第22話 不労所得

「なんとね、働かなくてもお金がもらえる方法もある」


 パパが、驚くことを言った。


「えーっ! ほんとっ? わたし、その方法がいいなー」


「働かなくてもお金がもらえるなんて、すごい。そんなことってできるのかな?」


 二人は、驚いている。


「その方法で、生活に必要なお金を稼ぐのは大変だけどね。うまくいくと自分は働かなくてもいいから、自由な時間が増える。のんびりしていても、遊んでいても、お金が手に入るんだ。これを『不労所得』という」


「ふろーしょとく?」


 カノは、復唱した。


「さっき言ったとおり、働かないで手に入るお金という意味だよ」


「どうやって、働かなくてもお金が手に入るのだろう? 何かしら価値を提供するから、お金が手に入るんだよね。価値を提供するのが仕事だと思っていたけれど……」


 ハルは、考えながら言った。


「ハルくんがイメージしているとおり、何かしらの価値を誰かに提供することは、仕事とみていいだろうね。パパをふくめたサラリーマンは、会社という組織の中で仕事をして、その価値を会社やそのお客様に提供している。でも、それ以外にもお金を得る方法があるのさ」


 そう言うと、パパはお茶を一口すする。


「はやく、教えてよ、パパ」


 カノは、催促する。


「じゃあ、先に具体例をあげよう。まず、ロックバンドやアイドルが歌う音楽の楽曲。それから、小説家やマンガ家が作る物語。これらの作品は、商品として売れたらその一部が作った人のお金になる。印税という仕組みがあるのさ」


「いんぜい?」


 カノは、首を傾げて聞く。


「人気ロックバンドの楽曲は、ネットで購入されてダウンロードされたり、CDが売れたりするたびにお金が入るんだよ。その商品の値段の一割くらいかな。同じように、小説家やマンガ家も電子書籍や単行本で作品が売れるたびに、一定の割合でお金が入る。順調に売れてくれれば、本人は何もしなくても、お金が振り込まれて、銀行の残高、つまり預けているお金が増えていくのさ」


 パパは、説明した。


「それは、本人が働いているわけではないから……えっと、その作品が働いているということなのかな?」


 ハルは、自分の考えを述べた。


「なかなかするどいね。そう、この場合は楽曲や物語という作品が、価値を提供しているんだね。音楽を聞いて気分が落ち着けたり、物語を読んで感動したり。そういった価値を提供している。それに楽曲や本は簡単に複製ができるから、商品として簡単に準備できる面がある」


「なるほどー」


 カノは、うなずく。


「じゃあさ、人気マンガの単行本が百万部突破とかしたら、作者にはいくらくらい入るのだろう?」


 ハルが、尋ねた。


「そうだなぁ、仮にだけれど、単行本一冊五百円で、作者に入る印税は仮に十パーセントとすると、一冊あたり五十円だね。これが百万部だから、五千万円になるかな」


 パパが、簡単に計算してみた結果を述べた。


「うわー、すごい。大金だよ!」


 目を大きくしてカノは、驚いた。


「まぁマンガを作るのは大変な作業だけど、一度作り上げてしまえば、あとは人気しだいで大金が手に入るかもしれないのは事実だね」


「他にも『不労所得』として、お金が手に入るものってあるのかな?」


 ハルは、興味が尽きないようだ。


「わかりやすいものだと、家賃収入がある」


「やちん? 家賃って何?」


 カノは知らない言葉だった。


「住む家には、大きく二種類あるのさ。ひとつは大金で購入して自分のものにして住むというもの。もうひとつは、誰かが貸してくれている家に住むというもの。家賃は貸してくれる家に住むと発生する料金だね。その家の利用料みたいなものと思うといいね。毎月払うのが家賃。家を持っていない人に住む場所という価値を提供しているから、お金がもらえるというわけだ。この場合は、マンションやアパートといったものを貸し出している大家さんに、借りている人から払われる形になる」


 パパが説明した。そして、お茶を一口飲む。


「そっか、大家さんは自分が何もしなくても、貸しているマンションやアパートに人が住んでいればお金が払われるんだね」


 ハルは、納得したようだ。


「それいいねっ! なんか、わかってきたよ。自分が何もしなくても……代わりに何か価値を提供できれば、お金がもらえるのね」


「だから、『不労所得』なんだね。自分の代わりに価値を提供して、お金が自動で入ってくる仕組みがあれば……働かなくてもいいんだ。うーん、すごい。面白いなぁ」


 ハルも、うんうんとうなずく。


「もっともそうなるためには、投資が必要だよ。マンションやアパートを所有しなくては、誰かに貸し出しはできないよね? これにはすごい額の大金が必要になる。音楽やマンガだって、作品を仕上げるのにも苦労するだろうし、それが人気にならないと大金は手に入らない。とても難しいところだ。運も必要かもしれない。でも、お金の知識を身につけて、どうやって自分の代わりに価値を提供して、自動でお金が手に入るようにするかは、考えてみると面白いよ」


「えーっ、とっても難しそうだよー」


「ぼくにもまだ難しそうだな。でも、ゲームの中で、キャラクターを動かしてアイテムを集めて、売るのをよくやるのだけど、これを自動化すればいいのかって思ったよ」


「なるべく自分が関わらずに、自動化してお金が入ってくる仕組みができれば、『不労所得』だろうね。あとは、みんなが提供される価値を認めてくれるかだね。ゲームの中では、何もいわずにアイテムを買い取ってくれるだろ? 現実は、なかなかそう上手くはいかないんだ。さて、どうしてでしょうか?」


「はいっ! みんな、お金が欲しいからです。欲しくもないものには、お金を払いません!」


 カノは、手を挙げて答える。


「正解!」


「そっか。ゲームの中ではボタンひとつで簡単だけど、実は売ることって難しいのかも」


「『不労所得』でお金を増やしたいと考えるなら、時給でただただ働くよりも、アイデアと行動力が必要となるだろうね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る