第27話 奨学金(二)
「奨学金は、どんな風に借りて、どんな風に返すの?」
カノが、聞いてきた。
「借りている期間は、毎月指定した自分の銀行口座に何万円といった一定額がふりこまれる形が一般的だね。返す時は、逆に毎月一定額が口座から引き落とされる」
パパが、説明する。
「返す時も何万円という金額なのかな?」
今度は、ハルが質問した。
「毎月返す時の金額は、借りていた時よりもかなり少ないよ。そのかわり、借りていた期間よりもかなり長い間、返していくことになる。パパは大学院の二年間で借りていたけど、返す期間は十四年くらいだった。毎月無理のない金額だったけれどね」
パパは、やさしく答えた。
「えー、そんなに長いの! びっくりだよ。お兄ちゃんの歳と同じだ」
「そう。これだけ長い間、借金を返すことが続く。奨学金を甘くみてはいけないんだよ。借りたお金を返すまで、しっかりお金を稼がなくてはいけないからね。それに社会に出れば、自分の生活費は自分で稼ぐことが当たり前。そこにさらに奨学金という『借金』を返すことが加わるわけだ」
パパは、真剣な顔で二人に伝える。
「うーん……ちょっと怖いなぁ。あ、それに、やっぱり返す時は、借りた金額よりも結果として多く払うんだよね?お金をもっと高いお金で買うのが『借金』だから……」
ハルは、不安そうにパパに尋ねた。
「奨学金は、『借りたお金=返すお金』という第一種と、ハルくんが言うように、『借りたお金<返すお金』となる第二種がある。他にも借金ではなくてお金がもらえる給付型もある。ただし、この給付型は金額が少ない。なので、学費や生活費としては足りないかもしれない」
「そうなんだー。もし借りるならわたしは第一種がいいわ。ぜったい損しないものー」
カノは、右手の人差し指を立てて言った。
「第一種で借りられるか、第二種になってしまうかは、条件があるんだ。それは学校の成績が良いこと。勉強をがんばっていて成績も良い人は、お得な奨学金を選ぶことができるんだ。給付型は、学校の成績が良いのはもちろん、世帯の収入や生活事情も考慮されるので、給付を受けられる人はかなり限定されるんだ」
「ね、どうして、成績が良い人はお得な奨学金の第一種を選ぶことができるのだろう?」
ハルは、疑問を口にする。
「それは今日のお話の最後で説明しよう。簡単に言うと、同じ金額を借りようとしても人によって、返す金額が異なるんだよ。つまり、お金をお金で買う時に、人によって値段が違うということが起きるのさ」
「うわっ、それは不思議だ。というか変なのー。自動販売機でペットボトルを買う時は、わたしでもお兄ちゃんでも同じ値段だよ」
「そうだよね。値段は原価と利益をたし算したものだよね。なのに、人によって値段が変わるなんておかしな話だ」
ハルも、カノの意見に同調した。
「まぁ、ちょっと話がそれてしまったね。奨学金は、『借金』だ。借りたお金を返すのは、社会に出て働き出してからだけど、そうとう長い間、一定額を返していかなくてはならなくなる。これは簡単なことではないんだ」
パパは、一息入れて続ける。
「ひとつには、学生の間に借りてしまうと言う点。自分の働く姿がまだ想像できない時から、人によっては多額の奨学金を借りてしまうことがある。家庭の事情などあるかもしれないけれどね。働き出してから、毎月こんなに奨学金を返さないといけないと嘆く人はいる。実際の生活が苦しくなる人もいる」
「確かに……自分がどんな仕事をして、どれくらいお金を稼げるのか分からないのに、たくさんお金を借りてしまうのは怖いなぁ……」
ハルは、不安そうな顔で言った。
「それから、そもそも奨学金は『借金』だと理解せずに、借りてしまう人もいる。勉強をがんばるためにお金がもらえると、勘違いしている場合もあるかもしれない。生活費として何も考えずに使ってしまう、自由なお金と思って使いこんでしまう。でも、実際はそうではない。ただの『借金』なんだ。中には、奨学金のお金が多額になって、それを返すために、将来の夢をあきらめる人もいるだろう。本来、金銭的な事情をのりこえて、進学をして、自分の夢をかなえるための奨学金が……足を引っ張ってしまうこともあるのさ」
「なんだか、かなしいね……」
カノは、落ち込んだ顔をする。
「最近、この問題が注目されて、なんとかしようという動きはあるけれどね。二人がもし奨学金を借りることになった場合は、今日の話を思い出してほしい。『奨学金』というのは、あつかいの難しい『借金』であることをね」
「うん。わかったよ……。とても大事なことを教えてもらったと思う」
「ぼくも。あらためて、お金は……怖いなぁ」
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