第17話 投資
「では、『投資』の話を、ちょっと身近な例で考えてみようか」
パパは、次の話題に移ると宣言した。
「『投資』が上手なお金の使い方になるのかな?」
ハルは、問いかける。
「『消費』もさっき話したとおり、必要かどうかを見きわめることができれば十分上手な使い方だと思うよ。無駄使いしない心がまえができるだけでも、お金を節約して貯金できるだろうね。でも、『投資』は、お金がもっと増えるかもしれないから、より上手な使い方ともいえる。そして、『消費』よりも、難しいと思う。『消費』もいたるところにあるけれど、『投資』もいたるところにあるんだよ」
「ほんとに? わたし、『投資』なんて言葉、聞いたことないよ。今日が初めてかもだよ」
「たしかに『投資』という言葉は、学校生活ではほとんど聞かないだろうね。でも、『投資』というのは非常に大事なんだよ。これから話すことをしっかり覚えておいてくれると、うれしい」
「……うん」
「……はい」
「まぁ、固くならないで、気楽に聞いてくれていいんだけどね。『投資』は将来お金が増えるかもしれないと期待して、お金を使うことだと説明したね。すこし言いかえると、お金が増えるかもしれないということは、価値が増えるかもしれないということだ。価値は、お金で測れるものだとも前に教えたね。価値とは、豊かさともいえる。豊かさは、面倒なことは簡単にすませられて、より自由になれることともいえる。ここまではいいかい?」
「うん。つまり、世の中の価値を増やすことにつながるのが、『投資』ということなんだね。失敗するかもしれないけれど……」
ハルは、理解を示す。
「失敗したらお金が減ってしまうよねー。価値を増やすのは大変そうに感じるわ」
「極端なことを言ってしまえば、世の中の価値、豊かさを増やすためにチャレンジすることが『投資』なんだ。もちろん、値段の原価割れの話のようにお金が減って、豊かさが増えないということもある。でも、大成功した『投資』は世界を変えることもあるんだ」
「なんか、聞いているとワクワクしてくるね。面白そう」
ハルは、強く興味を持ったようだ。
「投資をしたことで、将来増えるお金や価値のことをリターンという。リターンを期待して、お金を『投資』として使うわけだ。おにぎりの話のように、原価+利益で売れて、お金が単純に増えたと実感できるよね。でも、これだけではないんだ。リターンは、もっと長い時間をみて考えることが大切だ」
「長い時間……? 半年とか一年間とか?」
カノは尋ねた。
「うーん、もっと長い時間の場合が多いかもしれないね。十年とか二十年とか」
パパは、答えた。
「えっ、そんなに長い間待たないとリターンがもらえない『投資』もあるってこと?」
ハルは驚く。
「わたしの年齢よりも長いよっ!」
「例えば、高速道路や鉄道を作るなんてのは、長い時間がかかるだろ? でも、それが出来上がると便利になって、その道路や鉄道に関係する街は発展することが期待できる。何年もかけて作って、その投資の結果が出るのもまた何年、十数年の先だ。でも、そういった投資をすることで、人やモノが集まりやすくなって世の中が良くなっていく」
「……なるほど。でも、それってどれくらいお金が増えたのか、計算するのが難しそう」
ハルは、感想を述べた。
「まぁ、そういった計算は専門家に任せるとして、ここで言いたいのは、『投資』のリターンはお金だけではないということだ。もちろん、価値はお金で測ることができるから、増えたかどうかは金額で表現するとわかりやすいだろうけどね」
「何年も『投資』をして、うまくいかなかったら……大失敗だね」
カノは、ぶるぶると身体を震わせた。
「無理やり作った空港が赤字で、儲かっていないなんてこともあるからね。でも、東海道新幹線の様に主要都市を結ぶ高速鉄道ができたおかげで、日本が発展してきた例もある」
「そうすると、『投資』は必ずしも、賢いお金の使い方にはならないんだね。損をしてしまうこともあるから」
ハルは、確認する。
「そうだよ。『投資』はより上手な使い方と説明をしたけど、同時に難しい使い方でもある。お金が期待どおりに増えるかは、時間が経ったあとの結果しだいだからね」
「もっと身近な『投資』はあるの? 子どもでも、これは『投資』なのよと言えるようなのがいいな。無駄使いじゃないもんと言えるから」
カノは、身近な投資がないかと問うた。
「あ、それは、ぼくも知りたい」
「これは確実に『投資』だと言えるのは、『本』だと思う。作者が自分の経験や取材して集めた情報をつめこんだ知識や考え方の結晶だ。本を読むことで、それを得ることができる。目に見える形ではないけれど、知識が身についたり、自分の経験と照らし合わせて、違う考え方や見方ができるようになったりと良いことが多い。他のものに比べたら、安いものだ。もちろん、小説といった物語も、人の心や生き方を感じられる貴重なものだね」
「だから、パパもママも、わたしに本を読みなさいというのねー」
「ってことは、図書館なんか、無料で本が借りて読めるよ。すごいお得ってことだね」
「図書館の利用は無料だけど、図書館をやっていくにはやっぱりお金はかかっているんだよ。でも、そのお金は、税金からまかなわれている。図書館で働く人のお給料や新しい本を買うためのお金とかね」
「ぜーきんってよくわからないけど、じゃ、図書館はなんで本を貸し出すのを無料にしているの?」
「それは、やっぱり『投資』なんだ。その地域に住む人たちが本を読んで、心が豊かになって、頭も良くなってくれたら、いろいろ良い効果がありそうでしょ?」
パパは、説明した。
「じゃあ、ひょっとして……学校も?」
「そうだよ。小学校、中学校の義務教育は公立に通えば、あまりお金はかからない。学校という場は、子どもたちが将来、大人になった時に社会で活躍できるための基礎づくりをする場なんだ。だから、そこにかかるお金に税金が使われている。それはつまり、大人たちが働いて稼いだお金の一部を子どもたちに『投資』しているとも言える」
「……そうなんだ。わたし、あんまり勉強好きじゃないけど……がんばろうかな」
「パパが今、ぼくらにしてくれるお金の話の授業も、きっと『投資』だよね。お金のことは、社会に出てからとても大事だから……」
「まぁ、二人が大人になった時、役立つ知識として覚えておいてほしいと思っているよ。それに、できれば、これをきっかけに自分から学ぶことの大切さを知ってほしい。学んだり、経験したりすることは、自分への一番の投資だからね」
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