第23話 自分が好きなことで
「パパ、『不労所得』という特別なお金の稼ぎ方もわかったけど、それでもミュージシャンとか作家とかはお仕事をするわけでしょ? パパみたいに会社員で働くにしても、会社はたくさんあるし、中での仕事もきっといろいろありそうだし……。大人になったら、どんな仕事をしたらいいのかな? 自分にあった仕事ってどうやって見つけるの?」
カノは、疑問をパパにぶつける。
「将来の夢は?って聞かれることあるけど、正直、よくわからない。興味のあること、好きなことは、いろいろあるよ。でも、大人になったら生活していくためにお金を稼がないといけない。たくさんある仕事の中から、自分が好きなことを選んだ方がいいのかな? それとも、たくさんお金がもらえる仕事を、選んだ方がいいのかな?」
ハルも、同様だった。
「そうだなぁ。お金がたくさんあれば、生活の不安は少なくなるだろうね。だからといって、お金がたくさんもらえる仕事につけばいいかというとそう簡単でもない。どの仕事も最初から大金が手に入るということは、ほとんどないと思う」
パパは、一息入れると続ける。
「ミュージシャンや作家だって、人気がなくて作品が売れなくて苦労する時期があるだろう。そこで、あきらめてしまうかもしれない。医者や弁護士みたいに特定の専門職になるには、資格を取るためにそうとう勉強しないといけないね。会社員だって、最初は新人。いろいろな経験をして、仕事をこなせるようになって、まわりから評価されるようになってから、お給料が上がっていくものだ。会社を作る、つまり起業して社長になったとしても、すぐに大儲けとはならないだろう」
「じゃ、どうしたらいいの? お金を得るために、お仕事をしないといけないわけでしょ?」
「大事なのは、『自分が好きなこと』だよ。自分が夢中になれる、好きなことを仕事にするんだ。そして、その好きなことで、『誰かの役に立つこと』だ。好きなことだけをしていても、お金はもらえない。誰かに価値を提供するから、お金が手に入るんだ。もう二人とも分かるだろう」
「……うん」
「何かの価値を提供するから、お金という便利なツールがもらえるんだよね」
ハルが、確認する。
「そうだよ。だから、『誰かの役に立つこと』がまずあって、そのことが『自分が好きなこと』であると苦労も楽しめるだろうね。だから、『自分が好きなこと』を知るのは、とても大切だ」
「ぼくは……たくさんお金をかせいで、不安がない生活ができたらと思うよ。大人になって仕事をする前に、何をしたらいいのだろう。今から何か準備できることってあるのかな? 好きなことって、どうやってわかるのだろう?」
「『自分が好きなこと』って、簡単なようで難しい気がするよー。それに『誰かの役に立つこと』でもないといけないのよね」
カノは、確認する。
「まぁ、『誰かの役に立つこと』はひとまず置いておこう。ハルくんやカノちゃんくらいの時には、『自分が好きなことは何か』を知る方が大事だ。」
そう言って、パパは続けて二人に問う。
「ここで、二人に聞いてみたい。あるところに、花屋が二軒ありました。一軒目は、花が大好きな店員いるお店。もう一軒は、花は売り物としか考えていない店員のお店。お花を買うとしたら、どちらのお店で買いたいかな? 売っている花の値段は全く同じとしてね」
「えーっ、そんなの花が大好きな店員さんがいるお店でしょ。花言葉も喜んで教えてくれそうだもん」
「ぼくもそっちがいいな。お花の手入れの仕方とか、たくさん教えてくれそうだ」
「あ、パパが言いたいのはそういうことね。大好きなことを仕事にしていると、お客さんにとっても、魅力的に見えるのね」
カノは、パパが意味したことを理解して顔を輝かせる。
「そう。大好きなことをしていると、人はとても魅力的に見える。顔の良し悪しや年齢とか関係なくね。それに自分の好きなことをしているわけだから、より良くするために工夫をすることも進んでできるだろう。誰かにその良さを伝えるのも、面白く話せるだろうね」
パパは、ニッコリした顔で述べた。
「そっかぁ、『自分が好きなこと』って大事なんだね。誰かに価値を提供するにしても、それが自然にできそう」
「ねぇーパパ、『自分が好きなこと』はどうやってわかるの? 何か方法はあるの?」
カノは、また質問する。
「そのことをしているだけで楽しいこと。誰かに評価されなくても、それをしているだけで落ち着けるものだね。ワクワクドキドキと興奮するものではなくてね」
「ワクワクドキドキするのも好きなことだと思うけど、違うの?」
ハルは、首を傾げる。
「ちょっと違う。そうだなぁ。例えば、無人島で独りになったとしても、やりたいことかな? と考えるのが良いね。誰かに見てもらえなくても、長い時間、静かな心で夢中になれることが、本当に『自分が好きなこと』なんだよ」
「ふうん。わたし、そんなことあるかなぁ、どうだろうー」
「どうして、パパは今、そのことを教えてくれるの?」
「『自分が好きなこと』に本当に気づくのは意外と難しい。パパなんかは、大人になって働くようになってから、ある時、気づいたんだね。今している仕事も好きだけど、本当にやりたいことはこれだってね。だから、二人には早いうちに気づいて欲しいんだ。自分が好きなことを知って、自分で決めて、それを信じて行動する。それが人生の楽しさだと思うし、自由だと思うんだ。まぁ、ちょっと難しい話だったかもしれないけどね」
「……パパ、ありがとう。ちょっとまだわからないところもあるお話だったけど、『自分が好きなこと』を見つけるって、とても大事だとわかったわ」
カノは、微笑む。
「仕事とお金の関係は……よくわかって、すっきりしたよ。また、お金のこと教えてほしいな」
「よし。じゃ、今日のお金の話はこれくらいにしておこう」
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