第28話 住宅ローン
「じゃあ、もうひとつの身近な『借金』のことも教えよう。こっちは、パパが現在、お金を返すためにがんばっている『借金』だよ」
「えーっ! ! うちに、『借金』があるの? 大変だよ、お兄ちゃん!」
「パパ、それはすぐに返し終わるものなの? どれくらいの金額になるの? なんだか、大学進学が急に心配になってきたよ」
ハルもカノも、不安そうな顔になっている。
「一般的なサラリーマンの家庭では、おそらく最大の『借金』だろうね。返すのには、まぁ、そうとう長い時間がかかる」
「ええっ! 最大って?」
カノは、目を大きくして驚く。
「しかも、そうとう時間がかかるって、さっきの奨学金よりも?」
「そうなるケースが多いかな。非常に高額で、返すための期間も長い間場合があるね。インターネットで簡単に調べたかぎりだけど、平均の金額が二千五百万円で、返す期間が平均二十五年だ」
パパは、手元にあるスマートフォンを確認しながら答えた。
「……二千五百万円! あわわ、それって、えっと、一万円札が……二千五百枚? 見たことないよ!」
「二十五年も返し続けるなんて……赤ちゃんが社会人になってしまうくらいだよね。長いって! なんで、そんなに高額で、返すのに時間もかかる『借金』をすることになるの?」
ハルは、問いただす。
「ね、びっくり、おどろきだろ? 何のための『借金』か? それは、一生に一度の買い物である家を買うためなんだよ。いま、ハルくんとカノちゃんが住んでいるこの家を買うために、パパは銀行からお金を借りたんだ。ハルくんが小学校に上がるちょっと前くらいにね。引越しをしたのを覚えているかい?」
パパは、優しい声で伝える。
「……うん。新しくて広い家に住むことになって、とってもうれしかったのを覚えているよ」
「わたしは、前のおうちはほとんど覚えてないよー。小さかったから」
「家を買うために、借りるならお金のことを『住宅ローン』っていうんだよ。正確には、銀行が用意してくれる『家を買うために貸してくれるお金』だ。どうしてお金を借りてまで、家を買ったと思う?」
パパは、二人に質問した。
「えっと、なんでパパが借金をしてまで、おうちを買ったのか、その謎を考えるのね。うーん……」
しばらく沈黙が流れる。二人は、真剣に考えていた。
「…………。たぶん、ぼくらが産まれたからじゃないかなぁ」
「えっ? えーっ! わたしたちのせいなの?」
カノは、お兄ちゃんの言葉にひどく驚く。
「いや、なんていうか……。たぶん、パパとママだけだったら、そんなに広い家はいらないかもしれないけれど……家族が増えたら、広い家が必要になるからじゃないかなぁ」
「そう、正解。パパとママは、ハルくんとカノちゃんという子どもができたから、二人の成長を見守れる広い家が欲しくなったのさ。子どもは、どんどん大きくなるからね」
「広いおうちを買うのに、銀行にお金を借りないとダメだったの? 足りなかったの?」
カノが、疑問を伝える。
「胸を張って言うことではないけれど、足りなかったんだよ。もちろん、お家を買うために、パパとママで貯めていたお金はあったけれどね。それだけでは買えなかった。だから、銀行にお金を貸してもらって、足りない分は『住宅ローン』を払うことにしたのさ。毎月、決まった額を返しているよ」
「その時に必要だったから、お金をお金で買う、つまり『借金』をしたんだね」
ハルは、理解を示した。
「そうだよ。子どもがいるから家を買わないといけないというわけではないけれど、ママと話し合った結果、決めたんだ。家賃を払い続けるくらいの金額よりも少ない返済で、お家を買えるなら良いと判断したんだよ」
「じゃ、このおうちは……まだお金を払っている途中でもあるのね。そこに住んでいるって、なんだか不思議」
カノは感想を述べる。
「『借金』で買ったものは、たしかに奇妙な感覚だね。すでに手に入って、そのものを楽しんでいるのに、お金は後で払うから。なので、このお家は大切にしてくれよ」
パパは、二人の顔を見て言った。
「うん。あ、ちょっと思った。楽しむのとお金を払うのは、ズレていることが多いかも。だって、レストランで食事をするのはお金を払う前だし、逆に、ディズニーランドとか映画館とかは、先にお金を払って入場だよ」
「お、それはなかなかするどい観察だ。お金を払うタイミングがいつなのかは確かに面白い勉強になると思うよ。レストランでも食券を先に買うシステムのところもあるね」
パパは、ハルの意見を肯定する。
「ね、『奨学金』と『住宅ローン』、理解できたと思うよ。この二つがわたしたちも将来のするかもしれない『借金』なのね。ちょっと怖いけれど、今教えてもらえて良かったなぁと思う。それに難しかったけれど」
「うん。『借金』って怖いなって。でも、何も知らないよりは、ずっと良いよね。お金のことを勉強するのって、やっぱりとても大事だなぁ」
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