第4章 価値とは何だろう?

第10話 価値はどうやって決まる?

 白い雲と青い空が強烈な色を放つ休日。三人は暑さから逃れるようにファミリーレストランに入る。


 四人がけの席を案内され、「注文がお決まりになりましたら、ボタンでお呼びください」の声とともにウエイトレスがお冷やを置いていった。


 ママは、田舎から出てきた親戚を案内する東京観光に出かけていた。


 残されたパパ、ハル、カノはランチを食べにやってきたのだ。水の冷たさがのどに心地よい。店内のエアコンも、ほどよく身体から熱をうばい、外の暑さを忘れさせてくれる。おのおのが好きなものを注文すると……。


「パパ、またお金の授業、よろしくおねがいしまーす」


「ぼくは、『ものの値段がどうやって決まるのか』を知りたいな。お金は価値を測るツールだって前に教えてもらったけれど、具体的にどうやって価値が決まるのかを教えてほしい」


「わたしも知りたい。お金のことを教えもらってからさ……気になりだしているんだよー。なんで、ペットボトルのドリンクは百六十円なの? どうして、マンガの単行本は五百円なの? どうして、注文したハンバーグランチセットは九百八十円なの? ってね」


「値段がどうやって決まるのかは、確かに気になるテーマだね。今日はお昼を食べながら、その話をしようか」


 パパは二人の要望に応えることにした。


「きっと話が長くなるから、デザートも必要ね!」


 カノは、ニッコリとおねだりする。


「あ、いやぁ、そんなにパパお金持ってないぞ……。最初に、『値段』について考えてみようか。同じものなのに、値段が違うってことはあるかな?」


「……あるよ。ペットボトルのドリンクの値段って、スーパー、コンビニ、自動販売機でちょこちょこ違う。コンビニだと百六十円しているのが、スーパーだと百円になっていることもある」


 ハルは、確かめながら答えた。


「バーゲンとかセールになると、同じ洋服でも安くなるよー」


 カノも、自信満々に答える。


「同じものなのに値段が変わることがある。価格の決まり方はあとで説明するけれど、値段が変わっているとどう感じる?」


「わたしは、安くなっていたら、洋服なんかだと欲しくなっちゃうな」


「ぼくは、スーパーとコンビニが近かったら、スーパーでペットボトル買う方が得って思っちゃうなぁ」


「まったく同じものなのに、お店によって値段がちがう。不思議だよね。その理由もあとで説明するとして……値段が高いなぁと感じたり、安いなぁと感じたりするのはね、自分に値段の基準を持っているからなんだ」


「基準? どういうこと?」


 カノが、問いかける。


「例えばね、ペットボトルをスーパーで毎回、百円くらいで買っている人は、値段の基準が百円。でも自動販売機やコンビニで百六十円で買っている人は、基準が百六十円。その基準があるから、スーパーで買っている人は、自動販売機での値段である百六十円が高く感じる。逆にコンビニや自動販売機で買う人にとっては、ふと立ち寄ったスーパーで買う百円のペットボトルは、すごくお買い得なわけだ」


「あ、つまり、これはこれくらいの値段だっていう記憶や思いこみがあるってこと?」


 ハルは、確かめたくて聞く。


「そうだよ。だから、同じものなのに、人によって高いと感じたり安いと感じたりする。特に日常的に買うものは、その感覚がはたらくものさ。ママなんか、牛乳や卵の値段にはかなり敏感だと思うよ」


「普段買わないものの場合はどうなのー?」


「その場合は、その商品の定価が基準になるだろうね。商品を作ったメーカー、つまり会社が決めた値段だったり、お店が決めた値段だったりだ。例えば洋服で定価五千円となっていたのが、バーゲンセールで二千五百円になっていたら、半額ですごくお得に感じるわけなんだ」


「高いか安いかは、相対的な問題だから、基準の値段がポイントってことかぁ」


 ハルは納得したようにつぶやいた。


「この基準の値段は、人によって違うし、持っているお金の額でも違う。仮にいま、カノちゃんが千円しか持っていなくて、五百円のものを買うかな?」


「えーっ、お金が半分になっちゃうから、かなり迷うと思うよ。どうしようかなーとずっと悩みそう」


「では、持っているお金が千円ではなくて、仮に十万円だったとしたら……五百円のものはどう?」


 パパは、また問いかける。


「じゅ、十万円! そんなにあったら、五百円のものなんてすぐ買っちゃうよ。悩まない、悩まない」


「五百円使ったとしても、持っているお金の残りがたっぷりだから、気になんないよね。確かに、持っているお金の額で、感覚は変わりそう」


 ハルも、カノと同じ気持ちのようだ。


「なので、二人に気をつけてほしいことがある。高いと感じた時、安いと感じた時、自分の基準の値段はどれくらいなのか、どうしてそう思うのかを意識してみてほしい。単純に定価の半額だからだって飛びつくのではなくて、このものはこの値段でおかしくないのかと考えてみるんだ」


 パパは、説いた。そして、お冷やを一口飲む。


「でも、パパ。そう考えるためには、値段がどうやって決まるのか、ぼくらが知らないと無理だよ」


「そのとおり。じゃ、値段がどうやって決まるかの話に移ろう」

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