にしてくださいって言われるの?」

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