第32話 貧困になる理由
「ハルくんの言うとおり、『キャッシュフロー』のバランスが崩れると、たちまち貧乏になり、時には『貧困』になってしまう可能性があるんだ」
「バランスが崩れてしまうのって、どうして起きるの?」
カノは、真剣な顔でパパに質問する。
「ここから、バランスのくずれる原因、『貧困』になる理由を説明していくよ。『キャッシュフロー』のダムの話のとおり、大きく二つに分けられる。『収入が減る』と『支出が増える』だ。ダムに入ってくる水、つまり収入が減ってしまうと、お金を貯めるのが難しくなるのはわかるよね?」
「うん。ダムに入ってくる川が細くなっちゃうのね。それなら、水をためるのに時間かかるよー」
「そして、ダムから放水される水の量が増えてしまうと、ダムの水をためるのは難しいとわかるよね。支出が増えてしまう状態がこれだ」
「大きく穴が開いたバケツに、水をためるのはムリだよ。入れても、入れても、穴から出ていくって」
ハルは、例えを述べた。
「では、『収入が減る』という場合は、どんなことがあるだろう?」
パパは、二人に質問を投げかけた。
「……うーん。よくわからないなぁ」
カノは腕組みをして、考えている。
「サラリーマンの場合だと、会社がつぶれてしまうとか? ぼくもいまいち……だって、働いたことないからなぁ」
「確かにまだ働いたことがないと、イメージしづらいかもしれないね。いくつか例をあげてみようか。まずは、失業。ハルくんが言ったとおり、勤めている会社が倒産してしまうような場合や会社から解雇される場合だね」
「かいこって何?」
「会社をクビになることだよ。会社から、もうあなたは働かなくていいです。お給料も払いませんと言われてしまうことだ。会社自体が儲かっていないために、雇っている人を減らすといったことが実際にあるからね。これをリストラという」
「会社をクビになったら、どうしたらいいのだろう?」
ハルが、疑問を口にした。
「まぁ、そうなったら、他の勤め先を探すことになるね。失業してしまうと、これまで毎月もらえていた給料がなくなるわけだから、大ピンチだ。わかるね?」
「うん。ダムに流れこむ川の水がなくなっちゃうのね」
「それから、家族の中で、お金を稼いでいる人が病気や事故で働けなくなる場合も同じくらい、大ピンチだ。治療が短期間ですめば良いけど、長引くほどその間だけ収入が無くなってしまう」
「パパやママが病気になったら……大変だ」
カノは、心配そうな顔になる。
「それから、離婚もだね。例えば、父親が会社員で母親がパートの場合だと、離婚してしまった場合、母親側はパートでの収入だけになってしまう。ダムに流れこむ太い川がなくなり、細い川だけになってしまうわけだ。もちろん離婚の際に財産を分けられて貯金ができるかもしれない。子供たちの養育費をもう片方の親側が出すといった約束もするだろう。けれど、お金の不安は増える可能性が高い。養育費をとつぜん、払ってもらえなくなることもあり得るわけだからね。ある日突然にお金が足りない生活になるかもしれない」
「離婚は……子どものぼくたちからすると、とてもイヤだよ。パパもママもずっと仲良くしていてほしい」
「わたしもー。離婚はイヤよ」
「ありがとう。うちは大丈夫だよ。安心してね。さて、いくつか例をあげたとおり、家族の中でお金を稼ぐ人に何かトラブルが発生すると収入が減ってしまう。世の中、みんなサラリーマンというわけではないけれど、お給料をもらって生活を成り立たせている家族は多い。とつぜん、収入が思いのほか少なくなって、貯金を崩す生活になってしまうと、『貧乏』への道を進み、『貧困』にたどり着いてしてしまうことになる」
「わたし、普段そんなことを気にしたこともなかったなぁ」
カノは、感想を述べる。
「働いている大人が健康でいることも、家族が仲良くしていることも、お金の面からみても大事なことなんだね」
「次に、『支出が増える』という場合をみていこう。例えば、家族の病気。家族の誰かが重い病気にかかってしまった場合、治療費で大金が必要になることもある。それが家計の支出を増やしてしまう。特に、働き手が病気になってしまうとどうなる?」
「病気で治療費がかかる上に、働くこともできなくて、ダブルパンチだよ」
「そっか、うちだと、パパがもし病気になって入院になったら……大変だっ!」
ハルは、気づいて声をあげた。
「まぁ、そういったことに備えて、保険には入っているけどね。保険というのは、そういった事態に備えて、保険会社にお金を毎月払っているのさ。簡単にいうと、入院するといった事態になった時にお金がもらえるというものだよ」
「そっかー。そういうのがあるなら、すこし安心かな」
カノは、ホッとした顔になる。
「話をもどすと、支出が増えてしまうケースで、問題になるのが『借金』だ。前に話したとおり、『借金』は元のお金よりも多くのお金を払うことだと教えたね。だから、例えば、生活費が足りないからといって、借金で補ってしまうと、後々もっとつらくなってしまう。お金の知識もなく、後先考えずにお金を使ってしまって、足りないから借金をしてなんてことになると、坂道を転げるように『貧困』へと進んでしまう」
「やっぱり『借金』は、とても気をつけて利用しないといけない仕組みなんだね」
ハルは、確認する。
「そうだよ。『借金』をふくめたお金に対する知識はしっかり持っておこう。それから、支出が増えるケースで、ある程度予測できるものもある。例えば、生活費。ハルくんやカノちゃんが大きくなるにつれて、生活にかかるお金も増えていく。これはわかるかな?」
「うん。わかるよー。だって、お兄ちゃん最近、夕飯で大盛りご飯をおかわりしているもん。食費がかかっちゃうわ」
「う、うるさいなぁ。お腹がすくんだから仕方ないだろ」
「ハルくんは小学校のころは食が細かったから、今のようにガツガツ食べてくれるのはうれしいよ。特にママは喜んでいるよ」
「ほんと? よかったぁ」
「子どもが段々大きくなるにつれて、当然、食費は増えていく。それ以外にも洋服代、教育費などいろいろとお金はかかる。これは何も悪いことではない。子どもが大きくなるのは当たり前で、それにともなってお金もかかる。これを意識したキャッシュフローを作っていかないといけないんだよ。例えば、収入が少ないのに、ムリしてお金がかかる私立中学に進学するとかは、バランスを取るのが難くなるだろう。将来を考えて、収入と支出のバランスを取っていくことをサボってしまうと、お金で苦労することになるわけだ。将来かかるお金のために……前もって貯金をしておくことも重要だ」
「うん! お金はくさらない。保存が効くものだもんね」
カノは、自信をもって言った。
「ここまで話したことで何か気づいたことあるかい?」
「えっと……『貧困』ってひょっとして、誰でもなる可能性があるものなのかなぁと思った。家族の誰かが、病気になったり、事故にあったりしたら、一気にお金の問題が大きくなるのかなぁって。……もちろん、そんなことはあってほしくないのだけど」
ハルは、学んだことからの気付きを述べる。
「『貧困』というのは、自分たちの身にふりかかる可能性がある身近な問題なんだ。だから、今日はこのテーマをしっかり二人に伝えたいと思ったのさ」
「……パパ、ありがとう。……ね、その『貧困』にならないためには、どうしたらいいのかな?」
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